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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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78マス目 それぞれの馬車は進む


 舗装された道は揺れを最低限に抑え、安定した走りを見せる。

 その中で、ルガニスは腕を組み座っていた。

 馬車の手綱を握るのは、王国騎士団第三部隊隊長、リネックス・ポールライト。

 守りに長けた、騎士団でも指折りの実力者だ。


「ポールライト、まだ異常はないな?」


「ええ、魔物の気配も……、ルガニスさん」


 ポールライトは馬車の速度を緩め始める。

 

「どうした?」


「魔物です.

多分ロックベアーだと思いますが、走り抜けますか?」


 ルガニスは馬車の扉をゆっくりと開けた。


「いや、砦に着くまでに、不安要素は消しておきたい。

私がやろう。

お前は魔力を少しでも温存しておけ」


「了解です」 


 ルガニスが辺りを見回すと、木々の陰から赤い眼光が光る。

 小さな唸り声をあげながら現れたその姿は、まさに怪物。

 体長6メートルほどの巨体に発達した牙と爪。

 姿こそ熊に近いが、特徴的なのは鎧のように全身を覆う岩のような外殻。

 その装甲車のような出で立ちに、普通なら逃げるという選択肢しかないだろう。


「……急いでいる、さっさと来い」


 ルガニスの声に呼応するかのように、ロックベアーは木陰から飛び出した。

 襲うというよりは、轢き殺すような勢いでの突進。

 しかし、ルガニスは背中の剣を抜こうともしない。


「グガアアアアアァァアアァァァァァァアァァッァァ!!!」


「遅い」


 ズンッと響く地震のような音が木々を揺らす。

 外殻に覆われた強固な頭部を、ルガニスは抑えていた、片手で。

 その場から一歩も動かずに、軽々と突進を止めていたのだ。

 ルガニスはそのまま呪文を唱えると、右手の甲が白い光を帯びる。

  

「沈め」


 たった一言。

 それを言い終る前にロックベアーの姿が消えた。

 いや、消えたのではなく、その巨体は下にいた。

 地面にめり込み息絶える姿は、戦いの痕跡すら感じさせず、

圧倒的な力で押しつぶされていた。

 

「さぁ、片付いた、行くぞ」


「はい」


 手綱を振るう音と共に馬車は進む。 

 ドワーフの砦を目指して。








「オーッホッホッホッホッホ! 

わたくしの馬車を襲ったのが運の尽きですわね」 


 エリザベートは倒れているゴブリンの群れに向けて、

どや顔で高笑いをしている。


「笑ってないで、もう行くよエリザベート。

時間が無いんだから」


 エリザベートは赤らむ夕日に目を向ける。

 

「そうでしたわね。

テンダー、全速前進ですわ!」


「りょ~か~い」


 二人はまるでピクニックでも楽しむように、

和やかなムードで馬車を走らせていた。








「……どうしよう、ああどうしよう」


 リックは目の前の光景に頭を悩ませていた。

 そこには寿命によって倒れた枯れ木が新しい木の養分となり、

立派な大木となって馬車の進路を塞いでいた。

 獣道に近いこのルートでは、迂回するのも難しいだろう。


「どうすんですかい?

魔法で吹っ飛ばすのも手かもしれませんが」


 こう発言したのは、王国騎士団第二部隊隊長、レオ・スタリスタ。

 銀の瞳を持つ色黒の男。

 銀獅子と呼ばれる騎士団きっての戦闘狂である。


「うーん、目立つのはちょっと」


 リックは帽子を深く被りうなだれる。


「あの、帽子取っていただけねぇですか?

しっかり指示してもらわないと、こっちも動きづらいんで」


 レオは半ば無理やりリックの帽子を取ろうとするが、

リックは必死に逃げる。


「い、嫌だよ、僕はこれが無いと落ち着かないんだって」


「落ち着くとかの問題じゃないでしょうが!

