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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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69マス目 おばけの正体


「シラン! 何やってんだよ!!」

 

 まるで獣のように四足で歩く姿に、俺は恐怖していた。

 シランの手足は普段より明らかに伸びており、細く見える腕は筋肉に包まれている。

 目は赤く光り、長く尖った犬歯は狼を連想させる。

 ゴロツキの一人は首筋を深く噛まれ、もう助かりそうにない。


「このガキがぁ! よくも兄弟をおぉぉぉおぉ!!」


「ぶち殺す!!」


 二人掛かりでの攻撃を、シランは瞬時に避ける。

 その速度は明らかに常軌を逸している。


「無駄だ、諦めろ」


 デニックスが手のひらを突き出すと、一瞬でシランは奴の元へ戻り、犬のようにその手を舐め始める。


「……どうなってんだよ。

おい、シラン! 何とか言ってくれ!」


 俺の言葉は届かない。

 俺が必死に叫ぶのを横目に、デニックスは嫌な笑いを浮かべる。

 そして手を舐めるのをやめさせると、床に転がる死体を指さした。


「よし」


 デニックスがそう言ったとたん、シランは嬉しそうな顔で死体に飛びかかった。


 ……とてもじゃないが直視できない。

 そんな光景が目の前で行われている。

 食べているのだ、死体を。

 いつものように口元を赤くして。

 まるでトマトを食べるかのように、夢中で頬張って……。


「……トマト? まさか」


「ほう、気づいたか」


 デニックスは少し感心したように呟いた。


「こいつは死体を食べているときの記憶が、少し残ってたんだろう。

人間の臓物と見た目が似ていたのかは知らないが、

初めて食わせた時から、いつもトマトを欲しがるのだよ」


「……これ、お前の仕業か?」


 俺は拳を握りしめながら、震える声で言った。


「ああ、私の魔法だ。

”傀儡魔法” 他人や物を操る高貴な魔法だよ。

感づいた褒美に教えてやる。

どうせ知っても対処できないだろうしな」


 デニックスが下品に笑い、共にシランも笑う。

 口から血やら肉片やらをボタボタとこぼしながら。

 そうしてシランは、満足したように遺体から口を放す。

 辺りに血なまぐさい臭いが漂う。

 その様子を見て、フラウトは震えながらに言った。


「あれが、おばけだ。

皆が言ってたおばけは、これだったんだ……!」


 フラウトの言葉で思い出した。

 シランが疑われていたおばけ騒動。

 ……そうか、そういうことか!

 これではっきりした。


「あの連続殺人事件の犯人は、やっぱりあんたか。

デニックス・クローバー!

シランをこんな姿に変えれば、アリバイも何もない。

命令するだけで遠くの人を簡単に殺せるもんな。

シランは犯人じゃないが、実行犯だったってことか!」


「今さら気が付いても遅い」


 デニックスは面倒くさそうに、シランに手で指示を出す。

 その時後ろから声が飛んだ。


「伏せろぉ!!」


 俺は咄嗟に、フラウトを抱えて地面に突っ伏した。

 その真上を、水色の球体が砲弾のように、放物線を描き飛んでいく。

 今まで姿の見えなかったゴロツキ達が、カウンターの裏から発射した水の魔法。

 溜めに溜めた高威力の魔法弾は、シランとデニックスの両方を射程に捉える。


「クソガキめが! 主人を狙われれば避けらんねぇだろ!」


 その言葉通り、シランは避けようとしない。

 しかし、俺には何となくわかった。

 こんな攻撃じゃ、デニックスは倒せない。


「やれ」


 デニックスの一声で、シランは球に向かって飛んだ。

 ギチギチと筋肉から音を出して、腕を大きく振りかぶる。


「ヴォォォオォオオォォォォォオォォォォオォォォォオォォォォ!!!!!」


 人間の喉から発しているとは思えない、化け物の唸り声。

 シランは気味が悪いほど長く伸びた腕を、叩き付けるように振り下ろす。

 その一撃で、空気が振動するほどの衝撃と爆発音とともに、巨大な魔法弾は風船のように破裂して飛び散った。

 

「……シラン、……何で、何でこんな」


 フラウトの言葉に、シランはわずかな反応も示さない。

 ただ従順な獣のように、デニックスの足元で息を荒くする。

 

