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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第三章 王の首
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72マス目 罪無き咎人


 反響する水音。

 鎖がこすれる金属音。

 鼻を突く鉄錆の臭い。

 誰かの悲鳴。

 何者かの怒号。

 あまりにも日常からかけ離れた場所で、

俺は両手を広げた格好で磔にされていた。

 見た限りの印象は、石造りの地下牢獄。

 鉄格子の奥で、俺は上半身裸のまま、もう30分は放置されている。

 換気が悪いようで、全身にじっとりとした汗がにじむ。

 

「……勘弁してくれよ」


 誰に言うまでもなくつぶやいた。

 小声だったが、壁に反響して大きく聞こえる。

 放置される時間が長ければ長いほど、恐怖が頭の中でぐるぐると回り始める。

 拘束の仕方から見るに、鞭打ち刑でもされるのだろうか?

 拷問用の鞭は、筋肉質の男性でも数発でショック死するほどの痛みと聞く。

 

「……本当に勘弁してくれよ」


 もう無言でいることが怖い。

 拷問されるくらいならば死んだ方がマシとも思えてくる。

 でも、また繰り返すのも怖い。


「……っ! 誰か来る!」


 明らかにこちらへ向かってくる足音。

 音を聞く限り、人数は二人だろうか?

 一体何をされるのか、恐怖で足が震える。

 鉄格子の向こう側に、衛兵姿の二人組が見えた。


「この男か? まともに筋肉もついていない凡人に見えるが」


「魔法専門だったんだろ。 

いいから、早く鍵を開けてくれ」


「今開ける」


 そう言って入ってきたのは、堅物そうな男と細目の男。

 会話を聞く限り、助けではなさそうだ。

 いよいよ舌を噛み切る準備でもした方が良いかもしれない。


「さてと、始めまして」


 細目の男性は俺に向かって笑みを作る。

 とにかく反抗の態度は極力避ける、

 その為には、こんな場合だからこその会話のキャッチボール。  


「えっと、始めまして。

何というか、お手数をお掛けしてすみませんね」


 適当に会話しようと思ったら、早速謝ってしまった。

 どうにか隠そうとしても、やっぱ怖いものは怖い。


「……ねぇ、本当に罪人?

迫力が微塵もないんだけど」


「いいから黙って、仕事に集中しろ」


「ちょっと、その言い方はないでしょう」


「黙れ」


 なんか勝手に喧嘩を始めた。

 こんなのどう反応すればいいんだよ。

 俺が視線を右往左往させて困惑していると、

堅物の男性が改めて俺に向き直る。 


「さっさと本題に移らせてもらう。

まず、国家潜入に機密情報の漏洩。

それに加えて、クローバー部隊長への暴行。

フラウト・ベヨネッタ様への暴行、および幻術行為の疑い。

身元不明の男性三名の殺害。

部隊長親族への暴行、強姦未遂。

酒場店内の物品損壊の多大な容疑がかかっている。

これは真実か?」


 ……とりあえず首を横に振っておく。


「……強姦未遂の説明いいですかね?」


 ぶっちゃけその誤解が一番納得いかない。

 

「シラン・クローバー氏の衣服の破損。

記憶混濁、不自然な流血、異常な動悸から、

報告書に不確定要素として記されている」


「……そ、そうですか」


 とにかくロクな疑い方をされてないようだ。

 ここからどうやって誤解を解く!?

 俺は心の中で自問自答を繰り返すが、それで答えが出たら苦労はしない。


「ではまず聞こうか。

お前はカナリア国の暗殺部隊、亜人隊の一員。

そうだな?」


「ち、違います!!」


 俺は懇願するように叫ぶ。

 ヘタな言い訳なんてどうせ聞いてくれない。

 真剣に目を見て、思いを汲み取ってもらうしか……。


「ちょっと聞きたいんだけどいい?」


 今まで傍観していた細目の男性が急に口を開いた。


「えっと、はい。

いいですけど……」


 細目の男性は少し首を捻りつつ、俺に質問してきた。


「怪我を見る限り、部隊長と随分派手な殴り合いをしたみたいだけど、

何で拳でやったの? 幻術魔法を使えば良かったのにさ」


「いやそもそも俺、普通の魔法は使えないんで。

レベルも虫けら同然の……、あ!」


 自分の言葉に、思わず目を見開いた。

 そうだ、レベルを計ってもらえばいいんだ!!


「あのっ、すみません!

レベルを計る水晶ってありますか!?

