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第二十二話  フルバンク納車

 本日はフューラに呼び出された。工房に行く途中、アイシャとリサさんを発見。

 「おーいアイシャー」

 呼んだら振り向いて手を振ってきた。認識完了。

 「そっちもフューラに呼び出されたのか?」

 「うん。あ、そうだ。明日ジリーが移送されるんだって。私は行くけど、どうする?」

 「そうだなー、元気付けるために顔見せに行くかな」

 あれから既に一ヶ月。という事は後五ヶ月の収監だな。

 「シアはどうするの? カナタについてくる?」

 (ううん)

 首を振った。そして自然とアイシャの頭の上へ。こいつすっかりアイシャの頭の上が好きになっているな。そしてアイシャももう何も言わない。

 「どうせすぐ終わるだろうから留守番だな」

 (うん)

 実は出不精だったりして。



 ――フューラの工房。

 さっさと入ろうとするアイシャを止めた。先日危険物取り扱い中と言われたばかりだからな。

 「フューラー、来たぞー」

 「はーい」

 と、今回はフューラから扉を開けて招いてくれた。


 「あれ? あの馬鹿でかいコンピュータは?」

 「あはは、もうとっくになくなっていますよ。現在の技術レベルはですね、カナタさんの世界からおよそ千年後です」

 「……は!? いや……ええええっ!?」

 いつの間にかあっさりと追い抜かれていました。そりゃそうか。1950年代に到達した時点であと二ヶ月でフューラの技術に追いつくと言っていた。見た目で数千年後の技術に思えるアンドロイド「フェムティフューラ」まで二ヶ月なのだから、その半分で千年も進んでいたとしてもおかしくはない。……おそろしくはある。

 「えっと、それってすごいの?」

 アイシャとリサさんはよく分かっていないな。

 「おさらいだ。六千年経ってもこの世界には存在しない蒸気機関。これが発明されてから、約二百五十年で俺の世界の技術が出来る。そこから千年後だぞ? 人類は夜空の星をも手にしている。そういう技術レベルだよ」

 「……え? あの星って、実在するの?」

 そこなのかよ! まあリサさんはさすがに車のある世界の人間なので、やんわりと理解してくれた。

 「――そっか。じゃあジリーの言ってた別の星ってそういう意味なんだ。トムもきっと分かってないよ」

 「だろうな。まあどちらにしろ別世界って考えでも間違ってないよ」

 気付かないうちに宇宙人と会っていました、なんてあってもおかしくないからな。


 「ただしですね、ここからは技術を知っている僕ですらも、かなり難しくなるんですよ。なので、実際には僕まであと数歩というほどに高い技術レベルなんです」

 つまり既にほぼ完成か。とんでもないな。

 「じゃあ3Dホログラムとかレーザーブレードとか反重力エンジンとかワープ航法とかは?」

 「あー……まあそれは置いておきましょう。先にこれをお見せしますね」

 勿体つけやがって! と、フューラが見せたのは、布をかぶったなにやら縦長の、丁度バイクのような……そうか! 俺が注文していた移動手段か!


 「ふっふっふっ、それではお見せいたしましょう!」

 過去一番に自信満々の表情を見せるフューラ。そして思いっきり布を引っ張り――。


 ガシャアアアンッ!!


 「んぬわあああああっ!!」「うおああああああっ!!」

 布が引っかかり盛大に倒れ、明らかに破損した音と散らばるパーツ。フューラにつられ俺も一緒に叫んでしまった。

 そして口が開いたままこちらを見やり、じんわり目に涙を溜めるフューラ。

 「……ぶふっ、あはははは!!」

 見事な涙目に大笑いしてしまった。そしてそんな俺につられ後ろの二人も抑えながら笑っている。

 「あはは。いいよいいよ、待ってやるからまた作れ。これは失敗には含めないから安心しろ」

 「……うわあーん、ごめんなさあーい!」

 思いっきり泣いた。うん、可愛いから許す。



 ――例の物体は一旦お片づけ。

 「すみません。……あー……すみません」

 「気にするなって」

 相当に凹んでいるフューラを落ち着かせ、話を次へと進める。

 「はい、もう大丈夫です」

 深呼吸をしてからフューラが取り出したのは、トミーガン二号機だ。見た目はいつものと変わらないな。

 「えっとですね、僕のエネルギー発生器官と同じ要領で、水をエネルギー化させ、エネルギーを半実体化させる事で、実弾として射出可能なようにしました」

 回りくどいが、つまり水鉄砲の強化版かな?

