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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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90マス目 夜空の逃亡者


「やり直してるって、どういう意味ですの!?」


 エリザベートは俺に剣先を突きつける。

 でも、俺は黙る気はない。

 

「言葉通りだ。

俺は死ぬと過去へ戻る。

おまえらとも、何度も一緒に過ごしたんだ」


 俺はテーブルのワイングラスを手に取る。

 すると、テンダーが指を鳴らして姿を消した。


「動かない方がよろしくてよ!」 


 エリザベートの切羽詰まった表情。

 今にも攻撃してきそうな緊張感。

 けれども、向こうも判断に困っているようだ。


「どうする、俺を殺すか?」


「テンダー、確保を!!」


 突如俺の背後に現れるテンダー。

 来るとはわかっていたが、流石に早い。

 俺は背中に飛びかかられて、床に顎を打ちつける。

 気が付くと、俺は後ろ手に組み伏せられていた。


「あいでででで!! ギブ! ギブ!

降参だから放してくれ!」


 俺が叫ぶとテンダーは少し力を緩める。

 

「……どうしようか、この人」


「取りあえず、地下牢に入れておくしかありませんわ。

あれだけ情報を持った人間を、野放しにはしておけませんもの」








 ゴツゴツした石造りの牢獄。

 こういう場所に入れられるのは二回目だが、

何回ぶちこまれても、慣れることは絶対に無いだろう。


「はぁ、……間違ったな、これ」


 俺は牢に入れられてから何度目かわからないため息をこぼす。


「やっぱりあそこで取り繕った方が良かったかなぁ?

こんな場所に閉じ込められたら、シランとフラウトを助けられないぞ……」


 ぶつぶつと文句は口からこぼれるが、実際それほど苦悩してるわけじゃない。

 結構気分はすっきりしている。

 もちろん後悔してないってわけじゃない。

 でもあそこで嘘をついて取り繕ったら、きっと自分が許せなかったと思う。


「……美味い飯食わせてもらって嘘をついたら、

エリザベートの母さんの言葉が嘘になる。

それは絶対に嫌だからな」


 今までそうしてきたのに、随分と虫のいい話だ。

 自分自身でそう思う。

 

「これは、今までの俺への罰なのかもな」


「何一人で感傷的になってるんですか?」


 突然の声に顔を上げると、テンダーが鉄格子の向こう側で、

配膳トレーを持って立っていた。

 トレーの上にはパンとスープ、それから水が乗っている。


「少し遅くなりましたが、夕食です。

今開けますね」


 そう言って、テンダーは鉄格子の鍵を開ける。

 しかし、別に俺は拘束されているわけでもないし、

ただベッドに腰掛けているだけ。

 逃げ出すつもりはもちろん無いが、随分不用心な事だ。


「そこ開けてよかったのか?

いやまあ、お前と戦っても勝ち目がないから、

出られない事には変わりないけどさ」


「……話をしに来ました」


「え?」


「ちょっと隣失礼しますね」


 テンダーは俺の隣に腰掛ける。

 俺にはテンダーの行動の意味が解らなかった。


「話ってなんだよ。

エリザベートの指示に逆らってまで、俺から聞きたい事があるのか?」


 そう言ってテンダーの方へ視線を向けると、強く頷いていた。


「あなたの言っていることが正しいのなら、未来を知ってるんですね?」


「……ああ」


「どれくらい先を知っていますか?」


「えーっと、三日くらいだな。

何もできなかったときは、その先も少しだけ知っている」


 俺は自分で言ってて少し驚いていた。

 まだ三日しかこの世界で生き残れていないという事実。

 なんと厳しい世界だろうか。

 俺が言葉を失っている間に、テンダーは静かに呼吸を整え、

内に秘めた感情を放出するように、俺へ問いかける。


「三日後の国外会合、さっきエリザベートから詳しく聞きました。

お願いします、教えてください!

その任務で、エリザベートは無事に帰って来られるんですか!?」

 

 不安そうな表情のテンダー。

 わざわざ聞いてきたという事は、察しがついているのかもしれない。

 もちろんここでしらばっくれる意味はない。

 少し残酷だが、俺は真実を伝えたい。


「テンダー、良いかよく聞け」


 息をのむテンダー。

 俺は包み隠さない。

 こいつが真実を望んでいるから。


「エリザベートは、泣き叫びながら苦しんで死ぬ。

お前に助けを乞いながら、死んでいくんだ」


「……嘘だ」


「嘘じゃないさ。

ルガニスさんも、リックも死ぬ。

全滅だ、皆殺しにされる」


「嘘を、つくなあぁぁ!!」


 テンダーは俺の首元に掴みかかる。

 だが、俺の目は変わらない。

 全てを見てきたその目は、テンダーに妙な説得力を植え付ける。


「……何とかできないの?」

  

「俺もやってみたんだ、未来を変えるために。

でも結果は同じだった」


「どうなった?」


 俺はゆっくりと目をつぶり、一つ一つ思い出していく。


「馬車を一台じゃなく4台に変えてみた。

一台目の馬車はルガニスさんだが、正面から戦って消し炭にされた。

二台目はお前とエリザベート。

お前はエリザベートを庇って死に、エリザベートも敵の自爆で道連れ。

三台目はリックだが、これはわからなかった。

どうやられたか、いつやられたか、でも敵は女だった。

そして、4台目は俺が乗ったが、完全に赤子扱いだったよ。

はっきり言って、このままじゃまたみんな死ぬ」


 テンダーはすぐさま立ち上がり、鉄格子に手をかける。


「止めないと。

今すぐ王様に会合の中止を申し立てて……」


「そんなの俺が前の世界でとっくにやった。

だけど、無理なんだ。

もう、止めることはできない」


「じゃあどうすれば!?」


 顔を青くするテンダー。

 俺はその肩を力強く叩いた。


「落ち着け! お前が騒いでもしょうがねぇだろ。

いいか、いくつか方法がある」


「……方法? どんな!?」


「詳しく説明したい。

紙とペンを持ってこれるか?」


「ええ、わかりました!

