296 ときめきの聖夜祭 22
ラカーシュに殺し文句を言われちゃったわ、とうっとりしている間に、彼は隠れていたダリルを見つけ出し、特殊魔術を解くよう言い聞かせていた。
「ラカーシュの忍耐力はすごいね。ただものじゃないよ」
ダリルが感心したように呟いたので、そうでしょう、ラカーシュはただものじゃないのよとにこりとしたところで、魅了の魔術を解除される。
「……魅了解除」
あ、しまったと思うと同時に、私の体がよろりとよろけた。
「ルチアーナ嬢!」
すかさずラカーシュが抱き留めてくれたため、床に倒れることはなかったけれど、眠る直前のような気持ちのいい状態に陥ったので、少し休むわと目を瞑る。
すると、そのまま抱き上げられて運ばれたようで、体がふわふわしているわ……と考えているうちに、私は眠りに落ちたのだった。
目を開けた時、私は洞窟内にある岩の上に座ったラカーシュに抱きかかえられていた。
「えっ?」
一体これはどういう状況かしらと、びっくりして飛び起きる。
すると、その勢いで体にかけてあったマントがはらりと落ちた。
「あっ、これはラカーシュ様のマントですか? ありがとうございます。おかげで暖かかったです!」
お礼を言うと、ラカーシュは何でもないとばかりに頷き、心配そうに私を見つめてきた。
「ルチアーナ嬢、体調はどうかな? 気分が悪くはないか?」
「いえ、全て普段通りで、おかしなところはありません。というか、私はなぜ洞窟内でラカーシュ様と一緒にいるんですかね? 体調を心配されているということは、私は体調を崩したんですか?」
自分の置かれた状況がさっぱり分からなかったためラカーシュに質問すると、彼は申し訳なさそうに私を見てきた。
「君はダリルと一緒にいたのだが、彼とセリアが結託してよくないことをやったんだ。そして、私は普段と異なる君と一緒にいる誘惑に抗うことができなかった。そのせいで、君に負荷がかかってしまったようだ」
ラカーシュの話ははしょり過ぎていて何が起こったのかよく分からなかったけれど、原因がダリルだということだけは分かった。
そのため、私はダリルったら、と顔をしかめる。
「ダリルの悪戯なんですね! もうあの子ったら……」
文句を言いかけたけれど、子どもにとって悪戯は仕事みたいなものだから仕方がないわと思い直し、言葉を飲み込む。
けれど、すぐに自分がラカーシュの膝の上に座ったままだということに気付き、慌てて飛び降りた。
「し、失礼しました!」
ラカーシュの膝の上のみならず岩からも下りて彼の前に立つと、ラカーシュはわずかに目を細める。
「ちっとも失礼ではないが、ルチアーナ嬢は嫌になるほど普段通りだな。なるほど、宣言してみたものの、美しい夢を現実にするのは簡単ではないようだ」
ラカーシュは髪をかき上げながらそう呟いた。
けれど、そんなラカーシュの仕草が色香に溢れていたため、自然と頬が赤くなる。
すると、ラカーシュは私を驚いたように見つめた後、嬉しそうに微笑んだ。
「いや、やはり私の努力次第で、いくらでも未来を変えられるようだな」
「ラカーシュ様?」
ラカーシュが何を言っているのか分からなかったので名前を呼ぶと、何でもないと首を横に振られる。
「何でもない。それに、残念ながら時間切れのようだ」
どういうことかしらと首を傾げると、かつかつと複数の足音が洞窟内に響いた。
振り返ると、エルネスト王太子とダリルが視界に飛び込んでくるところだった。
「ルチアーナ嬢、倒れたと聞いたが無事か!?」
「お姉様、何が起こっても対処できるよう、この学園で一番身分が高い人を連れてきたよ!」
王太子とダリルは私と目が合うと、足早に近付いてきたけれど、私は倒れたわけでなく眠っていただけなのよね。
だから、これっぽっちも心配いらないわと短く返す。
「はい、無事です」
王太子が安心したように息を吐くと、ラカーシュが近付いていって、王太子の肩に片手をかけた。
「エルネスト、心配をかけて悪かった。私は生徒たちのもとに戻るから、お前はルチアーナ嬢が落ち着くまで側にいてやってくれ」
「い、いえ、私は大丈夫です!」
世継ぎの王太子に迷惑はかけられないわと、勢いよく一歩踏み出したけれど、直前まで眠っていた影響なのかふらついてしまい、側にいた王太子に支えられる。
「勇ましいのはいいことだが、ルチアーナ嬢はちっとも大丈夫そうに見えないな」
冷静に指摘された私は動揺のあまり、「さすがエルネスト様。私を支えられるとは立派な筋肉をお持ちですね」と意味不明なことを口走ってしまう。
ラカーシュが尋ねるようにダリルを見つめたけれど、私の弟はぶんぶんと勢いよく首を横に振った。
「今の発言は、僕とは関係ないよ! あれはお姉様の素だから!」
ダリルが口にしたのは正解だけど、最も言ってほしくなかった一言だわ。
まだ小さいから分からないのかもしれないけれど、大人の世界の回答は、正しければいいってものじゃないのよね。
ダリルが確認するかのようにエルネスト王太子を見ると、王太子は緩く首を横に振った。
「いや、君の助力は不要だ。私はキューピッドの力を借りずに、ルチアーナ嬢と向き合いたいからね」
王太子の言葉を聞いたラカーシュは、驚いたように目を見張ったけれど、口に出しては何も言わなかった。
その後、ダリルは後ろ髪を引かれる様子ながらラカーシュと一緒に洞窟を出ていったため、私はどうすべきかしらと迷っていると、王太子が先ほどまで座っていた大きな岩まで誘導してくれた。
私がふらついたのを見たから休ませようとしているのだろうなと思い、勧められるまま大岩に座る。
王太子はどうするのかしらと見ていると、なぜか彼は私の隣に座ってきた。
「えっ?」
その途端、王太子のパルファンがふわりと香ってきて、これまでないほど王太子に近付いていることを意識する。
咄嗟に身を引こうとしたけれど、王太子は素早く私の手を掴むと、懇願するような声を出した。
「私から逃げないでくれ」







