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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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89マス目 言葉遣いの理由


 それは真っ白な雪が積もる冬の事。

 あの年は、国に流行り病が流行っていたんですわ。

 屋敷の執事とメイドも何人かが病に倒れました。

 そしてとうとう、わたくしのお父様も……。


「お父さん、大丈夫?」


「ああ、うつるとまずい。

早く部屋から出るんだ」


 ルガニスはベッドの上で動けないでいた。


「王国最強の騎士も、病には勝てないわね」


「何言ってる、お前の方が強いくせに」


「あたしは騎士じゃないも~ん。

ただの団長夫人だも~ん」


 フローラは口笛を吹きながら、ルガニスの額に冷やした布を押し当てる。


「さて、お父さんの言うことも一理ある。

健康なあたしたちは、さっさと退散しましょうね~」


「ああ、フローラ。

お前は少し残ってくれないか」


「ん? な~に~?

寂しくなっちゃったか!?」


「真面目な話だ、頼む」


「……わかったわ」


 フローラはエリザベートの肩を軽くたたいた。

 

「フラウトのところへ行ってて。

お父さんの話を聞いたら、すぐに向かうから」


「うん、早く来てね」


 フローラはエリザベートに手を振りながら、部屋の戸を閉める。

 その目は一気に母親から騎士へと変貌した。


「あなたが頼むなんて、相当なのね。

一体どんなことを頼まれちゃうのかしら?」


 少し皮肉気味に言うフローラへ、ルガニスは一通の封筒を手渡した。


「何これ、手紙?」


「書類だ、食肉用の魔物の狩猟領域に関してのな。

三日後にカナリアの国際機関で手続きをしなければならない」


「なるほど、その体じゃ行けないわね。

んで、カナリアへの道は魔物が多いし、普通の兵を行かせられないと。

ありゃま、これは一大事じゃないのよ」


「茶化すな」


 フローラは軽くため息をつくと、封筒をポケットにしまい込む。


「三日後ってことは、今日中に出なきゃまずいわね。

しゃーない、準備して来よう!」


「すまない」


 フローラはなんだか笑いが込み上げていた。

 弱みを見せた夫が可愛らしく見えたのか、

ただ珍しかったのかはわからない。


「いいってことよ、任せなさい!」


 フローラは胸を張りながら扉を開ける。

 すると目の前に小さな人影。


「エリザベート!?

あれ? フラウトのところ行ったんじゃなかったの?」


 エリザベートはふるふると首を横に振る。

 そうしてあげた顔には涙があふれていた。


「お母さん、危ない場所に行くの?」


 フローラは困った顔でルガニスに振り返るが、

向こうも同じく困り顔で首を横に振っている。

 

「……いい? エリザベート。

あたしはちょっと怖いところに行く。

でも、お母さんが強いの知ってるでしょ?

平気平気のヘッチャラよぅ!」


 その時、何故だかわたくしは、初めてお母様を信用できませんでしたわ。

 子供ながらに嫌な予感というのを感じていたのかもしれないですわね。

 そうしてお母様は、すぐに支度を整えて、玄関口で泣くわたくしを必死で慰めていましたわ。


「嫌だ、……お母さん行っちゃやだぁ!」

  

「どうしよう、困った。

あと泣き顔可愛い、そっちも困った」


 フローラが冗談を言っても、エリザベートは泣き止まない。

 エリザベートがここまで駄々をこねるのは、これが初めてだった。

 周りの執事とメイドも、どうしていいかわからず、おろおろとするばかり。

 その時フローラは、何かを思いついたようにエリザベートへ優しく微笑みかけた。


「そうだ、エリザベート。

約束をしよう!」

  

「……約束?」


 フローラは頷きながら、エリザベートの小さなおでこをつつく。


「そう、約束。

あなたが良い子に……、いや。

立派なレディでいれば、あたしは絶対に帰ってくる!」


「レディ?」


 目を赤くしながら首を傾げるエリザベート。

 フローラは楽しそうに笑いながら続ける。


「そうよ、お嬢様言葉で喋って、綺麗なドレス着て。

えーっと、扇子と……、日傘? あとなんだろ。

あ、そうだ、あたしの部屋に宝石があったから、それ付けていいや」


「え? 宝石!?」


「ふっふっふっ、違うぞ。

宝石ですの!? あら素敵ですわぁ~。

オーッホッホッホッホッホ!

……こんな感じよ!」


 エリザベートは少しワタワタしながら言葉を考える。

 そして満点の笑顔でフローラへ言った。


「わかりましたわ、お母様!」


「ん~~~っっ、合っ格!

超かわいい!

