1.60 カスハラ冒険者
翌朝屋台を設置して今日もプレオープンです。朝の営業は金髪に任せます。今度は市外に出ておばちゃんの屋台をアイテムボックスから出していると、バッタリマ……マリオ? と会いました。相変わらず図体のデカい奴です。怪我は治ったみたいでピンピンしてます。
「お久しぶりですね。生きてましたか?」
「ああ、おかげさんでな。お前みたいなのと闘って命があっただけでも見つけもんだ」
おや、案外あっさりしてますね……?
「不意打ちされたー、とか物言いつけないのですか?」
「いや、俺の完敗だ。お前は強い。俺よりもな。下手に抵抗してたらもっと痛い目を見ていただろう。そして強い奴は尊敬する。それが冒険者の流儀だ」
などと殊勝なことを言うものですから手が勝手に串かつをおごっていました。
「ほれ食べてくといいです。人気なのですよこれ」
「お、ありがとよ。全財産スッちまった上に治療費の返済でフトコロが寂しくてな……」
なんて言いながら財布をひっくり返して中身がスッカラカンであることをアピールしています。
その時、ふと思いつきました。
「……それでは、ちょっとバイトしませんか?」
その夜、ボクは『夜の妖精亭』の前にやって来ていました。では中がどんなことになっているかちょっと覗いてみましょう。ボクはドアを細く開けました。
この町、というかこの世界では普通の酒場でもたいてい売春を目的とした女の子がウェイトレスをやっていますけれども、彼女たちはいつでも体を売るというわけではありませんし、ウェイトレス業だけの子もいっぱいいます。しかしここでは全員がそういう目的で働いていて、お店の形態も風俗営業法みたいなので分けられています。
こういうお店はお客がやってくるとまずラウンジで食べて飲んで、隣に女の子がついてお酌します。で、その中から気に入った子を選んで別室に移動してしっぽり、というシステムだそうです。キャバクラとソープランドを足したような感じなのでしょうか? 前世はJCだったので行ったことありませんけど。
なので本来ラウンジは酔ったお客の大声と女の子たちのきゃあきゃあいう陽気な声で満たされているものだと思いますが(よく知りませんけど)、この夜は不気味なほどの沈黙に包まれていました。
店の真ん中のシートに体積が常人の二倍もありそうな巨漢が二人陣取っています。マリオ? と結局名前を聞かなかったタトゥーの冒険者です。強面の二人は綺麗どころに挟まれていながら終始無言で不機嫌オーラをまき散らしています。おかげで一般客も接客の風俗嬢たちも居心地悪そうです。
二人は注がれた酒をチビ、チビと舐めるようにあおり、三十分も掛けてようやく一杯を空にすると、無言で隣の女の子に突き出しておかわりを要求しました。コップを受け取った女の子のお酒を割る手が震えています。
「あの……」
後ろから声を掛けられました。他のお客です。「どーぞどーぞ」とドアを開けてやると男は脱いだ帽子でボクから顔を隠しながら店へと入りました……が、足を踏み入れたとたんにマリオたちの大声で迎えられてその場に立ちすくんでしまいました。
「お、道具屋の大将じゃねーか! こんなところで会うとは奇遇だな!」
「今夜はカミさんよりも若い肌がいいってか!」
「明日は店に顔出すからよ! カミさんによろしくな!」
ギャハハハと品のない笑い声が店を揺らしました。道具屋の大将とやらは逃げるように店を出ていってしまいました。
うん、こいつらなかなかの味を出してます。実は二人にはギルドの規約に抵触しない範囲での迷惑行為をお願いしていたのです。いい感じで営業妨害してますね。
「ちょっとアンタたち、いつまで飲んでるんだよ。女の子を買うつもりがないなら出てってよ」
あ、ウアカリです。とうとう出てきました。相変わらずブサイクですね。二人はチビ、と酒を舐めながらヘッヘッヘッと笑ってウアカリを見つめました。
「誰も買わねぇとは言ってねぇだろ? ただな、まだ飲み足りねぇんだよ」
「もう二、三杯も飲んだら抱くからよ。それまでじっくり選ばせてくれよ。じっくりと、な」
そういうとタトゥーの男は突然勢いよく身を乗り出し、下から突き出すようにして隣の風俗嬢に顔を近づけました。目を剥いてベロンと舌を出して、すごい悪役ヅラです。至近距離で酒臭い息を吐きかけられた女の子は「ひいっ」と怯えて逃げ出してしまいました。
「ハハハハ! 嫌われちまったなあ!」
「おうおう、つれねぇなあ! ちょっと教育がなってないんじゃねぇのか、アイーダさんよぉ?」
「……もういいから出て行けェ! 自警団呼ぶよ! 冒険者が逮捕されたらどうなるかわかってるんだろうねェ!?」
早くもウアカリがキレました。また顔が真っ赤です。そんなウアカリを見て二人は笑いました。
「ハハッ、ヤクザの愛人が自警団に頼るとは、今日一番の笑い話だな」
「ま、こいつのとこの若いのじゃ何人来たところで俺たちをこの椅子から動かすこともできねぇだろうしな。自警団頼みもしょうがねぇさ」
顔を見合わせた二人はまた割れるような大声で笑ったかと思うとのそっと席を立ちました。
「いいぜ、出てってやるよ。まったく、客を邪険にしやがって」
「この店が客をどういう風に扱うかってことを世間様によくよく宣伝しといてやるよ」
小銭をテーブルに叩きつけるように投げ出した二人がゆっくりと店を出てきます。ボクは建物の陰に隠れて様子をうかがいました。
「おうおう、金払ってるってぇのに追い出されちまったぜ!」
「まずい酒でぼったくりやがった癖になぁ! 接客も最悪だぜ!」
店から出て来た二人は通り中に響き渡るような大声で悪態をつきました。
角からこそっと手招きすると目ざとく見つけた二人はこちらにやってきました。
「どうだ? こんな感じでいいか?」
「お前たちいい仕事をしました。アカデミー賞をあげます」
ちょっと弾んで金貨一枚ずつを握らせてやります。
「お、こんなに!?」
「サンキューリンス、愛してる!」
「よーしいつもの店に突撃だぁ!」
「今行くぜタニアちゃん! ヒャッホゥー!」
二人はなじみのお姉ちゃんたちのところへスキップで駆けて行ってしまいました。
「では次はお前たちの出番ですよ」
と、今度は冒険者A君B君コンビに小銭を渡しました。後ろにスタンバイしていたのです。
「なるほど、要領がわかった」
「あんな風にやればいいんだな?」
「です」
……と言う感じで毎晩数組の冒険者を送り込んでやったら料理は不味い、評判も悪い、客筋は最悪と噂を取ったババアの店はすっかり客が寄り付かないようになりました。




