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1.51 アヒルのスープと小籠包

 朝になりました。一晩経ってすっかり冷えたスープの表面にガラから溶け出した脂やゼラチンが白く固まって浮かんでいるのを取り除いたらアヒルのブイヨンのできあがりです。しっかりアクを取ってもらった甲斐があって澄んだスープが取れました。

「これを水代わりにいつも通り野菜スープを作ってください」

「わかった」


 店主調理中 NowCooking…


「……」

 出来たスープを味見した髭は何故か押し黙ってしまいました。

「どうしました?」

「…………。これが本当のスープだって言うなら、今まで俺が作ってたのは何だったんだ……?」

「野菜の水煮ですね」

「悔しいっ……! でも、おいしさ感じちゃう……!」


 何かビクンビクンしてる髭のおっさんは放っといて。それにしてもここからコンソメスープを作るにはこのブイヨンでさらにひき肉を煮込んで卵白で澱を取るというのですからフランス人って変態ですよね。何でも中世の僧院ではワインの澱を取るために卵白を使っていたとのことで、そういう下積みあっての技術ではありますけれども。

 ちなみに日本でもこの手の煮込み出汁の原型はあったはずなのです。鯛の潮汁なんかそのまんまですしね。しかし鰹節と昆布、そして醤油があまりにも有能であったためにすっかり忘れ去られてしまいました。アク取り不要しかも生臭さゼロってチートですよ、マジで。


「うわー、すごい……」

「いつもなら捨ててるものでこんなに旨いものができるなんて……。あー、今まで無駄にした!」

 味見したエリは目を見張り、いい年して猫耳をつけたおっさんも悔しがってます。

「次はそっちですね」


 野菜スープが改善できたので次はアヒル料理です。まず小麦粉をこねて寝かせておきます。アヒル肉を成形するときに出た切れっぱしを包丁で叩いてミンチにします。玉ねぎのみじん切り、ミント、味付けの塩、そしてさっきスープから取り除いたゼラチンを加えてこねます。これで餡ができました。寝かせておいた小麦粉を伸ばして皮にして、餡を小さくちぎってその皮でくるんでキュッと捻って閉じてやります。一個がピンポン玉くらいの大きさです。これを鍋の中の蒸し器に並べて蒸します。蒸籠とかないので。


「……よし、蒸し上がりました。さあ召し上がるがいいです。一口で食べるのですよ、口の中いっぱいにほおばって」

 そうしないと面白くないですからね、この料理は。

「よし、では……ギャー!」

 三人は口を押さえて身震いしたり上を向いて湯気を吹いたりしています。ククク、そうなると思いました。


「なんじゃこりゃ、口の中にスープが!」

「あぢぢっ! 舌が焼けるっ舌が!」

「でもほいひいっ!」

 ホフホフと熱そうにしながらも三人は先を争って手を伸ばし、作った見本はあっという間になくなってしまいました。


「……あー、びっくりした。何だこれ、メチャクチャに旨いな」

「これ、なんて料理だ?」

「えー……そうですね、これはモモという料理です。そう決めました」

 洋風仕立ての小籠包なのですけどね。でもショウロンポウもシャオロンバオもこの世界の言葉とはあまりにも異質なので似た料理の名前を借りました。ギョウザもチャオズもグォティエも何か違いますし。モモの方が響きが可愛いですしね。


「茹でても焼いてもいいですし、中の具もいくらでも変えられます。アヒルじゃなくて豚や羊でもいいですし、ニンジンでも唐辛子でも何を入れるのも自由です。包み方もいろいろできます。ゼラチン……えーっと、さっきの煮こごりじゃなくてバターやチーズを入れたっていいですし、それに塩味だけじゃなくてトマトソースやゴマソースをつけて食べたっていいのです。後は自分たちで工夫してください」

「ああ、わかった!」

「エルフさん、ありがとう!」

「なあ、そのモモ、うちのスープに入れられないか?」

「モモの中のスープが抜けちゃうんじゃないか?」

「じゃあこっちのモモはドロドロを抜いて──」


 さっそくワイワイと料理談義が始まったのを見ていたら「なあなあ」と後ろから肩を叩く者がいます。えーっと、これは確か仔羊のモツ煮込みを売ってる屋台の店主です。

「何ですか?」

「エルフの姉ちゃん、うちの屋台も見てくれないか?」

「……いいですよ。この際全員面倒みてやります」


 こんな感じで知り合いの屋台を見て回っていたら他のお店も「自分の屋台の料理も見て欲しい」と次から次へとやってきたので気合を入れて頑張りました。

 そうです、あの忙しすぎる屋台を何とかするには他の屋台もテコ入れして客を分散させればいいんです。名付けて『みんなで幸せになりましょうよ作戦』です。


 もういっそのことタイトルも『転生したらケンでした~信長が無茶振りしてくるケン~』とかに変えて本格料理路線に変更しましょうかねぇ?

 ……と思ったのですけど、なんだか「怒られるからやめて」という変な声が聞こえてきたので見送ります。


 それはともかく二か月がかりで二百軒やりましたよ。ええ。

鍋貼グォティエ……焼き餃子のこと。王将に行くと同じ字をコーテルと読んでいるのが聞こえます。

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