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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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96マス目 成金の末路


 フィズのかけてくれた”色風”という魔法。

 あれは俺の想像以上の効果を発揮していた。

 大通りを走っているのに誰も俺を見向きもしない。

 衛兵の前を横切っても、声をかけられることは無い。


「……しまったな。

こんなに効き目があるなら、馬車でも借りてくればよかった」


 腕時計を見ると、時間は9時32分。

 ネストとの約束の時間を少しオーバーしてしまっている。

 俺は息も絶え絶えになりながら、酒場の戸を開く。


「マスター!」


 飛び込んできた俺に、心底嫌そうな目を向ける酒場のマスター。

 俺は少し呼吸を整えて、ドロネズミのカクテルを注文する。

 

「……ああ、そっちの客か」


 マスターは拭いていたグラスを置くと、裏の扉を開ける。


「助かる!」


 急いでいるのでカウンターを勢いよく飛び越える。

 明らかにわざと俺に聞こえるよう舌打ちが聞えたが気にしない。

 いつにもまして全速力で階段を降りる。

 急がないと。

 ネストが帰ってしまえば全ては終わりだ。


「頼むから居てくれよ」


 時計の針は、35分を指そうとしていた。








「……誰もいない?」


 源竜会の建物の前まで来たが、見張り一人いない。

 今まで必ずいたはずの警備兵たちが、影も形も見当たらない。

 それ以前に嫌なほど静かだ。


「まさかとは思うけど、ネストの奴……」


 俺は後先考えず建物へ足を踏み入れた。

 前に案内された道を思い出しつつ進む。


「確かこのあたりだったと思うんだけど。

あーもうめんどくさい、適当に……ここだ!!」


 俺は近くに見えていた大きな扉を開け放つ。

 ……だが、俺はその軽率な行動をすぐに後悔した。


「あらぁ~、いらっしゃい。

うふふふっ」


 辺り一面に広がる血。

 身なりの良い人が床に転がり臓物をぶちまけている。

 そんな死体が積み上げられた上に、あいつは座っていた。


「……これ全部お前がやったのか?」


「そうよぉ、綺麗でしょ?」


 まあ、ここに転がっている奴らは残虐ショーで盛り上がる変態共だし、

別に良心が痛んだりはしないけど……。

 さすがにこうまじまじと死体を見せつけられては、気分が良くなるはずもない。


「あ、そうだ。

ヴァーデ公爵は殺してないよな?」


「うふふっ、心配?

大丈夫よぉ、そっちの部屋に閉じ込めてあるから。

あの男にはこっちも聞きたい事がいくつかあるのよぉ」


 俺はホッとして、思わず胸をなでおろした

 もし公爵を殺されてたら、この先ネストへ提示できる俺からの情報が無くなってしまう。


「そりゃよかった。

実は俺自身、竜の魔道結晶の在り処は知らないんだ。

俺が知ってるのは、ヴァーデ公爵なら詳しく知ってるって事だけ。

公爵を絞れば吐くはずだから、後で好きに聞き出してくれ」


「ふーん。

ああ、そうそう」


 ネストは気味の悪いにやけ顔を見せると、突如姿を消した。

 ……いや違う!


