表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/195

1.61 知性をなくしたエルフの叫び

 プレオープンが終わり、中央広場の屋台が本格的な営業を始めて三日が経ちました。今日も大繁盛ですね。屋台街の客の一割くらいいるのではないでしょうか? 「近くなって良かった」という声が聞こえます。今まで「町の外まで行くの正直めんどいなー」と思っていた顧客を取り込むのに成功したようです。


 それと金髪です。こいつを置いておくことで新しく若い女性客の需要を掘り起こすことに成功しました。金髪は気づいているのかいないのか、独特のギスギスした雰囲気が漂う中さわやかな笑顔で接客しています。

 ですのでボクは男性客を引き寄せることにしました。ちょっと気温は高めですけど足元はいつものようにマキシ丈スカートなので今日は涼し気にポニーテールにしてみました。襟も軽く抜いてうなじをチラ見せして視線を上の方に誘導します。これだけでアホな男共が寄ってくること……まあ職に貴賎なしカワイイに男女なしですね。


 と言う感じで集客はバッチリです。陳列された料理がみるみるうちに消えてゆきます。

「追加お持ちしましたー!」

 ちょうど多重影分身したミラの何体目かが料理を運んできました。


 ──時を同じくして、お客の列の後ろの方からザワザワとした響きが広がってきます。列を押しのけるようにしてガラの悪い二人組が現れました。猫背で左右のお客たちに睨みを聞かせながら、いかにもなチンピラが二人、広場の真ん中を突っ切ってきます。


 ようやく来ました!

 これを待っていたのです。こんな目立つところに屋台を出したのもウアカリの店を避けて料理を卸したのも冒険者を送り込んで嫌がらせをしたのもしなくてもいい接客をして顔を売ったのも、実のところ商売が第一目標ではありません。すべてはあのババアのバックについているというヤクザ者を釣り出すためです。

 ここのところ運動してなくて退屈してましたからね! Let's Exerciseです!


 チンピラはボクの前で立ち止まるとガン付けしてきました。顔を寄せるなです、息が臭いですよ。

「おうおう、誰に断ってここで商売やってるんだ?」

「市役所と自警団と商業者ギルドですよ。お前そんなことも知らない田舎者ですか?」

「……舐めてんのか、テメェ!」

 チンピラは青筋を立ててボクの胸倉をつかんできました。鼻で笑っちゃいます。冒険者同士なら決闘しなければならないところですけど、一般人が冒険者に喧嘩を売ったらその場で切り捨てられても文句は言えないということを知らないわけじゃないでしょうに。バカな奴ですね。


「フフン、いいでしょう。このボクに挑戦する権利を与えてやりますから光栄に思うがいいです」

 ボクがそう言うと諦め顔のミラと金髪が客を誘導してあっという間に人ごみのリングができました。よくわかってるじゃないですか。中に残されたのはチンピラ二匹と可憐なエルフ、実質は縛られた囚人VS飢えた猛獣です。さてチンピラたちは竹槍と核兵器以上の戦力差を覆せるでしょうか? ミラがやけくそ気味に声を張り上げました。


「ハイハイ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、この町最強の冒険者に喧嘩を売った哀れなヤクザの公開処刑はこの後すぐ! 見物のお代はこちらの料理だよ! さあさあ買った買った!」


「歯ぁ食いしばれや!」

 ミラの声に促されたかのようにチンピラが右の拳を思いっきり振りかぶりました。はい正当防衛成立です。それにしても密着してたら打撃が打てないとでも思ってるのでしょうかねこのアホタレさんは。せっかく観客が多いですので派手な技で魅せてやりましょう!


「しゃい☆」

 拳銃の抜き打ちみたいなモーションで崩拳をスマッシュ! 先に殴ろうとしたチンピラの拳がまだ顔の横にあるうちにボクのパンチがみぞおちに突き立っています。衝撃が背中まで突き抜けた感触がありました。さらに「グェッ」とうめいて前のめりになった、いえなりかけた男の膝を踏み台にして顎にシャイニングウィザード!


「しゃ──いっ!」

「ぐぇぁっ!」


 チンピラを飛び越えるほど高く翔け上がるボク! 顎が大きく跳ね上がって、男は垂直に崩れ落ちて白目をむきました。

「しゃいっ☆しゃいっ☆しゃいっ☆しゃいっ☆」

 手拍子で煽ってみましたけど無反応です。カウントを取る必要もありません、一発でノックアウトです。指を一本天に向かって立てて叫びます。


「ウィ────!」

「「「「「ウオオオオオオオ!」」」」」


 お客たちが一斉に沸き立ちました。


「よくもアニキをやりやがったな!」

「しゃいっ」

 下っ端が殴りかかってきたのをくるりと華麗に回ってかわします。このとき観客たちにはわからないようにポニテの先をチンピラの目に当てて目つぶししています。


「うっ」

 隙は一瞬、その一瞬で充分です。思わず目をつぶってしまったチンピラ目掛けて今度は縦に宙返り、肩の上に両ひざで着地すると同時に頭を太ももで挟み込んで、体重を掛けながら後ろに倒れ込んで一回転!


「しゃいしゃいしゃーいっ!」

 しゃあっフランケンシュタイナー!


 ズドン! チンピラはオウムガイみたいな曲線を描いて宙を舞い、地響きを立てて石畳に背中を打ち付けました。あ、ちゃんと魔法でエアクッション作ってますよ。ボクって優しい! 両肩がついたきれいなフォールでスリーカウント、チンピラはぐんにゃりと手足を投げ出してのびています。

 気絶したチンピラを捨てて立ち上がり、両手の指を一本ずつ立てて天に掲げて叫びます。


「ッッシャオラ────ッ!」

「「「「「ウォォォォウ!ウォォォォウ!」」」」」


 会場のボルテージはマックスまで上がってます。ボクはチンピラたちの周りを輪を描くように回って歓声に応えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