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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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83マス目 最強の騎士vs最強の暗殺者


 最初に攻撃を仕掛けたのはルガニス。

 握りしめた大剣を豪快に振り下ろす一撃。

 もちろんこんな攻撃が当たるわけはなく、

アルニアは余裕たっぷりに横っ飛びでこれを回避。


「砕けろ!」


 ルガニスの言葉と同時に大剣が地面に叩き付けられる。

 その衝撃で大地は抉れ、発生した衝撃波が周囲を吹き飛ばす。

 アルニアは素早く飛び上がるが、衝撃による突風にあおられ、家屋に突っ込んだ。

 だが、まるでダメージを受けた素振りも見せずに、アルニアは邪魔な瓦礫を消し飛ばす。


「すごいねそれ、少し油断したよ」


 両手を広げてルガニスに突っ込むアルニア。

 今度は爪を一塊にして、巨大な槌に変化させる。


「槌? 私の真似でもする気か。

とても実力者とは思えんな」


 振り下ろす一撃を躱し、ルガニスは握りこんだ拳をアルニアの腹に叩き込む。

 だがアルニアは怯まない。

 槌をすぐさまランスのように変化させると、アルニアは大きく振りかぶる。

 しかし。


「沈め!」


 その一言と共に、アルニアの体は地面に叩き付けられる。

 いや、押しつぶされていくと言った方が正しい。


「体が、……重い?

なるほど、重力か」


 大地に縛り付けられるアルニアに、ルガニスは容赦なく大剣を振りかぶる。


「それは痛そうだ、少しまじめにやろう」


 アルニアはにやりと笑う。

 そして、アルニアの背中が大きく裂けていく。

 裂け目からおびただしい赤い糸が宙を舞い、

それらが絡み合い翼を形作る。

 赤い翼は絡みつくツタのように、大剣をスルスルと絡み取る。

 

「なに!? ……ぬん!!」 


 ルガニスは絡みついた翼を力づくで振り払うと、一旦距離を取った。

 重さから解放されたアルニアは、翼をしまいつつ立ち上がる。


「さてと、これならどう?」


 アルニアは両手を真っ赤に染めると、パンッと手を叩く。

 その音で目覚めたように、アルニアの手の隙間から蛇が顔を出す。

 その姿は赤黒く、模様もない。

 蛇は見る見るうちに巨大化して空を泳ぎ出す。


「巨大な蛇とは、まるで召喚魔法だな」


「さて、これをどう防ぐ?」


 アルニアは軽く右手首を捻る。

 それが合図となり、20メートル以上の大きさになった赤の大蛇は、

ルガニスを飲み込もうと口を開け襲い掛かる。

 

「その程度で、私の首を取れると思うなよ」


 風を切り、大地を抉り、凄まじい速度でルガニスに襲い掛かる大蛇。

 しかし、ルガニスは一歩もそこから動かない。

 それどころかルガニスは剣をしまい右手を前に突き出した。

 大蛇の鋭い牙がルガニスを貫く瞬間。

   

「邪魔だ」


 一瞬だった。

 その巨体はまるで吸いつけられるように地面へと沈んでゆく。

 大地にヒビが入り、大蛇は原形を留められず赤い水溜りとなって消滅した。

 ルガニスは大蛇の残骸に指先で触れる。

 ベタつき、鉄の臭いが鼻を突く。


「血か……、なるほど。

そう大層な魔法でもなさそうだ」


「なんだ、気づいてなかったのか。

隠してるつもりはなかったけど。

その通り、血を操る”充血魔法”。

こいつは使い勝手が良くてね、こんなこともできる」


 アルニアは両手の爪全てから血の刃を伸ばすと、矢のように射出する。

 ルガニスに向けて発射された血の爪は空中でいくつにも分かれ、

散弾のように鋭い刃がばら撒かれ、回避を許さない。

 するとルガニスは剣を抜き、刃を垂直に構える。


「吹き飛べ!」

  