 「一度水を汲めばフルオートで二百発撃てますし、3点バースト機能もあります。ただし威力は実弾よりも多少強い程度です。これは形状による制約でして、これ以上の威力上昇は不可能と考えてください」

 マガジンを取り出し振ってみると、本当にチャプチャプと水の音。

 「試射してもいいか?」

 「はい。そこに的も用意していますので」

 円を描いた木の板が棒にくくりつけられている。ここだけ見ると流鏑馬だな。


 「それじゃ撃つぞー。念の為みんな下がれよ」

 「はあーい」

 さてどんなものなのかと慎重に引き金を引く。

 ダダダッ! と3点バースト。小気味いいタイプライターな銃撃音は健在。若干抑えられてはいるが反動もあり、今までのと何ら変わらない感覚で使っていける。そして三発とも円の中に収まり、しっかりと穴が開いている。


 「いいな、バッチリだ。んで、撃った後の弾はどうなるんだ?」

 「水で作ったエネルギーなので、水に還っていますよ。的の後ろの壁を見てください。濡れていますよね? これが半実体化です。完全に実体化させる事なく威力を出す事で、使い終わったら自然に還す事が出来ます」

 「……おー確かに。それじゃあ空薬莢の事すらも一切気にしなくてもいいのか。すげーな」

 「はい。えへへ」

 嬉しそうなフューラ。もしかして褒められて伸びるタイプなのかも。教育方法間違ってたかなー……。

 「じゃああとは水筒だね。ついでにお弁当持ってピクニックに行く?」

 「モンスター狩りのピクニックとか怖いぞ」

 「あはは」

 この勇者様はたまにこういう事を言うから侮れん。


 「次にリサさんに頼まれていたアーティファクトの器ですけど、こんな感じでどうでしょうか?」

 フューラが取り出したのは銀のネックレス。中央には指輪のようなものと、そして赤い宝石、多分ルビーが飾られている。

 「うーん……確かにきれいではありますが、器としては不足ですね。きれいに作るという事よりも、心を込めて作り上げる事が大切なのです。なので、例えば子供の粘土細工であろうとも、本当に気持ちを込めて作った作品であれば、アーティファクトとして機能するのですよ」

 リサさんの解説に、フューラがまた凹んだ。

 「あ、いえこれはわたくしの説明不足でしたので、フューラさんが気にやむ事はありませんよ」

 「それでも、僕では心がこもらないんですね……」

 「いいえ、そういう意味ではありませんよ」

 リサさんは軽く周囲を見渡している。

 「うーん……カナタさん、先ほどの銃をお借り出来ますか?」

 「はいはいどうぞ」

 一応安全装置はかけておいた。さて何をするつもりかな?


 「フューラさん、この銃はアーティファクトになると思いますか?」

 「……そう聞くという事は、なるんでしょうね」

 「ふふっ、正解です。ようするに心を込めるという事は、誰かを想うという事なのですよ。フューラさんはこの銃を作る時、恐らくはカナタさんの安全を願ったのではないですか? その願いが想いとなり、この銃にアーティファクトとしての器を与えるのです」

 余計に難しい表情になるフューラ。こういう時は俺の出番だな。

 「つまりだ、そのネックレスでも、誰かを大切に想って作ったのならばアーティファクトになるという事だな。フューラはきっと作る事に精一杯で、使ってくれる人を想う余裕なんてなかったんじゃないか?」

 「……否定しません。僕はこういう工芸細工は初めてに近いんです。なので完成しか頭にありませんでした」

 要領を理解したようで、表情筋がようやく緩んだ。

 「カナタさんのご注文も含めて、あと数日待ってください。次こそは成功させてみせます」

 「言ったな? それじゃあ期待して待つよ」



 ――翌日。

 今日はジリーの移送日。俺とアイシャは王宮へ。シアは昨日のとおりお留守番。

 「私先にトムのところに行くね」

 という事でアイシャは玉座へ、俺は地下牢へ。

 「よう。調子はどうだ?」

 「絶好調! ……な訳あるかよ。あたしが入るのは、ワーニールっていう都市の山頂にある刑務所なんだってさ。それを聞くだけで嫌になるってもんだよ」

 「山頂の刑務所か。空気も薄いかもな。ここは少しでも前向きに考えて、トレーニングにいいと思ったらどうだ? マラソンランナーは山岳トレーニングやるだろ? あんな感じ」

