68マス目 支配者の末路
ネストが上の階に戻ると、ヴァーデはまだ唸っていた。
「おいロネット! さっさと私を治療し……、え?」
騒ぐのに夢中で、ネストが視界に入るまで勘違いをしていたようだ。
ヴァーデの表情が見る見るうちに青ざめていく。
「ろ、ロネットは!?」
「死んだわよぉ。
彼、最高のおもちゃだったわぁ。
うふふふふっ」
ネストは思い出すようにして楽しそうに笑う。
その狂気が、ヴァーデの全身を恐怖で包み込む。
「や、やめて……、助けて……」
ヴァーデは涙を浮かべて懇願するが、ネストが足を止めることはない。
「さぁて、聞きたいことがたぁ~っぷりあるのよぉ。
大人しくしててね? 私はうるさいのは嫌いなの」
ネストは屈みこみ、ヴァーデの目を覗き込む。
「竜の魔道結晶はどこぉ~?
まずはそれを言ってもらわなくちゃ」
ネストの質問にヴァーデは答えない。
いや答えることができない。
本当に知らないのだから。
「ま、待て! あなたは騙されています!
私はあんな人間少しも知らないんですよ!」
それを受けて、ネストは立ち上がった。
傷ついた身体をゆっくりと伸ばし、唇の血を舐めとる。
「そぉねぇ、……その可能性も絶対無いとは言い切れないわぁ」
「で、でしたら……」
ヴァーデの言葉を遮るように、ネストは口を開く。
「でもねぇ、ハッタリだとしたら出来過ぎなのよねぇ」
ネストはヴァーデの周りをゆっくりと回る。
崩壊した部屋にコツコツと靴音を響かせ、ヴァーデの考えを否定する。
「あの男はベヨネッタ家と、この地下街を行き来する。
これがどれだけの事かわかるでしょう?
そう簡単にできるものではないわぁ。
それに、ブルーローズの目的も知っていた。
情報屋にも精通してるんじゃないかしらぁ?」
ネストはヴァーデの正面に立つと、もう一度その瞳を覗き込む。
「あなたの権力なら、全部可能なのよねぇ。
それに、あなたは腕のいい情報屋とお友達。
な~んて話も聞いたことがあるわぁ」
「違う……、誤解だ……、本当に知らない……」
「もう一度聞くわねぇ~、竜の魔道結晶はどこにあるのぉ?」
ヴァーデは全身を震わせ、必死に次の言葉を考えるが、
恐怖と痛みで頭が回らない。
頭が真っ白になり何も浮かんでこないのだ。
「そんなぁ、ああ違う、嘘だ……。
全部あの男が仕組んだデタラメなんだよぉ!!!」
「態度に不満があった? 金銭的な問題? うふふふっ。
だめよぉ、部下は大切にするか、ちゃんと後始末をしなきゃねぇ?
うふふふふっ、あはははははははははははははははははははは」
もうヴァーデが何を言っても、ネストは聞き入れない。
魔道結晶のありかを言うまで、この恐怖は終わらない。
だが、ヴァーデ本当に何も知らない。
「おい! ロネット!? 戻れ! 私を守れ!
答えろよ、答えろってば! おいロネットォォ!!」
死人にすがるヴァーデに、ネストは少し苛立った。
「うるさいのは嫌いって言ったでしょ?」
ネストはヴァーデの耳たぶを優しくつまむと、
血が出るまで爪を立ててから、力任せに引き千切る。
「ひだぁぁぁぁぁあああああぁぁぁ! ひだいっひだいっひぃぃぃぃ」
千切れた耳たぶを数度揉んでから、ネストは一滴の血を舐めとった。
「答えて? 竜の魔道結晶はどこぉ?」
「いやだぁぁ……、ごめんなざいぃぃぃ。
ゆるじで、ゆるじで、ゆるじでぇぇぇぇ……」
「許してじゃなくって、教えてちょうだい」
ネストはヴァーデの血の吹き出す耳に手を当てると、
一気に傷口に指を入れて、荒々しくかき回す。
「んがああああああああああああああああああ!!!!!!!」
ヴァーデは打ち上げられた魚のように、必死でもがいて泣き叫ぶ。
そのせいで足の傷口も徐々に広がってきた。
「これで喋ろうとしないなんて、
随分すごい人に口止めされているみたいねぇ。
でも地下にあることは既に分かってるの。
地下に眠る秘宝を、地下の支配者が知らないわけないでしょ?
仲間の切り方が下手だとそうなるのよぉ。
……ねぇ聞いてる?」
「っ……、っっ! …………っぁ!」
ヴァーデは全身を痙攣させて、白目を剥いてる。
痛み、恐怖、絶望。
自らが人に与えてきたもの全てを、ヴァーデはその肉体に刻まれる。
支配者の末路がそこにはあった。
「この程度で気絶?
こんな拷問、赤ん坊でも我慢できるわよぉ」
ネストは首に巻きなおしたスカーフを、もう一度ほどいた。
魔力を調整して、スカーフが淡い黄色の光を帯びる。
そのまま足に刺さっている曲剣の刃に、そっと当てた。
「んがぎうごぉおぉぉぉぉおぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
人とは思えないような声を出しながら、ヴァーデは飛び起きた。
傷口から電流を流されれば当然と言えるだろう。
「まだまだこれからよぉ。
私の隠れ家で、喋るまでたっぷり……、たぁ~っぷり可愛がってあげる。
うふふふふっ、うふふふふふふっ、あはははははははははははははは」
「ああ、……嫌だ。
誰か助けて、助けて、誰でもいい助けて!
私を助けて! 謝るから! お願いだから助けて!
いやだいやだいやだいやだ! いやだぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁあ!!!」
その日、源竜会は壊滅。
戦闘時の倒壊に巻き込まれ、ショーを見に来ていた貴族が49名死亡。
184名が重軽傷。
そのほか、行方不明者12名の大惨事となった。




