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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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77マス目 帰ると誓い合った


 それはまるでパレードのようだった。

 衛兵や騎士が馬車の横を行進して旗を振りかざす。

 馬車の上では吟遊詩人が、その美しい歌声を響かせている。

 

「パレードなんて見たことはあるけど、参加したのは初めてだな」


 俺は空から舞い落ちる紙吹雪の一枚を手に取り、日にかざす。

 落ちかけて赤らむ夕日が美しい。

 そんな夕日を見て、ある問題点に気が付いた。


「なあエリザベート。

このまま出発すると森の中で夜にならないか?

それは危険すぎると思うんだがな」


「もちろん夜の森を進むなんてマネはしませんわ」


 そう言って、エリザベートは足元から地図を取り出す。

 

「これって、国の外の地図か?」


「ええ、そうですわ」


 エリザベートは地図に描かれた城を指さし、そこから指をなぞっていく。

 

「このあと外用の馬車に乗り換えて、お父様の馬車から出発しますわ。

出発したら、カナリア国の前にここを目指しますの」


 エリザベートが指差すのは茶色い四角マーク。

 これだけでは何のことかわからない。


「これって、建物?」


「そうですわ。

ここにはドワーフ族が住む砦がありますの。

今日はそこで夜を越して、日がのぼり次第出発ですわ」


「ドワーフ?

そこに知り合いでもいるのか?」


 俺の質問に、エリザベートは首を縦に振る。


「お父様のご友人が族長をやっておりますの。

すでに伝令は届いているので、すぐに休めるはずですわ」


 ……ドワーフか。

 俺の中でドワーフと言えば、刀鍛冶とかやってて低身長なイメージがある。

 もしかしたら竜の鱗で作った物凄い刀とかを触らせてくれるかも。

 そう思うと何だかワクワクしてきた。

 

「そろそろ北門をくぐりますわ。

降りる準備をした方が良いですわよ」


「え? あ…ああ、わかった」


 いけない。

 つい呑気な事に意識を向けてしまった。

 謎の脅威もヤバイが、俺にとっては外の魔物も十分ヤバいのだ。

 気を緩めてしょうもない死に方なんかで、ふりだし行きなんてごめんだ。

 俺は鞄の持ち手を強く握りしめ、前を見据える。


 開かれた巨大な門を抜けると、心地いい風が吹いた。

 風に揺られる木々が何とも眼に優しい。

 目に移る光景はあまりに自然で、あまりに広大だ。

  

「こんな光景、日本じゃ絶対見られないな」


「二ホン? それがあなたの故郷ですの?」


「えっと、まあそんなところだな。

ここで降りるのか?」


「ええ、これ以上進むと魔物に襲われる危険がありますわ。

……各自、所定の場所へ!」


 エリザベートが声を上げると、周りの兵たちが敬礼をして走り出す。

 普段裏方に回っているとはいえ、その実力は誰もが認めているのだろう。

 俺もそれにならってすぐに馬車を降りる。


「そういえば、エリザベートの所は誰が馬車を操縦するんだ?」


「もちろん私ですよ」


 そう言いながら、テンダーは俺の間後ろから現れた。

 だがそう何度も驚いてはやらない。

 テンダーは少し残念そうな顔をしていたが、そんなこと知らん。

 しかし、俺は内心嬉しかった。

 テンダーがエリザベートについて行くという事は、

少なくとも前に見た悪夢の通りにはならなくて済む。

 いい方向に未来が変わっていってる証拠だ。

  

「何にニヤケてんですか?」


「純粋に笑ってんだよ! ふざけんな!」


 俺が拳を振り上げると、テンダーは笑いながらエリザベートの馬車に乗りこんだ。

 さて、俺も馬車に乗りこまないと。

 