すぐに戻ります!」


 そう言いながら、テンダーは鉄格子を閉めもせずに走っていった。

 もはや俺を閉じ込めていることなどテンダーの頭には無いようだ。

 まあ、こちらもこの隙に逃げ出そうとは思わない。

 ベヨネッタ家の力を借りなくては、この先戦うことはできないのだから。

 裏切るような真似は極力避けるべきだろう。


「会合か、……俺の考え通りに行けるなら、

きっとエリザベート達は問題なく生き残れるだろうな。

でも、……俺はどうだ?

アルニアと正面から戦って勝つ、可能なんだろうか?」


 殴り合いは論外としても、火傷程度で死ぬ相手ではないし、

爆破結晶が効くとは思えない。

 そして、銃で頭を撃ち抜いても普通に反撃してくる敵。

 俺の攻撃手段が何一つ通用しない。

 

「血……、血の魔法。

血の弱点って何だろ?」


「随分とおかしな事を悩んでますのね」


「うお! いつの間に……」


 気が付くと、エリザベートが鉄格子の中に入って来ていた。

 声をかけられるまで全く気が付かなかった。


「何でここに? もしかして釈放してくれるのか?」


 俺は違うと思いながら、冗談交じりに言ってみた。

 だが、意外にもエリザベートは首を縦に振る。


「今すぐ逃げますわよ!

今テンダーが荷物を持ってきますわ」


「逃げる?」


 意味が解らなかったが、取りあえずここからは出られるらしい。

 俺はさっき運んでもらった水を、一気に飲み干した。


「わたくしはあなたを信じようと思いますわ。

……でも少しマズいことになってしまいましたの」


「マズいって何が!?」


 エリザベートの表情が、バツが悪そうなものに変化していく。


「わたくしがあなたの事を、セルバに話してしまいましたの。

その後テンダーに説得されて、考えが変わりましたわ。

でももうお父様にも話は行ってるでしょうし、

このままだと数か月の禁固刑ですわよ」


 禁固刑!?

 そんなものになったら、独房にいるうちに国が亡んじまう。


「ここから出たらどうすればいい!?

俺、この国に知り合いとか一人もいないぞ」


「大丈夫ですわ、馬車を用意していますから。

馬車を使って時計台へ向かうといいですわ」


 エリザベートは少し変色した銀製の鍵を取り出す。

 ……この鍵、俺は見覚えがある!


「それって、書物保管庫のカギだな」


「なるほど、……前の世界で行きましたのね。

それなら話が早いですわ。

一旦この場所で身を隠していてくださる?

その間に、わたくしが何とか誤解を解いてみますわ」


 エリザベートの考えもわかるが、あまり体力を使う真似は控えてほしい。

 なんせ俺を殺した巨人と一人で戦ってもらうことになる。

 疲れが原因で殺されてしまえば、結局作戦は失敗なのだ。


「その思いだけで十分だ。

こっちはこっちで何とかする。

お前は自分の仕事をしっかりこなして、体力を蓄えとけ」


 俺はエリザベートの肩を叩くと、開きっ放しの扉から飛び出した。

 

「……何だか、色々見透かされた気分ですわ」








「おお、ちょうど良かった。

テンダー、俺の荷物は?」


「ここにあります、受け取ってください!」


 地上階に上がる階段で、運よくテンダーと鉢合わせた。

 俺は鞄を受け取ると、そのまま屋敷の外へ出る。

 

「あとこれを、その恰好では目立ち過ぎますから」


 テンダーが手渡してきたのは焦げ茶色のローブ。

 以前受け取ったベージュのローブと違って、安っぽい作り。

 ペガサスの刺繍もないので、これなら一般人に紛れられる。


「助かるよ、この馬車を借りていいんだよな」


「ええ、どこかで乗り捨てても構いませんよ」


「いや、ちゃんと返すよ、ありがとう」


 俺は手を振りながら手綱を握る。

 その時だった。


「何をしてらっしゃるのですか!!?」


 窓から身を乗り出し叫ぶ姿。

 あれはセルバさんだ!


「やばい! 引き離せるか!?」


 俺は力の限り手綱を強く振るう。

 一気に加速する馬車だが、セルバさんも窓から軽々と飛び降りこちらを追ってくる。

 だが、急にセルバさんが減速し始める。


「テンダー様!! 何故邪魔をなさる!?」 


 よく見ると、俺の横に4台の馬車が走っている。

 テンダーの幻覚だ。

 ……借りが出来たな。

 俺はもう一度手綱を振り下ろす。

 

「さてと、こっから大変だぞ」


 俺は夜空に向かって言葉を吐き捨てる。

 もうセルバさんは追って来てはいなかった。

 俺は大通りを駆け抜ける。

 星空に照らされた時計塔を目指して。


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