294 ときめきの聖夜祭 20
行きついたのは秋の庭と冬の庭をつなぐ洞窟で、収穫祭の時、サフィアお兄様が『甘い言葉』を囁くために使用した場所だった。
あの時は異国情緒あふれるランプが所狭しと並べてあったけれど、今夜は聖夜らしく赤と緑と白の飾りがあちこちに飾られていた。
岩肌のくぼみに合わせて多くのロウソクが置かれており、洞窟の中は温かな光に満たされている。
「それで、私に話とは何だろうか?」
周りのロマンティックな装飾に一切興味を示すことなく、私に質問をしてくるラカーシュは、普段と異なる私の態度を心配しているように見えた。
私のちょっとした違いに気付いてくれ、何よりも優先して心配してくれるラカーシュは完璧だわとうっとりする。
「ラカーシュ様、私もラカーシュ様と同じ病にかかってしまったの」
ちょっとだけ遊び心を発揮して、婉曲な言い方をすると、ラカーシュは眉根を寄せた。
「私と同じ病?」
どうやら私の仄めかしを全く理解していないようだ。
完璧なラカーシュなのに、完璧じゃないところもあるのね。
何でもできるのに恋愛面にだけ疎いというのが可愛らしいわと、きゅんとする。
けれど、このまま待っても答えに行きつかないようだったので、私は早々に正解を口にした。
「四百四病の外よ」
「は……」
ラカーシュは空気が抜けたような声を出すと、目を丸くした。
それから、すぐに表情を引き締めると、硬い声で質問してきた。
「ルチアーナ嬢、君は何か悪い物を食べたのか?」
「もちろん食べていないわ。食堂でとても美味しい聖夜料理を食べただけよ」
きっぱり否定すると、ラカーシュは重ねて質問してきた。
「だとしたら、誰かに脅されているのか?」
「一体どんな風に? ラカーシュ様に夢中なフリをして、あなたの弱みを探ってこい、とかかしら?」
ラカーシュの頓珍漢な質問がおかしくて、微笑みながら聞き返すと、ラカーシュは愚問だったなとばかりに顔をしかめた。
「確かにおかしな話だったな。私の弱みは君に決まっている」
ラカーシュがとんでもないことをさらりと言ってきたので、びっくりして言い返す。
「そうは見えないわ」
だって、私はラカーシュを好きだと告白したのに、彼はちっとも嬉しそうに見えないもの。
冷静な対応をするラカーシュに不満を覚え、頬を膨らませていると、彼は考えるように片手を顎に当てた。
「悪い物を食べたわけでも、脅されたわけでもないとすれば……」
ラカーシュは思考を深めながら私の顔を覗き込んだところで、何かに気付いたように大きな声を出す。
「魅了か!」
どうやら私の瞳がピンク色になっていることに気付いたようだ。
けれど、私の恋心が全て魔術のせいだと思われ、紛い物のように扱われることが不満だったため、口を尖らせて言い返す。
「確かに少しばかり魅了をかけられたけれど、ダリルは元々私の中にある恋心を膨らませただけだと言っていたわ。だから、この気持ちは私の心から出たものよ」
ラカーシュは少し考えた後、理解したように頷いた。
「そうか。つまり、私が正しく君の恋心を育てることができれば迎えられる未来を、君は見せてくれているというわけだな」
ラカーシュが私の恋心を今この時限りの幻ではなく、ちゃんと現実に連なるものだと考えてくれたことが嬉しくてにこりとする。
でも、未来ではなく、現在進行形で私はラカーシュが好きなのに、と不満に思って返事をしないでいると、彼は顔をしかめた。
「先ほど、セリアが心配そうな顔で私を見ていたな。ということは、妹も一枚噛んでいるのか」
ラカーシュは本当に優秀だわ。
頭がよくて何事も見逃さない洞察力の持ち主だなんて完璧じゃないの、とうっとりする。
すると、ラカーシュはそんな私の表情に気付き、頬を赤くした。
「君が熱を持った瞳で、まっすぐ私を見つめてくれる。たったそれだけのことが、これほど私の心に灯をともすのだな。……なるほど、好意を抱かれるというのは、私の中の好意を自覚させられることでもあるわけだ」
ラカーシュはそう言うと、片手を差し出してきた。
「手を握ってもいいかな。そして、互いに触れるのはここまでだ。幸福な未来をあまりに先取りしてしまうと、楽しみがなくなってしまうからな」
私は差し出された手を掴むと、少しだけ力を入れる。
手袋越しに触れたラカーシュの手はほんのり温かかった。
「幸福な未来を先取りしたら楽しみがなくなると言うけれど、たった一度経験しただけで、ラカーシュ様は私に飽きてしまうというの?」
悲しくなって聞き返すと、ラカーシュは真剣な表情で首を横に振った。
「逆だ。君が見せる未来に魅了され、私はどんな手を使ってでも、その未来を現実のものにしたいと考えるかもしれない、ということだ」
「そうしたら、私は喜ぶはずよ」
だから、何も問題ないわと仄めかしたけれど、ラカーシュは困ったように眉尻を下げた。
「魅了におかされた今の君ならばそう言うだろう。しかし……普段の君であれば、決して喜びはしないはずだ。ルチアーナ嬢、君は高潔で誇り高い女性だ。だから、私も君に相応しくあるため、同じくらい高潔で誇り高く振る舞いたい。そうでなければ、君に選ばれる資格はないからね」
ラカーシュの生真面目な言葉を聞いて嬉しくなったものの、私の中の不真面目な部分がラカーシュをそそのかす。
「少しくらい道を踏み外してくれた方が、私は喜ぶんじゃないかしら。だって、それだけ私のことが好きだってことでしょう?」