 ルガニスの叫びと共に振り払われた剛剣。

 縦にした刃は空気抵抗をモロに受け、

さながら巨大な扇を振るったかのような突風が吹きすさぶ。

 風は血の爪を押し返し、アルニアを襲う。

 だがアルニアは避ける気配もなく、体に刺さる自らの刃を気にも留めない。

   

「へぇ、でも無意味だ。

ただ単に俺の血液が、俺の体内に戻るだけ」


 そう言った直後、アルニアの表情が曇った。

 ルガニスの前方、その地面が大きく沈み込んだのだ。

 風に吹かれた部分が徐々に沈み込んで行き、広範囲に広がっていく。


「これは、どうなって……、くっ!」

  

 アルニアは全身を赤く染める。

 血液は固まるもの。

 魔力が通い硬く凝固した血液は、鉄壁の鎧としてアルニアを守る。

 徐々に迫ってくる地面の沈みに、アルニアは歯を食いしばる、……しかし。


「ぐぅぅ、うおぁ!!」


 重い空気が絡みつくように、アルニアの全身を地面へと吸いつける。

 

「……何だこの攻撃!? 重力とは違う感じがする。

何なんだ、……重さ、……重量、……体重。

…………わかった」


 アルニアは沈みゆく大地に手を付け、頭を垂れながら呟いた。


「何かを重くするんだ、奴の魔法は!

これは風で飛ばした空気を重くしたのか」


「たったこれだけの攻防で気づくとはな」


 アルニアは重みで軋む首を無理に動かし、顔を上げる。

 そこにはルガニスが剣を振りかぶって立っていた。

 

「触れたものを数秒間重くする。

貴様のように芸もない、力任せの魔法だ」


 そう言ったルガニスの足元に大きなヒビが入る。

 自らを重くしているのだ。

 

「さて、時間が惜しい。

冥途の土産は十分だろう?」


 ルガニスがより強く剣を握りしめる。

 

「……良い事を教えてあげよう」


 アルニアはニヤニヤと笑っている。

 こんな状況なのに。


「こういう場合、止めは急いで刺した方がいいよ。

相手に逆転の手が残されてるかも……」


 アルニアの口が動きを止める。

 ルガニスの大剣が、肩口を斬り裂き、腰にまで達している。

 

「そんな言葉で、私が隙を作ると思ったか?」


 アルニアは何も語らない。

 その口からは、言葉ではなく血液が零れ落ちる。

 地面に血だまりを作り、力なく倒れこむ。

 その目にはもう、光は宿っていない。

 

「……亜人隊か」


 ルガニスは剣を収めると、アルニアに背を向け走り出した。


「まあ、このレベルの戦闘は予想の範疇だ。

それよりも、早く王の元へ行かなければ」


「あ、やっぱり当たりか」


 後ろに背負っている剣ごと、ルガニスを貫く赤い糸。

 ルガニスは足の力が抜け、そのまま地面に膝をつく。


「教えてくれて助かるよ。

さぁて、王様はどこまで逃げたかね。

それか、まだ馬車に留まってくれてると助かるんだけど」


 そう言いながらアルニアは、ルガニスに刺さった赤い糸を抜いた。

 ……ルガニスは幻影でも見るような目で、アルニアを睨みつける。

 それも当然、一切の手加減なしで確実に殺した相手。

 だが歩いている、何事もなかったように。

 ルガニスは流れ出る血を抑えながら、アルニアの方へふり向いた。


「……何故、……塞がって」


 アルニアの体に傷は無い。

 今さっき斬り裂いた胴体の傷は綺麗に完治している。

 破れた服を赤い糸で縫い合わせ、その姿はほとんど元通りになっている。


「不思議かい?」


 アルニアはルガニスに笑いかけながら、自らの指を切り落とした。

 ……そして数秒で生えて元通りになってしまった。


「俺は死人族、死なない亜人だ。

いや、……もう死んでるようなもんか?」


「死人族だと!? 