 溜め息を吐きながらも笑ったジリー。

 「そーだなー……少しでもいい方向に考えておくかー」


 ふとジリーからこんな質問。

 「なーカナタ、あんた本当は何者なんだ?」

 「何者って言われても、元サラリーマンとしか言いようがないぞ」

 「……そうじゃなくて……すっげー失礼な事を言うけどさ、あたしにはカナタに心がないように思えるんだよね」

 「本当に失礼だな」

 と返すと、笑って謝った。

 「あはは、ごめん」

 まあ俺自身その程度で怒るほど小さい人間ではない。はずだ。

 「でも、なんでそんな事を思ったんだよ?」

 「んーと、あたしだからこそ、なのかも知れないんだけど、捕まえて最初に口を利いた時から、なーんか……まるで物と会話しているみたいな違和感があったんだよ」

 「それは俺が独身だからだとか、お前から男と認識されていないからなんじゃないのか?」

 「あー……いや、そういう事じゃないんだけど……ごめん、あたしにも分からないや。あはは!」

 なんだそれ。


 「おまたせー。私が手綱を掴む事になったよ」

 アイシャが来たが、その手には手綱ではなく鎖。

 「あはは、あたしそんなに警戒されてるんだね」

 すると後ろからトム王も来た。

 「それはそうですよ。なんたって私の目の前で縄を引きちぎったんですから。ちなみにその鎖でも同じ事が出来ますか?」

 「あー……」

 と、鎖ではなく牢の鉄柱を掴んだジリー。そして力を込めると……曲がった。

 「まーこんな感じ。よっと」

 そう一言、歪んではいるが元に戻った。可愛い顔してわりとやるもんだな。



 ――玉座へ。

 ジリーは鎖を手に巻かれているが、いつ引きちぎってやろうかという感じでニヤニヤしている。そしてそれに気付いたアイシャに軽く蹴られている。

 「さて、ジリー・エイスさん。これからあなたは五ヶ月間、王国第二の都市ワーニールにある山頂監獄に収監されます。よろしいですね?」

 「はーい。わーってますよー」

 最初とは違い落ち着いているジリー。口調は相変わらずだけどな。

 「山頂監獄では面会は認められておらず、もしも収監中にひとつでも問題を起こせば、あなたば文字通り一生監獄から出られなくなります」

 「……はい」

 一気に不安げになったジリー。そしてそういう時はアイシャの出番だな。……うん、軽く蹴りを入れたぞこいつ。

 「あなたの未来を決めるのは、他ならないあなたの行動です。それをよく理解し、刑に服してください」

 「はい。……あたしには恩を返さなけりゃいけない奴がいるからね。絶対に正しく出てくるよ」

 ジリーの目線はアイシャと、そして俺にも向けられた。


 「そしてもうひとつ、あなたから聞いていた被害者五人の虐待容疑について」

 ジリーの目の色が変わった。真剣に、まるでトム王を睨むような目だ。

 「五人中、四人は虐待の事実を認めました。家族からの証言も取れました。ただし警備隊に所属している一人だけは否認。こちらは証拠が揃わず、家族からの証言も得られませんでした」

 「ちっ」と小さく舌打ちをするジリー。

 「そこでですが、ジリーさんはどこで、どのような虐待現場を目撃したのですか? もしも虚偽となれば」「嘘は言ってない!」

 声を荒げたジリー。その横にいるアイシャは動かないので、衛兵も動かない。

 「……あいつが一番ヤバいんだよ。過去を調べてみな。きっとあいつの子供、病気で死んでる。でもそれは病気じゃなくて、虐待で殺したんだよ。あいつは、証拠を見せないように周到に準備をしてやってるんだよ! あたしが見たのは偶然だが、あいつは子供の口を塞いで逆さまにして振り回していたんだ! そんな奴がまともな父親であるはずがないだろうが!!」

 「……なるほど。確かに三年前に子供を亡くしていると報告書にはありましたし、もう少し調べてみる必要がありそうですね」

 「よろしく、お願いします」

 先ほど声を荒げた人物とは思えないほどに、しっかりと頭を下げるジリー。痛みを分かっているからこそ、心の底から子供を救ってほしいのだろうな。


 「それでは時間ですので、ジリー・エイスさんを山頂監獄まで」「ごめん、ちょっと待って」

 おっと、アイシャからちょっと待ったコールだ。

 「……あの……先に、お花を摘みに……ごめんなさい!」

 ジリーの手綱を俺に投げるように渡し、お花を摘みに行った。

 「……まあ、生理現象ならば仕方がありませんよね。あはは」

 「全くですな。あはは」

 乾いた笑いがこだまする。五分ほどして戻ってきたアイシャの顔が、恥ずかしさで真っ赤だったのは、みんな無言の一致団結でスルーした。

 さて気を取り直そう。トム王も咳払いをした。

 「んんっ、それでは改めて」「ご、ごめん、あのー……」

 「お前もかっ!」

 思わず声でツッコミを入れてしまうと、やはり囚人と言えども女の子。先ほどのアイシャに負けず劣らず顔を真っ赤にした。

 「あーはいはい。アイシャ、付き合ってあげて」

 「あはは、はあーい」

 そりゃ王様も呆れ声を出しますよ。


 結局予定時間を十分以上もオーバーしての移送となった。では移送の方法は? はい、テレポーター!

 王宮にいるテレポーターが直接来て、該当の施設まで飛ぶだけだった。ルーラやテレポよりも便利だな。

 「それじゃあいい?」

 「ああ。なんか迷惑かけちゃって悪いね」

 「本当だよ! なんてね」

 この二人もすっかり打ち解けて仲良しになっているな。



 ドオオオンッ!!

 出発しようとしたところで、突然の大きな爆発音。

 「なんだ!?」

 ドオオオン! ドオオオン! とその後も爆発音が。

 すると衛兵が一人血相を変えて飛んで来た。


 「ご報告いたします! 現在王都は、何者かにより襲撃を受けています!」



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