「これ面白いわねぇ。

一瞬誰かわからなかったわぁ」


 ネストは俺の肩辺りで、何かを切り払った。

 すると、俺の全身から空気が漏れだすように風が吹く。


「……まさか、色風を解かれた!?」


 ネストは何も言わずに、ただニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。

 ふと手に当たる布の感触に視線を落とすと、

いつの間にか俺の手には50万入りの布袋が握られていた。

 しかし袋にはべったりとこびり付いた返り血。

 正直言うと投げ捨てたい。

 その時、しんと静まり返っている会場に小さな赤ん坊の泣き声が薄く響いてきた。


「……これって」


「ショーの出演者ねぇ。

みーんな騒ぐ前に始末しちゃったから、気づいてないと思うわよぉ。

うふふっ、それじゃあなたの元ご主人様借りるわねぇ」


「ああ、好きにしてくれ」


 ネストはニヤニヤと笑いながら、ヴァーデが拘束されているであろう部屋に入っていく。

 さて、こっちはこっちで奴隷解放といきますか。

 赤ん坊の声は舞台の裏手からだ。

 防音設備があるのか、随分と声がこもって聞こえてくる。

 俺は声がする扉をゆっくりと開けた。


「見張り無し……っと」


 念のため左右や扉の裏も確認する。

 扉の先は薄暗い下り階段。

 こもって聞こえたのは、防音ではなく地下からだったようだ。

 俺はライターを点火させ、スプレーを構える。

 そのまま敵影に注意しつつ、地下の収容室に足を踏み入れた。


「……ひでぇな、これ何人いんだよ」


 視界に入る数えきれないほどの牢獄。

 その全てに人が閉じ込められていた。

 皆、格好自体は普通だが、薄汚れて目に光が無い。

 中には老人や子供もいる。

 奥から聞こえてくる泣き声から見るに、赤ん坊すらこんな場所に閉じ込められているのだ。

 俺は大きく息を吸い込むと、腹からあらん限りの声を出す。


「助けに来たぞぉぉーーーー!!!」


 無駄な説明はいらない。

 たった一言で状況が伝わる言葉が、

地下の冷たい岩壁に反響して全体に響き渡る。

 

「…………助け?」


 今まで静まり返っていたが、今のでふつふつと声が聞こえてきた。


「誰かが助けに来たの?」


「本当か?」


「嘘じゃないわよね!?」


 人々の声はだんだんと大きくなり、やがて歓声に変わる。


「うぉぉぉーーーー!!!

助けが来たぞぉぉーー!」


「ここを開けて!!

娘に会わせて!!」


「やったあぁぁぁーーー!

解放だ、やっと解放されるんだぁぁーーーー!」


 各々が喜びの雄叫びを上げるが、

まず鍵を探さないと、鉄格子の鍵を開けられない。


「誰か鍵知ってますか!?

鉄格子の鍵がどこにあるか、誰か知りませんか?」


 声を大にするが、皆喜び過ぎて俺の言葉が聞こえていない。

 少しでも早く安心させたかったが裏目に出た。

 先に鍵を探してからの方が良かったかもしれない。


「お若いの!」


 悩んでる俺の横で、鉄格子越しに手招きをする老人。

 老人は優しそうな顔で通路の奥を指さした。


「あっちの奥じゃ。

確かそっちに管理室があったはず。

行って来てもらえるかのぉ?」


「ええ……、でも何で知ってるんです?」


 管理室の場所なんて閉じ込められているのに知るはずはない。

 俺がそう思っていると、老人はバツの悪そうな顔で頭を掻く。


「わしゃ昔、源竜会の人間じゃった。

敵地に潜入したりしての。

ただ、敵の子供を守ったら裏切りだと言われこの有様じゃよ。

……まあ、悪いことをしてきた罰というやつかのぅ」


 少し驚いた。

 この老人はつまり、ネストへついた俺の嘘を実際にやったのがこの人なのだ。

 何だか少し親近感がわく。


「そうでしたか。

ありがとうございます、必ず助け出します!」


 歓声が上がる道を、俺は駆け抜けた。

 奥の通路に見える扉、きっとあれが管理室だ。

 そして敵がいるとしたら、後はここだけ。

 俺は意を決して中へ飛び込んだ。


「……誰もいない?」


 部屋には会場を映した水晶が宙に浮かんでいる。

 水晶に映しだされる血の海は、管理の人間がいないことを理由づけていた。


「なるほど。

大事なお客さんが虐殺される光景を生中継されれば、

監視なんてほっぽりだすだろうな」


 となればあとは鍵だ。

 俺は部屋全体を見回す。


「おっ、あった」


 数十の鍵の束がいくつも壁にぶら下がっている。

 きっとこれが牢獄の鍵だろう。

 俺は意気揚々と鍵を取った。

 その時だった。


「んなっ!?」


 ズンッという地響きと共に、建物が大きく揺れた。


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