……寒冷地の種族がなぜ!?」


 アルニアは服の泥を落としながら、淡々と話していく。


「拾ってもらったのさ、カナリア王国に。

亜人隊は全員そうだ。

さぁ、もういいだろう。

王様に逃げられる」


「待て!」


 ルガニスは絞り出すように声を張り上げる。

 アルニアはめんどくさそうに足を止めると、血液で巨大な弓矢を作りだす。


「……王様が逃げる時間を稼ぎたいのはわかるけど、

ちょっと露骨すぎるね」


「貴様らはわかっていたのか?」


「何が?」


「あの馬車に私がいると、なぜ知っていた!?

私の相手は部下に任せられんと踏んで、リーダーの貴様が来たのだろう!?

なぜ貴様がこの馬車を襲撃出来た!?

騎士の中に内通者でもいるのか!!」


 ルガニスの叫びが辺りに響き渡る。

 その声は、とても重症とは思えない。

 だがアルニアは、あまりに拍子抜けの答えを口にする。


「……あみだくじ」


「……なんだと?」


 クスリと笑いながら、アルニアは血の矢をくるくると回す。


「あみだくじで決めただけさ。

馬車が四台ってのは調べてあったけど、誰が乗ってるかはわからない。

じゃあ全部運任せでいいと思ってね。

あなたに会えたのは本当にラッキーだ。

俺の部下たちじゃ、殺されてたかも」


 アルニアはゆっくりと弓を引き絞る。

 ルガニスの頭に大穴を開けるために。


「さてと、そろそろお別れだ」


「それはどうだろうな」


 アルニアが弓を引く寸前で、ルガニスが飛び上がる。

  

「あの怪我で、動けるのか!?

……いや、傷口を焼いた!?」


 そう、ルガニスは軽い帯電魔法を扱えた。

 傷口を押さえていた手に電気を帯電させ、

電熱で傷口を焼くことで無理やり止血していた。

 その事を知らずに、アルニアはのんびりと会話して止血の時間を与えてしまった。

 予想外の動きに戸惑い、アルニアは普段ではありえない不注意をもたらした。

 その隙をルガニスは逃しはしない。

 

「ぬあぁ!!」


 素早く抜刀した大剣をそのままの勢いでブン投げる!

 さらに重さを加えた大剣は、アルニアの全身を押しつぶす。


「はぁーっ、はぁーっ、これでも勝ったとは思わんぞ!」


 ルガニスは己の拳を重くすると、全力で地面に叩き下ろす。

 大地が裂け、突き刺さった剣ごと、アルニアの体が、

地割れに落下してゆく。

 そして、だんだんと大地の亀裂は閉じていった。

 星に食われたかのように、アルニアはそのまま姿を消した。

 

「……これで時間が稼げればいいが」


 死人族は世界で最も再生力に特化した種族。

 きっとあれでも死んではいないはず。


「急がねば!」


 しかし、ルガニスの意思に反し、体が言う事を聞かない。

 足は震え、目は霞み、息もうまく吸えない。

 

「辛いかい?」


 足から血が噴き出す。

 視線を落とすと、赤い糸が太ももを貫いている。

 糸は上から伸びていた。


「……ふざけるな。

ふざけるなよ、化け物め!!」


 宙に浮かぶのは真っ赤な蜘蛛の巣。

 その中心には赤い繭。

 繭を護衛するように、無数の刃が赤い糸の先で揺らめいている。

 その繭の上に奴はいた。

 楽しそうに笑いながら、ルガニスを見下ろしている。


「今のは少し面白かった。

こっちもいいものを見せてあげるよ」


 アルニアはノックをするように繭を叩く。

 すると繭に切り込みが入り、中の生物がその姿を現した。

 

「……蝶?」


「良い戦いだった、それではごきげんよう。

”祈りの蝶・サルヴァツィオーネ”」


 蝶の細い口から息を吐くように放たれた銀の光線は、

一瞬にして森を焼き、大地を焦がし、全ての生を無に帰す。

 だから祈るのだ。

 せめてもの救済、弔いとして。

 

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