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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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93マス目 見えない隠れ家


 見た目は何もない空き地。

 だが確かにそこにある見えない家。

 俺は手探りでドアを探し、ゆっくりと押し開いた。


「おーい、フィズ?

いないのかー?」


 家の中へ足を踏み入れるが、人の気配は感じられない。

 ただど真ん中に馬車が置いてあるだけ。


「……まいっか。

あいつなら、勝手に入っても文句は言わんだろ」


 気が付いたら、シランはもう中で座ってトマトの袋を漁っている。

 見えない家に突っ込みもせず、トマトを食べることを優先させる。

 その神経の図太さには、思わず感心してしまいそうになる。

  ……そうだ、今のうちにシランが操られてる仕組みを見ておくか。


「なあシラン、ベロが鼻に付く人は、

より多くの味を感じやすいって知ってるか?」


「え? んと……むひゅはひぃ(難しい)」


 シランは大きく口を開け、舌を上に伸ばす。

 それによって見えるようになった舌の裏側に、確かにそれはあった。

 同色でカモフラージュしたピンク色の魔法陣。

 これのせいでシランはあんな目にあったのか。

 考えるだけで、もう一度あのおっさんを殴ってやりたくなる。

 

「ん~~! んーーー」


 シランは鼻先に舌がついたのを、指差して見せつけてくる。

 俺は「良かったな」と言いながら、シランの頭を優しくなでた。


「……なあシラン。

しばらくの間、ここで待てるか?」


 ここからフラウトのいる学校までそう遠くない。

 危険だが、裏路地を通っていけば見つかりにくいはず。


「いいよ、でもあんまり遅いとやだよ」


「了解、出来るだけさっさと戻ってくるよ」


 俺は深くフードをかぶり、外の様子をうかがう。


「あ、もしフィズっていう家主が帰ってきたら、

俺の事を話せばわかってくれると思うから」


「うん、行ってらっしゃい」


 シランの見送りに片腕を上げて答えると、音を立てないように扉を閉めた。

 周りに人がいないことを確認して、近くの塀を乗り越える。

 俺は今まで以上に周りの目に注意しつつ、学校を目指した。








「……着きましたぜ旦那」


「お、おう。

助かったよ」


「そんじゃ、あっしはここいらで消えますぜ」


 そう言いながら、背の小さいゴロツキはどこかへ去っていった。

 ……いやまあ、裏路地で絡まれたから俺の顔見せたら、子分にしてくれとか言ってきた変な奴だ。

 もちろんあいつの名前すら知らない。

 しかし指名手配というのは、ある意味では権力のような力を持ってしまうようだ。

 この街の裏路地を平気で歩けるというのは、また違った不安感を覚える。


「……お? 結構いい時間に着いたな」


 ふと見た腕時計は、11時56分を指している。

 計らずともちょうど頃合いの時間に来ることができた。

 この時間は、前の世界で敷地内でフラウトに出会った時間帯。

 つまり、そろそろフラウトが校門から出てくるはず。

 そう思った矢先に、辺りを警戒しているフラウトの姿が見えた。


「よし、やっぱり来た。

入れ違いにならなくてよかった。

……おーい、フラウト!」


 大きく手を振るが、向こうはこちらを見て首を傾げる。

 まあこの格好では、教師や警備員には見えないし、

何故呼び止められているのか理解できてないのだろう。

 そんなフラウトに、俺は顔を見せないように近づいて肩を叩く。


「シランを助けたい。

協力してくれないか?」


「は!? え、何でその事を!?」


 驚くフラウトに対して、俺はゆっくりとフードを上げる。

 手配書と同じ顔を目の前に、フラウトは固まってしまった。

 そんなフラウトに俺は、体のいい嘘話を聞かせる。


「俺はヴァーデ公爵に罪をかぶせられた。

その時に知ったんだ、シランの事を。

シランを助けることは、俺の疑いを晴らす事にも繋がりそうなんだ。

君にも手伝ってもらいたい、頼めないか?」


 もちろんこれは、口から出まかせ。

 しかしフラウトは完全に信じ切ったようで、表情から怯えは消えていた。


「そ、そうだったんだ!

