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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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92マス目 やさしいおじさん


 あれから数時間が経過し、日が昇る頃には、

俺の使命手配書が国中に出回る事態になっていた。


「……派手な事になってるな」


 俺は地下の書物保管庫で、エリザベートから受け取った新聞を眺める。

 機密情報漏洩罪とかなんとか、ごちゃごちゃと書かれている。

 しかし注目すべきは、俺の推定レベルと賞金額。


「レベル5の超凶悪犯で、3000万の賞金って盛り過ぎじゃないか?

何でこんなに吊り上がってんだよ」


「仕方ありませんわよ。

王の間へ誰にも気づかれず侵入して情報を盗み出し、

わたくしに接触して信頼関係を築こうとしたあげく、

ネストとも繋がりがあると思われてますもの」


 誤解が誤解を呼んで、そこにまた尾ひれがついてる感じか。

 まさかここまでの大事になるなんて……。


「こっちもいろいろやりましたわ。

でも、思った以上にお父様がご立腹でしたの」


「まあ、せっかく考えた作戦を暴露されたら、

そりゃあブチ切れるわな」


 とにかく、これじゃ身動きが取れない。

 今日中にシランと会っておきたいし、ヒゲ爺から拳銃も貰いたい。

 俺が動けないなら、誰かに代理を頼めればいいのだが。

 

「なあエリザベート。

俺の代わりにやってもらいたい事があるんだけど」


「やってあげたいのはやまやまですけれど、時間が作れないんですのよ。

この後すぐあなたの捜索を手伝って、徹夜で作戦の練り直しですの。

それ以外にも、馬車の手配、武器の用意、周辺の魔物の掃討。

抜けられる時間が少しもありませんわ」


「そうか……、そりゃ大変だ、頑張れよ」


 やはりエリザベートも動けないか。

 となると、テンダーとかはどうだろう?

 いや、あいつもエリザベートの手伝いで引っ張りだこのはず。

 

「やっぱり、これで顔を隠して行くしかないか。

かなり危険だけど、ほかに方法も無いしな」


「わたくしも、空いた時間でお父様を説得してみますわ。

……そろそろ行かないと怪しまれますわね」


 エリザベートは立ち上がると、スカートの埃を落とす。


「お前も気をつけろよ。

指名手配犯の片棒を担いだ、なんて知れたら、

立場的にマズいだろ」


 エリザベートは扇子を口元に当て、得意げに笑う。


「ご心配感謝いたしますわ。

それではごきげんよう。

オーッホッホッホッホッホ!」


 本当にあいつはブレない。

 あのお嬢様言葉が無理に作ってるものとは到底思えないな。

 でも、おかげで少し緊張がほぐれた。

 

「とりあえずは、シランに会う。

まずはそっからだ!」


 俺は勢いよくローブを羽織ると、

鞄の中身を整理してから慎重に外へと繰り出した。








 シランのいる広場は、徒歩だと地味に遠い。

 それに指名手配犯という状況が、精神を疲弊させる。

 町行く人の話し声にも思わず聞き耳を立ててしまう。


「機密情報が漏れたって、王国の情報管理はどうなってんだよ」


「さあ? でもちょっと情けないよな。

折角良い作戦立てても、敵にばれたら全部水の泡なのに」


 ……本当に俺が関わっている話題だった。

 というか、こんな事態じゃこの話題で持ちきりか。

 こりゃ見つかったらどんな目に合うやら。

  

「はぁ、俺は心配だよ。

こんな調子じゃ、いつか戦争にでもなるんじゃないか?」


「それより俺は国自体が勝手に自滅する方が早いと思うぜ?

何にせよ、嫌な世の中だよ」


「本当にな」


 俺は街の人の言葉を耳に入れながらフードを深く被る。

 目立つとわかっていても、どうしても足が早まった。

 早く何とかしないと、そう思ってしまうと、

どうしてものんびり歩いてはいられなかった。


 そこから約一時間。

 衛兵の目を避けつつ何度も回り道をして、ようやく広場までたどり着いた。

 

「あっ! あれってシランか!?

急いで止めないと!」


 俺の目に真っ先に飛び込んできたのは、子供が一か所に集まっている光景。

 一人を取り囲んでいるように見えるが、あれはきっとシランだろう。

 まだ暴力は振るわれてなさそうだが、それも時間の問題。

 前回はトマト作戦で脅したが、今回はそんなものない。

 指名手配中に店頭で買い物は危険すぎて無理だった。

 だとしたらどうやって注意を引けば……、いや待てよ。

 

「早く正体を現せよ!」


「おばけのくせに、なんでジル君を!!」


 うつむいて何も言わないシランに、容赦のない暴言が飛ぶ、

 そんな少年少女の後ろから、俺はそっと声をかける。


「ちょっといいかな?」


 顔を見せないように深く被ったフードが、とても怪しく見えたのだろう。

 子供たちは一瞬にして警戒しつつ身構える。


「……何なのさ、大人はあっち行っててよ」


「そうつれない事を……」


 ゆっくりとした動作で、俺はフードを持ち上げる。

 その奥には、街中を騒がせているお尋ね者と同じ顔。


「んぎゃぁぁあああああああぁあぁっぁあぁぁあ!!!!」


 まるで鬼でも出たかのように、泣きじゃくり逃げ惑う子供たち。

 だがやはりシランだけは、妙に堂々としながらこちらを見ている。


「……怖くないのか?」


「別に、助けてくれたし」


 指名手配犯を前にこの態度。

 ……さすがだ。


「おじさんて、悪い人なの?」


 シランのこういう質問はいつもはぐらかしている。

 でも、今は一刻も早くここを離れなければならない。

 多分さっきの子供たちがすぐに人を連れてくる。

 だから俺は、シランの頭を撫で優しく笑いかけながら言う。


「いいや、正義の味方だ。

さぁ、あいつらが戻ってくる前に逃げるぞ!」


「……うん!」








 物陰から書物保管庫へ視線を向ける俺は、

完全に言葉を失っていた。

 

「そんな、……もうばれたのかよ」


 保管庫に出入りする衛兵たち。

 推測だが、セルバさんが無くなった鍵にでも気づいたのだろう。

 しかし拠点が無くなったのは痛い。

 一旦馬車を置いてあるフィズの家にでも身を隠すか。


「ここは駄目そうだ。

一旦大回りして……シラン?」


 シランはボーッと一点を見つめている。

 どこを見ているのかと思えば……。


「……八百屋かよ。

腹減ったのか?」


 無言で頷くシラン。

 俺はポケットから財布を取り出し、二千円を渡した。


「これで好きなだけ買ってこい」


「いいの?」


「ああ、でも早めにな」


「ありがとう、やさしいおじさん!」


 シランは無邪気な顔で笑うと、八百屋に突撃していった。

 そして当然のようにトマトを買いあさっている。


「……やさしいおじさんねぇ。

まあいいか、どっちでも」


 何だかんだ言って、俺はトマトのおじさん呼びが少し気に行ってたのかもなぁ。

 そんな少しの寂しさを覚えながら、

俺はゆっくりとタバコに火を点けた。


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