表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/195

1.12 流星剣

 お昼休憩が終わってギルドに戻ると待っていた二人の冒険者に引き合わされました。男女が一人ずつです。二人とも麻の戦闘服を着ています。迷彩のない迷彩服みたいな感じです。足元はベルトで締め上げるブーツ、帽子はかぶっていません。


「こいつらは多分お前たちも所属することになるクランの二人だ。今回お前たちの実習の引率を頼んだ。経験豊富だから頼りにするといい。──おい」

 サブマスが促すと二人は自己紹介しました。

「俺は今回お前たちの指導員を務めることになった"雷剣のブラッド"だ。研修という短い間だができるだけのことは伝えたいと思う。よろしく頼む」

 と茶色い髪の男が言いました。中背で動きにキレのありそうな引き締まった体をしています。

「"鬼出勤のラーナ"よ。ヨロシクね☆」

 戦闘服の上着を脱いだ女がこちらは何とも軽薄そうな声で言いました。筋肉の盛り上がったいい肩をしています。遠投とか上手そうです。

「じゃあ後は頼んだぞ」と言い残してサブマスは奥に引っ込んでしまいました。


「まずは装備一式を支給するから着替えてくれ」

 ボクたちはそれぞれにバックパックを渡されました。開けてみると色々入っています。水筒、雨合羽、発火具、非常食、包帯などの救急品セット、シャベル、ナイフ、束ねたロープ、それにタバコ。どんどん取り出してテーブルに並べます。

「それとこれだ」

 次に渡されたのは防具一式でした。まずはチューターたちも着ているシャツと戦闘服、それとキルトの鎧下です。夏は暑そうですね。それから革鎧です。鎧の表面はニスみたいなもので撥水加工されていて、内側には金属片が縫い付けてあります。腕には小手、足元は脛当てとごついブーツです。どちらも革製で内側はやはり金属片で補強されています。頭には重いヘルメット、そして剣と盾をもらいました。

 以上が見習い冒険者用スターターセットのようです。


「こんなのタダでくれるなんて太っ腹ですね」

「ああ、未来のお前たちがな」

「?」

「この装備の代金は実は報酬から差し引いて返済することになっている。つまり未来の自分からの投資だな」

「なんだ、やっぱりお金は取られるのですね……」

 ガッカリです。こんなの持ち運ぶのは面倒くさいのでかたっぱしからアイテムボックスに放り込んでいたらチューターが目を丸くしました。

「お前、そんなものが使えるなら冒険者みたいな底辺職やらずに運送業でもやった方が絶対に儲かるぞ」

「いえ、ボクは冒険するのが目的で森を出てきましたので」

「そうか」

 チューターは「エルフってのは変わってるな」と首を振りました。


「それじゃとりあえず着替えて来てくれ」

 金髪はその場で着替え始めましたけどボクは栗毛に引っ張られて馬小屋の女部屋へと移動しました。別にいいですけど。

 ところでアイテムボックスの拡張魔法に【換装】というのがあります。装備品をそのままアイテムボックスへと収納するのと同時に武器や防具を装備した状態で取り出すという、要するに早着替え魔法です。ですので移動する必要なかったのですけどね。ボクはずっと着っぱなしだったエルフの衣装を戦闘服その他に換装しました。うーん、しかしこれは……。


「え? いつの間に着替えたんですか?」

「今ですよ、今」

 栗毛がびっくりしています。ボクが装備を換装するタイムはわずか0.05秒にすぎません。栗毛にはいつ着替えたのか目にも止まらなかったことでしょう。

 なお栗毛は普通に脱いで着替えてました。乳デカいですねこいつ。


 ギルドに戻るとチューターたちも着替えていました。同じような革鎧の姿です。チューターの二人は普段着のようにしっくりなじんでいますし、金髪が背筋を伸ばして立っている姿はまるで金ピカの騎士鎧でも着こんでいるように立派です。

 ひるがえってボクの姿をご覧ください。どうしたらいいのでしょうね、これ。


「あの、ブカブカなのですけど。これ」

 しょせん人間用の鎧です。エルフにはサイズが全然合っていません。歩くたびにガッコンガッコン揺れてうっとうしいったらありません。ヘルメットも重い上にガクガクして、戦う前に首を痛めそうです。おまけに通気性が悪いです。ボクは魔法で温度を調節できますけど人間は大変じゃないですか、これ。


「動きにくいですしカッコ悪いですよ。違うのありませんか?」

「あいにくエルフ用の鎧はないんだ。とりあえず詰め物でなんとかしてくれ」

「……いりませんよ、こんなの」

 こんな鎧より自前の魔法防御の方が堅いです。ボクは鎧その他をアイテムボックスに収納して戦闘服だけになりました。ちなみに戦闘服もブカブカだったのですけど魔法で仕立て直して縮めました。鎧の調整はさすがに無理ですけどね。


