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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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88マス目 世界一優しい尋問


「食べませんの?」


 俺の目の前には、何度も食べたことのある豪華な料理。

 普通だったら、このぶ厚い肉に食らいつきたくなるだろう。

 でも今はそんな気分になれそうもない。

 というより、言い訳が全く思いつかない。

 死んだ母親の言葉を知っていた理由なんて、どう答えればいいってんだ。

 とても冗談で流せる内容でもないし、母に会ったことがあると言えば、

死因によってはとんでもない矛盾を生んでしまう。

 もし病弱で寝たきり生活だったなら最悪だ。

 

「……テンダー以外の者は、席を外していただけますかしら」


「かしこまりました」


 セルバさんの先導で、執事とメイド達が食堂から出ていく。

 問い詰められるんじゃないのか。

 俺は思わず席を外していく人たちを目で追った。


  「……少し昔話をして差し上げますわ。

  今から7年前、わたくしが10歳の時ですの」


 テーブルを挟んだ向こう側。

 エリザベートはワイングラスを揺らしながら、

とても遠い目でゆっくりと語り始めた。






 


「お母さん、危ないよ!」


「だいじょーぶだいじょ……、んわぁぁぁぁああ!!」


「お母さん!!」


 木から落ちかけた母に、急いで駆け寄るエリザべート。

 しかし母の両足はがっちりと木の幹を掴み、落ちてきそうにない。


「へっへーん、だまされたー。

心配した?」


「もう、お母さんたらぁー」


 エリザベートは安心したような表情を見せると、母はするりと木から降りた。


「ほーら、もう洗濯物飛ばしちゃダメよ」


「はーい」


 わたくしの母、フローラお母様。

 優しく、逞しく、美しい、とても自慢の母でしたわ。





「そこまで!!」


 審判の旗が上がる。

 フローラはニヤニヤしながらルガニスに歩み寄った。


「……また腕を上げたんじゃないか?」


「あらやだ~、負けた言い訳?

何言っても駄目よ、約束通り特大アップルパイ奢ってね」


 手を伸ばすフローラの手を掴むルガニス。


「ま、またあれか。

よくも飽きないな」


「乙女にとって、スイーツは燃料なのです!

ねー、エリザベート」


「うん、お父さんも美味しいって言ってたじゃん」


 エリザベートの反論に、苦笑いしながら頭を掻くルガニス。


「まあ、美味いは美味いが……量が」


「おお? いやなら勝てばいいじゃな~い」


「……至極もっともな意見だ」


 諦めたとばかりにうなだれるルガニス。

 練習試合とはいえ真剣勝負。

 お互い手は抜いていないのに、戦績は56戦43勝と母の圧勝。

 そんな強い母も大好きでしたわ。


  



「こうして、……んでこう!

おお、上手い上手い! さっすが私の娘!」

  

 手首をむやみに動かさず、的確に正面の的を狙う。

 フローラが教える剣術は、フェンシングに近いものだった。


「ほっ! とう! どうどう? お母さん!?」


「いいよいいよ! 

でも姿勢はもっと真っすぐに。

相手の攻撃をもっと避けやすいように、足は少し大きめに開いて……そう!」


 お母様の指導はわかりやすく、遊んでいるような楽しさすら感じましたわ。





「おいおい、子供の前でがっつくんではない」


「だってフラウトが泣き止まないそうじゃない!

早く……むぐむぐ、ひっへあへはいほ(行ってあげないと)」


 フラウトの世話はメイドがやってくれているが、たまにこういう事が起きる。

 やはり母の愛情を直に感じ取りたいのだろう。


「いいからメイドに任せて、ゆっくり食べなさい。

エリザベートに示しがつかんだろう?」


「示しなんて言葉、あたしの辞書にありません!

エリザベート、明日ちゃんとしたマナー教えたげるから、

たまにはお母さんみたいに食ってみな。

マナーの大切さってものが分かるから」


「フローラ!」


 さすがにルガニスも声を大きくするが、

フローラは軽く流す。


「ふぃー、ごちそうさまー!

フラウト、今行くよーぅ!」


「……お父さん今日も負けちゃったね」


「言うなエリザベート。

……どうしてもあいつの勢いに飲まれてしまう」


 言っておきますけれど、夫婦喧嘩なんて一度もありませんでしたわ。

 というか、お母様が一枚も二枚も上手で勝負になりませんの。





「どうしたの、その人!?」


 ある日の夕方、ルガニスが一人の男を担いで帰って来た。

 手足に拘束具を付け、物々しい雰囲気があった。


「罪人だ。 城の牢が満杯でな。

うちの牢を貸し出すと、私が申し出た」


「……あなたが尋問するの?」


「そうなるな」


「うー、子供がいる家で、そういうのやだなぁ」


「仕方ないだろう。

地下の鍵を持ってきてくれ」


 その時、ルガニスの担ぐ罪人が大きく暴れ出した。


「んんむぅぅ!! むぐうううう!!!」


「ちょっとぉ、何で気絶させてないのさ!

せめて睡眠系の魔法でも……」


「どうしたのお母さん!」


 男の叫びを聞いたエリザベートは、玄関に走ってきてしまった。

 

「……え?

お母さん、その人」


「エリザベート、これはだな…」


「待って!」


 フローラはルガニスの言葉を遮った。

 そしてあろうことか、罪人の拘束を解き始めた。


「おい、フローラ!!」


「いいから、……子供の前で鞭を振るう気?」


 フローラの言葉に目を逸らすルガニス。

 その直後、フローラは優しく笑った。


「大丈夫、天下のルガニス・ベヨネッタの前で、

子供を襲うおバカはいないわ。

それにエリザベートへの教育になるかもね」

  

「教育!? 何を言っているんだ!」


 ルガニスの言葉を背に受けながら、フローラは全部の拘束を解き終わる。


「さあ、立って」


「おっ、俺をどうする気だ!?