いいからさっさと取ってくださいっての!」


「いーやーだーー!」


 ある意味魔法を使うより目立ちながら、

二人はしばらくの間、足止めを食らうのだった。








 鬱蒼と生い茂る森を脇目に、森から外れた草原を進む。

 遠くに魔物の影もちらほら見えるが、今のところは襲われる危険はなさそうだ。


「このまま、何事も無きゃいいんだけどな」


「そうっすねぇ、俺らも実戦経験そんなに無いんで。

強力な魔物が襲ってきたら、ちょっとやばいかもしれません」


 魔物もそうだが、やはり謎の襲撃犯の存在が気になってしまう。

 本音はもう少し速度を落として慎重に進みたいが、

他のルートと比べて、俺たちの通るルートは距離がある。

 全力で馬車を走らせないと日が沈んでしまう。

  

「……ホルト、馬車を守れるように、

防御の準備をしておけ」


 手綱を握りしめるグランバムは、

車内にギリギリ聞こえる声量でホルトへ指示を出す。

 ホルトは返事をするように呪文を唱え、両手に風の球を作りだす。


「敵は?」


「正確には……、だが森の方だ、注意しろ」


 この素早い対応、流石はプロ。

 実戦経験がないなんて嘘だと疑いそうだ。

 俺は思わず息をのむ。

 その時、俺の耳にもはっきり聞こえた。

 低く唸る獣の声。 


「防げ!!」


 グランバムが叫ぶと同時に、薄く展開した風の盾が鋭い爪を弾いた。

 その瞬間、敵の姿が夕日に照らされる。


「虎? 三つ首の虎!?」


 そこにいたのは、全身が白い虎のような生物。

 鋭い牙を持つ顔が三つ、まるで神話のケルベロスのような姿。

 しっぽの先は青い炎が灯り、黒い線が描く体の模様は神々しさすら感じる。

 攻撃を弾かれた魔物は、即座に体勢を立て直し馬車を追ってくる。

 

「チッ、火虎に見つかるなんてついてねぇ。

グラン、速度を上げろ!!」


「これで限界だ」


 馬車よりも向こうの方が早い。

 このままじゃ、一分と持たずに追いつかれる。


「ヴオォォオオォォオオォオォォォオォォォォォォォォ!!!」


 魔物は口から燃えさかる炎の塊を、馬車に向けて撃ち出す。

 ホルトは呪文を唱え再び防御しようとしたが、間に合わない!

 

「左に避けろ!!」


 俺が叫ぶと同時に、馬車は左に大きく車体をずらす。

 炎の塊は馬車の右部分をかすめて、前方で炎上した。

 大きく上がる炎を迂回しつつ、速度を緩めずに進む。

 

「あっぶな。

焦げてるけど、燃えてはないな」


 俺が馬車の損傷具合を確認しつつホルトの方を見ると、

既に風の球ができている。

 だが、次の攻撃も避けられるとは限らない。


「ホルト、足でいい。

負傷させれば追ってはこれん」


「わかってる、風の槍!」


 ホルトは両手の球を合わせて、粘土をこねるように槍を形作る。

 それを槍投げのように構えるが、俺はそのまま投擲しようとするのを遮った。


「待ってくれ。

投げつけるよりは手元に戻る武器が良い。

鎖付きの鉄球かなんかに変えられるか?」


「鉄球!? んなのやったことないけど……、

わかった、やってみますよ!」

 

 ホルトは素早く槍から球体に戻す。

 そして、徐々に形が見えてきた。


「おし! できたっすよ!

いっけぇぇぇぇ!!!」


 ホルトが作りだした風の鉄球が、魔物に向かって大きく振り下ろされる。

 しかし、魔物はわずかに走るスピードを落としこれを回避。

 そして口を大きく開く。

 

「まずい、さっきの火の玉が来るぞ!」


「俺が防御します!」


 ホルトは鉄球を引き戻して、素早く盾に作り替える。

 薄く展開した風の盾は、馬車後部を覆う。


「ヴオォォオゥゥ、オオォォオオォォォォ!!!」


 再び馬車に撃ちこまれた火球は、風の盾に弾かれる。

 それを見た俺は、ふと思いついた。


「そうだ、その盾をあいつの足元へ投げつけろ!」


「え、盾を!? ……わかりました!」


 ホルトは半信半疑で盾を縮小させ、円盤のように投げつける。

 しかし魔物は大きく飛び上がり、風の円盤を回避した。


「そうだ、それでいい」


 飛び上がった巨体に向けて、俺は笑う。

 その手には銀の鉄塊。


「あがりだ、落ちろ!」


 空中で身動きの取れないその頭に、真っ直ぐ撃ちこむ鉛玉。

 真ん中の頭を吹き飛ばされると、その大きな体を痙攣させ地に落ちる。

 這いずっているから死んでは無なさそうだけど、これで追ってはこれないはず。

 魔物の姿はどんどん小さくなっていって、見えなくなった。

 

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