お願いです。

俺のレベルを計ってみてください!」


 衛兵の二人は顔を見合わせる。

 そしてお互いに頷くと、堅物の男性が走り出した。

 

「すぐに用意するよ。 

なるほどね。

確かに君の疑いを晴らすには、それが良いかも」


 何だろう、この細目の人は。

 こっちの事情も話してないのに、変に友好的に感じる。

 数分後、堅物の男性が持ってきたレベル測定用の水晶は、

俺が今まで見てきた物より随分大きい。

 台車に乗せられたそれは、1メートル以上ありそうだ。


「すまんな、旧型しか借りられなかった」 


「いやいや、十分十分」


 俺は右手の拘束を外される。

 すると、すぐに鎖付きの腕輪を取り付けられた。

 これほどの厳重な警戒っぷり。

 亜人隊とはそこまで危険な組織なのだろうか?

 とにかく、逆らう意味もないのでおとなしくしておく。

 どうせレベルが表示されれば、すぐさま釈放されるのだ。


「んじゃ、測定開始」


 細目の男性の合図で、俺の手が水晶に乗せられた。

 青く美しい光を灯し、中心に白い光が収束していく。

 俺は約二分間、その白い光を目で追った。

 旧型と言っていたが、サイズだけでなく測定にかかる時間も随分違うようだ。


「そろそろだね」


 堅物の男性が言ったタイミングで、白い光が一つに集まり始めた。

 水晶の中で綺麗な光の球体が形成される。

 その後数回グネグネと歪んだ後、また綺麗な球体に戻った。


「……球体が分裂せず一つだけ。

この男はレベル1だ」


 堅物の男性は大きくため息をつく。

 きっと亜人隊の捕獲は大きな戦果だったのかもしれない。

 それが失敗ともなれば、出世に響いたりもあるだろう。

 こちらとしてはいい迷惑だったが。

 とにかく、今は疑いが晴れればどうでもいいや。


「あの~、これ外してくれません?」


「あ?」


 細目の男性が目を見開いた。

 その瞬間、俺の腹に鈍い音が響く。

 

「んごぶぅ……、んべぇっえっぶ、うべぇぇぇぇ!!!」


 衝撃に耐えきれず、俺は胃の中の物を全て吐き出した。

 俺の腹には、細目の男性が放った拳の跡がくっきりと残る。

 

「な、なんべ……」


「あんたよぉ、苦しむ真似はもう止めとけ」


 何言ってんだこいつ、意味がわからない。

 ただ波のように襲い掛かる吐き気と腹部の激痛で、目がチカチカする。

 気持ちが悪い、鼻がツンとして痛い。

 そんな俺に、堅物の男は汚物を見るような目で説明しだした。


「最近ようやく亜人隊に動きがあったんだよ。

国の近くにあるエルフの里が襲撃された」


 堅物の男は、俺の髪の毛を掴み上げて続ける。


「何でもそいつは変形するらしくてなぁ。

超高レベルの変身術式ならば、レベルの測定を誤魔化せても不思議はねぇ。

……ただ、やりすぎたなぁ。

レベル1の人間がこの世にいるわけねぇだろうがぁ!!!」

  

 堅物の男性の拳が俺の頬にめり込む。

 口の中が切れ、舌に鉄の味が絡みつく。

 

「がはっ、えっふ……、んべぇ……」


 ボトボトと床に落ちる血の中に、いくつもの白い物体が見えた。

 ……歯が折れた。

 

「まっで……、ぐれ……」


「何言ってやがる、てめぇのせいで、おふくろが!

おふくろは死んだんだぞ!!」


 細目の男性は涙を流しながら、俺の顔を殴りつけた。

 その時、ブロンドの髪の隙間から小さく尖った耳が見えた。

 この人、エルフか?

 ……いや、そんなことより、……もう意識が。


「少しでもおふくろの痛みを味わわせてやるよ!」


 細目の男性は力強く呪文を唱え始める。

 

「我が名に答えよ、母なる大地に息吹よ舞え、パルポラーダ・アルドラシル!!!」


 男性は両手に作りだした風の球を合わせて、一つの塊にする。


「尋問に魔法を使うのは禁止だぞ」


「大丈夫、多少手加減はする。

それにこんな怪物が、この程度で死ぬわけないだろう?」


「それもそうだな。

まあ、止める気は起らん」


「そりゃどうも。

さぁて、裁きの時間だぜ」


 無慈悲な一撃が、俺に向かって放たれた。

 手加減と言っても、魔法障壁がある普通の人間に対してだ。

 俺にとっては通常の人間が受けるのと比べ、魔法の威力は数倍から数十倍となる。

 その破壊球が、俺の腹部に深くめり込んで…………。


「竜喰いの美食家、ミミトラ!!」


 天井を突き破り現れた、赤い悪魔のような怪物は、

俺が消し飛ぶ前に風の球を吸い尽くした。

 

「くそっ、少し遅かったみてぇだぜ」


「……なんて事だ。

この男を治療室へ運べ!!

絶対に死なすな!!」


 二人の衛兵は、天井の穴から覗き込む顔を見て驚愕した。

 王国騎士団第一部隊隊長、リック。

 さらには王国最強の騎士、ルガニス・ベヨネッタの姿があった。

 その光景を最後に、俺は完全に意識を失った。


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