効率の良い殺し方でも、ガキに教える気かよ!」


 フローラは笑みを崩さず、男の肩を叩く。

 

「なんでもネガティブに考えるから、悪いことしちゃうのよ。

もうちょいプラスに考えなよ」


 フローラは執事を呼ぶと、耳打ちで指示を出す。

 同様にルガニスにも事を伝え、ルガニスに罪人の背中を押させる。


「んじゃ、その人を良い場所にお連れしちゃって~」


「何だよ、地下か? 地下へ連れてくんだろ!!」


「いいから来い。

私にも妻の考えはわからんのだ」


「おい、ほんとに何なんだよ!?

俺をどうする気だよ、おい!?」


「いってらっしゃーい」


 男に手を振るフローラ。

 罪人の男も、ルガニスの隣ではヘタな事は出来ず従うしかない。

 そんな男の様子を見ているエリザベートは、とても不安そうな顔をしていた。

 フローラはエリザベートへ手招きをする。

 それに従い走り寄ってくるエリザベート。


「お母さん。

あの人、怒られちゃうの?」

  

「ううん、質問するだけよ」


 フローラはエリザベートの額に、自分の額をくっつける。


「いーい? エリザベート。

話をするなら腹ペコな人よりも、

お腹いっぱいになって、ご機嫌な時に聞く方が、

嘘をつかないでくれるのよ。

今からそれを見せたげる」

 

 その時わたくしには、意味がよく解りませんでしたわ。

 でもそのあとすぐ、母が身を持って教えてくれましたの。





「お食事の用意が整いました」


「は?」


 ポカンとする男の背中を、ルガニスが軽く押す。

 

「いいから入れ、貴様の為の食事だ」


 食堂に並べられた料理。

 普段は豪勢な料理が並べられる美しい空間には、

何とも似つかわしくない食事が並べられていた。

 

「荒麦のパンに、野菜スープ?

それと、……これは」


「炒り豆に小魚を和えたものよ。

お腹空いてるっしょ?」


 男が振り返ると、そこにルガニスの姿は無い。

 ただフローラが楽しそうに笑いながらそこに立っていた。


「ほらなにしてんの。

座って座って」


 フローラは男の横をすり抜けると、さっさと席に着く。

 その横にはエリザベートもついて来ている。


「……馬鹿にしてるのか!

罪人は罪人らしく貧相な飯でも食ってろって言いてぇんだろうが!

だったら最初っから…」


「お待たせいたしました」


「え?」


 執事が持ってきたのは、今テーブルにあるのと同じような食事。

 それをフローラの前に並べていく。


「豪華な食事を出してもいいんだけど、

多分口に合わないわよ。

ああいうのは、味が複雑だし。

甘かったりしょっぱかったり、よく分かんないのが多いのよね。

少なくとも、私はこういうご飯の方が好き。

ルガニスには貧乏舌って言われるけどね」


「お母さん、わたしも!」


「うん、今持ってきてもらうからね」


 椅子に座って庶民の食事を待つ貴族の娘。

 罪人の男には異様な光景に見えていることだろう。


「……こういう飯は、よく食うのか?」


「夫が出かけているときはね。

うちの子も、分厚いステーキより揚げたパンの方が喜ぶのよ。

いやー、私に似たのかねぇ」


「奥様、お酒をお持ちしました」


 執事が運んできたのは、どこにでも売ってある安酒。

 しかも執事は運ぶだけ。

 注ぐのはフローラ自身だ。


「ほれ、エリザベート。

これも勉強よ、そっちのおじさんに注いでやんな」


「うん!」


「お、おう、わりぃな」


 微笑ましい笑顔でお酌するエリザベートに、

フローラは目をキラキラさせてはしゃぐ。


「にひぃ、うちの娘ちょー可愛くない!?」


「……まあ、将来美人になりそうではあるな」


 男は戸惑いながらも、フォークを手に取った。

 するとエリザベートが声を上げる。


「おじさん、手をぐーにして持つのは駄目だよ」


「お、そうだそうだ。

子供の前ではちゃんとしろー」


「え、……っと、こうか?」


「うん、そう!」


 もう男の顔からは、不安や疑いは消えていた。

 そこには幸せそうな笑顔がこぼれていた。


「……美味い」


「だろうね、美味しく作ってるから」


「こんな優しくされたの……、初めてだ」


 男はスープをすすりながら涙をこぼす。

 スプーンを持つ手は少し震えていた。


「あんたは、俺から情報を聞き出そうとしないのか?」


 男の問いに、フローラは眉を潜ませ、小馬鹿にしたように答えた。


「無理に言わせて、あんたは楽しい?

あたしは楽しくないなぁ。

そんなつまんないおしゃべりするくらいなら、

あたしは娘と息子の自慢話しちゃう」


「そうか、……ああそうかい。

…………なあ、酒をもう一杯くれないか?

酒の肴に、俺の情報を話そう」


「あらあら、これは美味しいお酒になりそうね」


「お母さん、わたしは?」


「そうねぇ、んじゃジュース持ってきてもらおうか」


「いいの?」


「もちろん、何が良い?」


「パインジュース!」


 ……今思い返しても笑ってしまいますわ。

 世界一優しい尋問。

 あれが出来るのは、世界中でお母様だけですわね。

 でも、お母様との楽しい生活は、

この一か月後に全て壊れてしまいましたわ。

 エリザベートは渇いてきた舌にワインをなじませると、話を続けた。


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