「おーい、こっちですよ!」


 声の方に視線を向けると、ホルトがこちらへ手を振っていた。


「先に乗ってたんだな」


「ええ、グランもいますよ」


 グランバムはフードを深くかぶり、顔が見えないようにしている。

 手綱を握る人間は顔が見えないようにすると説明されていたが、

この馬車を操縦するのは、どうやらグランバムのようだ。


「そういえば、国王様ってどこにいるんだ?」


「俺らもわかりませんよ。

王様は兵士の格好で馬車に潜むらしいんで。

この人数が準備してる中で紛れ込まれたら、

みんなわかんないと思いますよ」


「ん? もしかして、王様がどの馬車に乗るか知らないのか?」


「そりゃ極秘事項ですもん。

エリザベート様も知らないらしいですよ」


 敵を欺くならまず味方からってやつか。

 確かにこれなら、兵士の中に裏切り者がいたとしても大丈夫だろう。


「第一車両、準備整いました!」


 兵士の声が俺の耳にも届く。

 とうとう出発の時間だ。

 最初の馬車に乗るのは、ルガニスと国王様、それと騎士が一人。

 二番目の馬車に乗るのは、エリザベートとテンダー。

 三番目の馬車に乗るのは、リックと騎士が一人。

 そして最後の馬車。

 つまりこの馬車に乗るのは、俺、ホルト、グランバムの三人。

 大トリを務めるのだから、緊張感は倍増だ。


「……そういえば確認し忘れてたけど、

二人はどんな魔法が使えるんだ?」


「あー、確かに言ってなかったですね」


 ホルトは両掌を上に向けて、その場で呪文を唱え始める。

 手首から緑色の光が瞬いた瞬間、両手に小さな球体が生成された。

 

「これが俺の”風輪魔法”です。

この球は好きに形を変えられるんですよ。

撃ち出したり、薄くして盾にしたり、武器にしたり。

結構使い勝手がいいんですよ」


 そう説明するホルトの後ろで、赤い炎が燃え上がった。


「私のは”炎武魔法”という。

火の剣を作るだけだが、魔力が続く限り無数に出せる。

武器の手入れの心配もなく、使い捨てに便利だ」


「へぇ、やっぱりみんな違うんだなぁ」


 二人とも似たような魔法だが、どちらも工夫次第でいくらでも化けるだろう。

 せっかくだし、これを踏まえて適当な作戦でも考えておこう。


「第二車両、準備整いました!」


 エリザベートの乗る馬車の手綱が振るわれた。

 馬の声がどんどん遠ざかっていく。

 気が付くと、馬車の周りにいた兵士もだいぶ減っている。

 

「俺らも、そろそろ覚悟を決めないとですね」


「ああ」


 さっきまでの雰囲気はどこかへ消え、ピリピリとした空気が張り詰める。

 誰もしゃべらず、各々が気持ちを整える。

 皆わかっているのだ。

 襲われて一番生存率が低いのは、この馬車だという事を。


「通信結晶です、お受け取りください」


 馬車の外からの兵士の声。

 手には4つの通信結晶を持っている。


「通信結晶?」


 首を傾げる俺の代わりに、結晶をホルトが受け取った。


「ほら、ほかの馬車との連絡用です。

あとの一つは援軍用ですね。

緊急のために持っていてください」


「ああ、なるほど。

了解した」


 俺は頷きながら4つの結晶を受け取ると、

無くさないように鞄の中へしまった。


「第三車両、準備整いました!」


 リックの乗る馬車が出発する。

 いよいよだ。

 グランバムはフードをより深く被りなおし、手綱を握りしめる。

 

「……生きて帰るぞ」


 俺の口から思わず言葉が漏れた。

 俺自身、意識してない言葉だったが、それが二人を勇気づけた。


「絶対帰りましょう。

ええ、絶対に!」


「当たり前だ。

私はこんな場所で死ぬために騎士になったのではない」


 今までの緊張が嘘のように、皆の目には力が宿っている。


「約束だ。

誰一人死なずに、ここへ帰ってくるぞ!!」


「はい!」

  

「ああ!」


 俺たちはそれぞれの拳を合わせる。

 そしてとうとう、近くの兵士が声を上げた。


「第四車両、準備整いました!」


「よし、出発だ!!」


 馬車の手綱が勢いよく振るわれる。

 蹄の音を響かせて走る馬車は、ほかの馬車と大きく進路を外す。

 森を迂回するルートは遠回りなため、より速力が求められる。

 街で走るより数段早い速度で草原を駆け抜ける。

 日没はすぐそこまで迫っていた。


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