「ふざけんな、何だよ! 何なんだよこの化け物は!!」


「クソッたれ、兄弟のカタキだぁぁぁ!!」


 ゴロツキの二人は、無謀にも正面から飛びかかる。

 俺は男たちの気迫に押され、止めることができなかった。

 だが、ゴロツキ達が攻撃している間に、俺とフラウトは近くに転がる壊れたテーブルの陰に身を隠す。


「まったく、身の程を知らないやつらだ。

……殺すなよ、捕まえろ」


「ヴォォォ……」


 シランはゴロツキの飛びかかり攻撃を、足元を潜り抜けるように避ける。

 そして、ガラ空きの背中に弱めの打撃を叩き込む。

 肺の空気を無理やり吐かされた二人は空中でバランスを崩す。

 シランはそんな二人の首を、長い腕で掴み上げた。

 二人は床に足もつけられず、デニックスの眼前に晒される。


「この高貴な私が貴様らと口を利く。

これがどれだけ名誉あることか、重々承知することだ。

さて、特別に遺言を残すことを許そう。

そら、好きに言え」


 完全に馬鹿にされている。

 ゴロツキの二人は怒りで目の焦点が合っていない。

 だが、その言葉に俺が思わず疑問をぶつけてしまった。


「なら、一つ聞かせろ!!」


「ん?」


 俺はフラウトを隠したまま、物陰から飛び出した。


「……口の利き方がなっていないが、

まぁ、貴様らのような下劣な人種共に、教育を語っても無駄だな。

仕方ない、なんだ?」


 この男の言葉一つ一つに、頭に血が上りそうになる。

 その思いをぐっとこらえながら、どうしても聞きたいことを訪ねた。


「あんたは、何でシランを奴隷にしようとした!?」


「……邪魔だからだ」


 デニックスはため息をつくように、めんどくさそうに話す。


「こいつは私の娘であって、とても使い勝手の良い道具だ」


 デニックスはシランに口を開けさせ、そこに指を突っ込んだ。

 そして舌を掴みだすと、上方向に引っ張る。

 そうすることで、ある物が見えた。


「……魔法陣?」


「その通り」


 シランの舌の裏側には、ピンク色の魔法陣が刻み込まれている。

 同色で見えづらいが、複雑な歯車のように精密な動きをしていた。


「わざわざ高い金を払って、この魔法陣を埋め込んだのだよ。

これさえあれば、私の魔力一つでこいつを好きに動かせる。

記憶の消去も思いのままだ」


 デニックスは少し苛立った表情で続ける。


「このガキは、私の裏取引に感づいた人間を葬るのに丁度良かったんだ。

だが、あろうことか疑われたのだぞ!?

この高貴な私の娘が!?

一度疑われたものなど、使いづらくてしょうがない。

もしも私に黒い噂が流れでもしたら、私の威厳はどうなる?

だから売ったのだよ。

不安要素は金に換える。

とても合理的で素晴らしい。

ああ、流石は高貴な私だ」

  

 俺は血が滲むほど唇をかみしめる。

 許せない。

 その思いが、俺の体を突き動かす。

 ……だが。


「ふざけんなああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 フラウトが叫びながらデニックスに突っ込んだ。

 手には食事用のフォークが握られている。

 

「フラウトやめろ!!」


 叫ぶがフラウトの足は止まらない。


「おい、飛ばせ」


 指示を受けたシランは、ゴロツキを掴み上げたままフラウトの腹を蹴飛ばし、

後方へ吹き飛ばした。

  

「フラウト!!」


 彼は飛ばされたフラウトを全身でキャッチして、共に壁へ叩き付けられる。

 

「いっつ……、おい 大丈夫か!?」


 フラウトは腹部を抑えたまま激しく嘔吐した。

 吐しゃ物には、わずかに血が混じっている。


「クソッ! 早く病院に連れて行かねぇと」


「何言ってるんですか?」


 その声に顔を上げると、頬に鮮血がかかった。


「アニキィィィィイッィィィイィィィィィ!!」


 また一人、首筋を抉られた。

 今度はより深く、首の皮がわずかに繋がるだけで、いつ頭部が重みで落下してもおかしくないほどに。

 大きく露出した首の断面からは、噴水のように血液が飛び散り、酒場全体に赤い雨が降り注ぐ。


「逃げることは考えない方がいい。

人生の最後くらい、苦しみたくはないだろ?」


「ああ、くそっ、くそくそ、ちっくしょう!

ぶち殺す、殺す殺す殺す!! ぶっ殺してやるぞ!!」


 最後まで残ったゴロツキが、必死にもがいている。

 だがまるで、親の腕でもがく赤ん坊のようだ。

 あまりにも力の差がありすぎる。

 

「ふむ、それでは君は何を言い残したい?

最後だ、好きな事を言ってみろ」


「…………呪ってやる」

 

 ゴロツキはたった一言言い残すと、首を抉られ絶命した。

 シランの真っ赤な瞳がこちらを向く。

 標的がこっちに移ってしまった。


「あと二人、……人が来る前に終わらせるか。

おい、まずはガキからだ。

あの黒い服の男には、少し聞きたいことがあるんでな」


 赤く染まった鋭い牙が、俺たちに向けられる。

 シランの動きを見るに、攻撃されれば一度たりとも避けるなんてことは出来ないだろう。

 フラウトが動けない今はなおさらだ。

 どうする? どうすればこの状況を凌げる!?

 俺は鞄に視線を落とす。

 その行動をデニックスは見逃さない。


「何をしてる?

面倒だ。 ガキを殺せ」


 あの瞬足の攻撃が今から来る。

 その事実に、俺は背筋が凍る。

 すぐに顔を上げても、そこにシランの姿はない。

 今から懐の銃でデニックスを狙っても、殺されるのが先だろう。


「フラウト逃げ…」


 俺のスーツを赤に染めるように、また一つ、鮮血が舞った。


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