わかったよおじさん、僕も協力させて。

シランはどこにいるか知ってる?」


「ああ、ある場所で匿ってる。

案内しよう」


 これでフラウトも仲間に引き入れる事ができた。

 ここまでは今まで通り。

 問題はこの先だ。

 指名手配犯になったことで未来が大きく変わってる可能性がある。

 ……上手く源竜会を壊滅させられればいいんだが。


「おじさん、なんかすごい怖い顔してるね」


「え? ああ、ごめん。

何でもないんだ」


 フラウトも指名手配犯と一緒にいるなんて、本音は怖いはず。

 こいつのためにも、早くシランのいるところに戻ろう。








「よーし、着いたぞ」


 さっきのチンピラの道案内が上手かったので、複雑な裏路地からすんなり帰って来られた。

 だがフラウトは、俺に不審そうな目を向ける。


「着いたって何がさ?

何にもないじゃないか」


 そう、どう見ても何もないただの空き地。

 普通に見れば。

 俺は中心辺りに歩いて行き、ゆっくりと手で触れた。

 そこにあるのは確かな木の感触。

 迷彩なんて目じゃない、触ってること自体が違和感を覚える見事なカモフラージュだ。


「お、おじさん!

これ何!?」


「秘密の隠れ家、ほら入るぞ」


 俺は見えないドアノブを握る。

 すると、扉の部分だけがうっすらと視認できた。

 不自然に半透明な扉をゆっくりと押し開ける。


「ただいま」


 中は相変わらずボロボロ。

 そんな中に、絶妙なバランス感覚で杖に座るフィズの姿。


「おっ、来た来た。

シランちゃーん、トマトをくれた変なおじさんが帰って来たぞー」


 いきなり人を変人呼ばわりをするフィズ。

 どうやらこいつも帰って来てたらしい。


「おかえりなさ……あ! フラウト君!?」


 シランは嬉しそうな顔をしてフラウトに走り寄る。

 楽しそうにはしゃぐ二人を見ていたいところだが、フィズがこちらへ手招きしている。

 何か話があるような表情。

 俺は近くにカバンを置き、ローブを壁に掛けると、フィズの元へ歩み寄った。


「どうしたんだ?

……あ、そうだシランのこと見ててくれたみたいで、ありがとな」


「どういたしまして。

んでさ、ちょっと聞きたいことがあんだけど。

あんた、あのネスト追っ払ったって聞いたんだけどマジの話?」


「……そんなことまで知られているのかよ」


 俺の推定レベルが5ってのも、それでか。

 こりゃ捜索隊も相当気合入れてんだろうな。


「ふっふっふっ、こっちの情報網をなめたらいかんぞ。

でも追っ払った方法が見当もつかないんだよね。

あんたってレベル5とか言われてるけど、それって相当盛ってるでしょ?」


「盛ってんじゃなくて誤解されてんだよ。

というか何で分かったんだよ、俺が弱いって」


「そりゃそんだけ隙だらけなら、誰だってわかるだろ」


 逃亡生活なんだから、相当気を張り詰めているつもりだったが、

実力者から見れば隙だらけだったのか……。

 じゃあ、これ以上どうしろってんだ?


「俺はそのネストってやつに会ったことあるんだけどさ。

……ありゃ強いよ、化け物だ。

そんな相手に弱いあんたがどうやって勝ったのか。

俺めっちゃ知りたいんだよ!」


 随分と食い下がってくるな。

 ……もしかして俺がこの家を見つけられたのって、

これを聞き出したかったから、わざと姿を現したとか?

 でもそうでもなきゃ、普段姿を隠しているこの家が、俺に見つけられるはずないもんな。


「そんなに教えてほしいのか?」


「ああ、頼むぜ!」


 フィズは目を輝かせている。

 だが現実は物凄く汚い方法を使っている。

 ここで真実を話したら失望されないだろうか?

 もしも、「そんなつまらない人とは思わなかった、消えろ」とか言われて、

ここから追い出されたらと思うと、すっごく言い出しづらい。


「……仕方ない、教えるのには条件がある」


「条件? 何だよ、何でも言ってくれ」


「あの子たちを今日と明日の二日間守ってほしい。

守り切れたら教えてやるよ」


 正直言うと、このフィズって少年がロネットに勝てるとは思ってない。

 だが、隠密に限ればかなりの魔法だ。

 逃げ切れる可能性は高い。

 源竜会さえ潰してしまえば、フィズに失望されても問題ないしな。


「よしわかった、その話乗った!」


 フィズは力強く右手を差し出してくる。

 俺はすぐにその手を握り、約束を交わした。

 お尋ね者となってしまったが、だんだんと新しい光が見えてきた。

 俺はまだ這い上がれる。

 ここからだ。

 俺はこのどん底から這い上がって、亜人隊を倒して見せる、必ず!!


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