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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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70マス目 赤を握る右拳


 床の木目に真っ赤な色が浸透していく。

 その小さな体から、じわじわと床に雫が広がる。

 フラウトは頬に当たる温かい水の正体が気になり、そっと瞳を開ける。


「……シラ…ン?」


 フラウトは小さく言葉を漏らす。

 腹部の痛みで呼吸もままならないはずなのに。

 

「シラン!? だいじょ……んぐあっぐぅぅぅ……」 

 

 フラウトは目の前の光景に驚き、怪我の事も忘れて声を上げる。

 そこにいたシランは泣いていた。

 自らの鋭い牙を押さえつけようと、自分の左腕を噛ませている。

 暴走した己を押さえつけ、必死にフラウトを守っていた。

 戦っているのだ。

 シランも命がけで。

 

「……ゴ、………メン……ネ、………」


 大量の血と涙で床に水たまりを作りながら、

シランはか細い声で、一言だけ言葉を発した。

 その声は何よりも小さかったが、俺たちにははっきりと聞こえた。

 

「こ、こっちこそだよ!

助けられなくてごめん!!」


 フラウトはシランを優しく抱きしめた。

 その瞬間、常に開いていたシランの真っ赤な目が、ゆっくりと閉じてゆく。

 俺はシランの頭をそっとなでると、デニックスに向かって床板を踏みしめる。


「シラン、今助けてやるからな。

もう少しだけ待ってろ!」


 デニックスは顔をゆがめながら、床を踏みつける。


「っち、先月魔法陣の点検をすっぽかしたのがマズかったか。

おい、私を守れ。 最優先事項だ」


 シランにデニックスの指示が飛ぶと、シランの口が大きく開く。


「ヴォォォオォオオォォォォォオォォォォオォォォォオォォォォ!!!!!」


 凄まじい声と共にフラウトの腕の中から風のように消える。

 そして俺の前に立ち塞がるシラン。

 デニックスを守るために、盾のようにこちらの行く手を阻む。

 

「……ごめんな、シラン」


 俺が取り出したのは小さな小瓶。

 それのふたを開け、シランに浴びせた。

 

「残念だが、今のこいつに毒魔法は効かん。

さて、この男の両腕を叩き折れ」


 デニックスはいつものように指示を出す。

 ……しかし、動かない。

 シランは固まったように、動かない。

 すると、次の瞬間。


「ヴがぁうううぉおおおぉぉヴぅぅうう、……ヴぐごおっぉぉぉ!!!!」


 数度飛び跳ね、カウンターへ衝突し、無数の酒瓶が棚から落ちる。

 シランの動きはおさまらず、何度も壁に激突した。

 そして数秒後に、苦しそうに呼吸しながら床に倒れこんだ。

 俺はフラウトのそばに鞄を投げる。


「フラウト! その中に布がある。

シランの傷口を酒で洗ってから、その布で押さえつけろ!」


「え? う、うん、わかった!」


 もう鞄は必要ない。

 火炎放射は使い切った。

 ここで銃を使い切るのは得策ではない。

 あと残っている武器は……。

 俺は自らの拳に視線を落とし、強く握りしめる。


「……どうなっている? おい! おいガキ!

起きろ! 命令だ! 休むんじゃない!」


「そろそろ黙れよ」


 何度も握りしめ、爪が肉に食い込み、俺の拳は自分の血で染まる。

 そんな赤を握りしめ、俺の拳がデニックスの顔面に叩き付けられる!


「んでゅぶぅぼ!」


 後方に飛んだデニックスは、流れ出る鼻血を抑えながら、

信じられないという目でこちらを睨む。


「なんでだ!? あいつの元々持つ回復魔法は、

異常系魔法に最大限の効果を発するんだぞ!?

私は肉体に異常をきたしたら、すぐ魔法を使えと命令しているんだ!

さっきの瓶は一体何なんだ!!?」


 デニックスの叫びに、俺は握りこぶしを解かずに答える。


「あれはただの口臭スプレーだ、キシリトールたっぷりのな。

犬みたいな姿になってるから、もしかしてと思ったが……。

想像以上に効いちまったな」


 俺はデニックスに歩み寄りながら続ける。


「キシリトールは、俺の住んでた場所では嗜好品によく入ってんだ。

ここじゃあ、まるで見ない。

多分発見もされてないんだろうな、それか存在しないか。

とにかくこれは魔法でも魔道具でもないし、普通の毒でも病気でもない。

ただし、この成分は犬にだけ”猛毒”となる」


 俺はデニックスの胸ぐらを無理やりつかみ、立ち上がらせる。


「時間が無いんだよ。

すぐにシランとフラウトを病院に連れて行く。

今すぐ降伏すれば、もう一発だけで勘弁してやる」


 鬼気迫る表情でデニックスに脅しをかけるが、

デニックスはいまだに自分の不利を認めようとしていない。


「ふん、訳の分からない事を……。

貴様のようなゴミ虫が、高貴な私にこれ以上の事をしてみろ?

永久に地下牢獄へ幽閉して、毎日のように拷問の日々が待っているぞ。

さぁ、その手を放して、私に深い謝罪を述べれば……ぶぅっ!!」


 俺はデニックスの顎を拳で突き上げた。

 この辺りで薄々気が付いてきた。


「お前、……威張ってた割に弱いな」


 なるほど。

 傀儡ってことは、こいつはいままでそうやって、

何かを利用して利用して、利用し続けて生きてきたんだ。

 自分が手を出すこともなく、ただ周りに威張り散らす。

 それがまかり通ってきたんだ、今日までは。


「立てよ、高貴なんだろ?

見下ろしてみろよ、ゴミ虫の俺をよ」


 俺の挑発に、デニックスは怒りをあらわに声を張り上げる。


「調子に乗るなよ。

高貴な私に血を流させたこと、一生後悔させてくれる!!」


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