ルガニスにも見せてやりたい!」


 フローラはエリザベートを抱きかかえると、

頭をワシャワシャと撫でまわす。


「お母様、髪がボサボサなってしまいますわ」


「ああ、ごめんごめん。

でもうまいわよ、いい感じじゃない!」


「本当!? ……じゃなくて、本当ですの?」


 フローラはうんうんと首を振りながら、両手で丸印を作る。


「さぁーて、そろそろ行ってきますか!」


 そう言いながら、ゆっくりとドアに手をかける。

 フローラはエリザベートの方をちらりと見た。

 だが、もう心配はいらなかったようだ。


「行ってらっしゃいませ、お母様」


 そこにはにこやかに見送りをするエリザベート。

 

「それじゃ、行ってくるわ。

エリザベート、だーーーい好きよ!!」


 そう言ってフローラは、子供のように駈けて行った。

 その後フローラは、王国の長距離用馬車を借りて北門から出発。

 二日後、無事にカナリアに着いたと知らせが入る。

 しかし、その後フローラからの連絡が途絶えた。

 騎士団の人間が十数人がかりでカナリアを調査するも、手がかりすら掴めなかった。

 そして、フローラが家を出て2週間が過ぎた。

  

「お母様、遅いですわ」


「……エリザベート、本当にずっとその喋り方なのか?

多分フローラも真面目に言ったのではないと思うが」


「いいんですの。

これは約束ですもの。

お母様、冗談は言いますけれど、約束は破りませんのよ」


 エリザベートはレディらしい高級な紅茶を、ゆっくりと喉へ流し込む。

 寂しいという言葉を、喉の奥へ押し込むために。

 

  



 それから時は流れ、雪も溶けだしてきた。

 それでもエリザベートは、毎日窓の外へ目をやって、母の帰りを待っていた。


「お母様、まだ帰ってきませんのね」


「……エリザベート。

そろそろ出発するぞ」


「……どこへですの?」


 本当はわかっていた。

 母がもう帰ってこないことを。

 どんなに待っても無駄な事を。

 それでも信じたくなかった。


「母さんの……」


 言わないで。

 エリザベートの理性が、その言葉を止めた。

 言っても無意味だと、現実は変わらないとわかっていたから。

 でも、言えば良かったと後悔した。


「母さんの、葬式だ」


「……うっ、……ひぐっ」


 涙があふれる。

 止められない。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 会えないなんてやだ。

 そんなの絶対やだ。

 

「いやだ……」


 たった十歳の女の子に、母を失うショックは大きすぎた。


「いやだああああああああああああああああああ!!!!!」








「……いまだにお母様の情報はありませんわ。

もちろん、もうお母様が帰ってくるなんて思ってませんわよ。

でも、この言葉遣いをやめたら、私の中の思い出すら消えてしまいそうで、

何だか少し怖いんですのよ」


 ……悲しい話だ。

 俺も母が死んだから気持ちはわかる。

 でも、行方不明というのは悲しさもそうだが、不安でたまらないのだろう。

 肉親の死体もない。

 これがどんなに辛いことか、俺には想像もできない。


「でも、良く立ち直れたな」


「二人の幼馴染のおかげですわね。

ね、テンダー」


「改めて言われると、照れますよ」


 なるほど、テンダーとリック。

 二人が必死に励ましたのか。


「ああ、そうですわ。

わたくしとテンダーは幼馴染ですの。

それともう一人いるんですのよ、リ…」


「リックだろ」


 間髪入れずに俺は答えた。

 

「良く知ってますわね。

まあ、大通りの人にでも聞いたんですわね」


「……リックは精霊の召喚が出来て、

エリザベートより強いレベル6」


 エリザベートとテンダーは顔を見合わせる。

 だが、俺の口はまだ止まらない。


「リックは3歳の時から欠かさずエリザベートに告白している」

  

「……そうですわ。

お母様がいなくなった時も、

俺が見つけ出してやる、お前が好きだからなって。

そうやっていつも励ましてもらいましたわ。

でも、それを知っている人間はそう多くないですわよ」


 エリザベートの目がだんだんと鋭くなってくる。

 それでも俺は口を閉じない。

 

「リックは帽子を取ると性格が変わる。

王国騎士団第一部隊隊長で、索敵が得意。

テンダーは霧を操る幻影魔法が使える。

エリザベートは傘を複製する魔法だ。

んで、その傘の中には刀が仕込んである。

あと、ルガニスさんは重力の魔法を使える。

それから、もうすぐ王様がカナリア王国へ行く。

石油の問題で国外会合だ。

暗殺防止に、偵察の馬車を出して、索敵。

エリザベート、ルガニスさん、リックで王様を護衛だったよな。

あとは……、こんなもんでいいか」

  

 俺が気が付くとエリザベートは剣を抜き、テンダーも霧を出して構えている。

 二人とも全身に汗をかき、俺を視野に捉え続けている。

 

「……情報屋、そんなレベルじゃないですわ!」 


「昨日王様から、ルガニス様とエリザベートが聞いた話って今の!?

なんでもう、外部に漏れてるの!」


「絶対漏れるはずありませんわ!!

なんで、どうなってますの!?

あなた本当に……、何者?」


 俺は深く息を吐くと、意を決したように立ち上がった。


「俺は、……この世界を何度もやり直してる」


 もう引くことは出来ない。

 どう転んでもおかしくはないギャンブル。

 俺はとうとう振り込んでしまった。

 運命のサイコロを。


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