「コラ、危ないから鎧は着ておけ」

 チューターに怒られましたけど無視します。

「着てた方が危ないですよ。身動きが取れません」

「……わかった、鎧については考えておく。では明日から森に入る予定だが、その前にどの程度使えるか確かめておいてやる。使えないようなら当分は特訓だ」

「使えるって何のことですか?」

「飛び道具だよ。流星剣とかな。リノスじゃ必須だ。──何故かというとだな、この鎧を見てくれ」

 そう言ってチューターは自分の鎧の胸を叩きました。


「この辺りだと森の中が主な活動場所だ。山を登り降りすることも多い。だから鎧は軽量かつ引っかかるところの少ないように工夫された革鎧が多い。お前たちの鎧は内側に金属が仕込んであるだろ? スズナーンから南の方だとこれが表側についてるんだよ。その方がメンテナンスが楽だし見栄えもいいからな。でもここだとそれじゃ引っかかる。藪を漕いで進むことが多いから脛当ても必要だし、ブーツも編み上げじゃなくてベルトで留めるタイプになる。ただ、革鎧だけだと防御が不安なので大抵は盾も持っている。ここだと闘う相手が人間じゃない、オオカミやクマなんかとも闘うことがあるから盾は大きめだ。その大きめの盾を左手でガッシリ保持しているので必然的に剣は短めの片手剣になる。盾を使わない奴もいるが、森の中だと槍を振り回すスペースがないことが多いし、槍使いはいないな。南の方だと多いんだが。……話は戻るがいくら盾を持っていても鎧が弱いからあまり接近戦はしたくないわけだ。それにこの森のモンスターは遠くから魔法を撃ってくる奴も多いからな。そういう奴らを相手にするには魔法が撃てるか流星剣を使えないと何もできん。だから必須なんだ」



 何度も名前が出て来たので説明しておきます。流星剣とは気を飛ばす攻撃の総称です。人間の言葉で気、エルフの言葉でmetと呼ばれるこれは素粒子とは別の形の、エルフの定義で"merica estla"と言うエネルギー体……えーと、翻訳が難しいですね……スカラタイプとでも訳しましょうか。その一種です。

 met……気は『質量を持たない運動エネルギー』という矛盾した存在です。自らは質量を持たない代わりに手近な質量、つまり物質に取り付いて運動量を与えるという性質を持ちます。その性質のために自然界では安定して存在できませんが戦神などの魔法で魔力から創造することができますし、物理的に閉じ込めておくことはできませんが魔法で制御することはできます。

 自然状態の気はそれぞれ取りついた物質にランダムな方向へと速度を与えますが、魔法で制御することで方向をそろえることができます。例えば気を全身に作用させて同じ方へと向ければ空を飛べます。これが飛空術というやつです。また気を放射して対象にぶつければぶつかったところにだけ運動量が発生します。つまり殴られたのと同じような感じになります。これが流星剣です。特に気を細く細く線状に圧縮して放出すると対象にはやはり線状に圧力が発生します。相手は線状に「切られて」、まるで斬撃を飛ばしたように見えるのです。


 ちなみにこの世界では流星剣や魔法といった遠隔攻撃手段が豊富だったために弓矢がろくに発展しませんでした。銃なんてこの先発明されることはないと思います。


 ところでなんで流星『剣』なのかと言うと、英語のarmが「腕」と「武器」の両方の意味を持つように、この世界の人間の言葉では剣を意味する単語と武器を意味する単語が同じ"qurad"だからです。攻撃するという意味の動詞は"quredie"、攻撃の意味の名詞は"qured"でいずれも剣(qurad)と同根です。これら気を飛ばす攻撃の名称は"cuelimirer-qured(流れ星のような攻撃)"ですので翻訳すると流星剣がふさわしくなるのです。


 ……しかし何でもっと普通の異世界っぽい設定になってないのかつくづく疑問に感じますね。こういうとっぴな設定にしたせいでその都度説明しなければなりません。読者の負担も増えますしリズム感も損なわれます。このせいで読み飛ばす人絶対にいますよ。アホじゃないですか作者。

自分でも失敗したと思います。やってみてわかりましたけど「ステータスオープン!」と叫んだらステータスが出て来る世界にした方が良かったんです。

共通認識(お約束)を使うのがいかに重要かよくわかりました。シェアードワールドみたいなものですよね。お約束を使わないと余計な説明が増えて、書く方もくたびれますけど読むほうも大変です。


今さら書き直すのも面倒なのでこのまま進めます。ご容赦ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