↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
67/440

66マス目 狂人vs鉄人


 ネストとロネットは、息の着く暇のない攻防を繰り広げている。

 もうそこに部屋としての原型は残っていない。

 絶え間ない金属音と吹き荒れる突風。

 壁を砕く衝撃、床を砕く振動。

 常人には視界に捉える事すら叶わない。

 人知を超えた戦いが、そこにはあった。


「いいわぁ、想像以上よぉ、うふふふっ」


「黙れ黙れ黙れ! その不愉快な口を閉じろ!!」


 ロネットの蹴り上げが、ネストの毛先を僅かに消し飛ばす。

 羽衣のように滑らかに回避するネストは、ロネットの胴体を狙って真横に切り払う。

 だが、鉄の変化したロネットに刃は通らない。

 ネストの刃を弾いた瞬間、鉄化を解き素早く放つ回し蹴り。

 ネストはこれをダッキングで回避。

 ロネットは回し蹴りの勢いで、足の軸を切り替えての後ろ蹴り。

 岩をも砕く蹴り技を、ネストは後ろに飛び退き回避した。


「うふふっ、あ~楽しいわぁ」


 ネストは余裕のある様子で、手にする曲剣をバトンのようにクルクル回す。


「ふざけおって……、今すぐその鼻っ面叩き砕いてくれる!」


 ロネットは拳を握りしめると、両拳を鉄に変化させる。

 一瞬のうちにネストの懐に潜りこむと、散弾銃のように連打する。

 しかし、ロネットが打ち込むそこに、ネストの姿はすでに無い。

 

「おーにさーん、こっちら~、うふふふっ」


「上か!?」


 ロネットが視線を上にあげると、

天井にショーテルを突き刺してネストがぶら下がっている。

 ネストは天井に両足を着け、一気に蹴り上げる。

 落下と蹴りの加速で、一瞬のうちにロネットの首を狩り上げた。

 しかし、ロネットはすでに全身を硬化させている。

 首元に当たった刃は、小さな火花を散らして弾かれた。


「その魔法ちょっと厄介ねぇ……。

なら、これはどうかしらぁ?」


 ネストはバックステップで距離を取ると、

かく乱するように素早く動き、残像を作りだす。

 一瞬で残像がロネットを取り囲むと、周囲から無数の斬撃を浴びせ続ける。


「動けるものなら動いてみる? うふふっ。

全身切り刻まれるか…っぷほ」


 ネストの腹に、鋭い足刀が突き刺さる。

 そのまま、数メートル飛ばされるも、

ネストはバク転を繰り返し体勢を立て直す。


「バレちゃったわねぇ……、何でかしらぁ?」


 剣を構え直すネスト。

 険しい顔をしたロネットに刃を向けるが、

その時わずかな違和感に気が付いた。


「……鉄、鉄ねぇ、うふふふふっ」


「何がおかしい」


 ネストは腹でも抱えそうなほど楽しそうに笑う。

 

「嘘つきねぇ、……磁石さん」


 ロネットの眉がわずかに動いた。

 それは珍しくも、この男が動揺している証であった。


「あなたは鉄じゃない、磁石よねぇ?

とっても、とぉーっても硬い磁石。

駄目よぉ、嘘つきは泥棒の始まりなんだから。

うふふっ、あははははははっ!」


「……見抜かれたのは初めてだ」


 ロネットはずんずんと突き進み、ネストとの距離を詰める。

 

「汗か何かを付けると、引き合ってくれるのねぇ。

ああ、確かにちょっと引っ張られる感覚がするわぁ~。

これで、私の方向を探ってたのねぇ」


 ネストの言葉などお構いなしに、ロネットは硬化した拳を叩き付ける。

 ネストは余裕ぶってこれを回避すると、すれ違いざまに脇腹を斬り裂く。

 だが、これも全身を硬化させ、刃を通すことを許さない。

  

「困ったわぁ、どう攻撃を当てようかしらぁ?」


 首をかしげるネストに、ロネットは幾度もフェイントを入れ背後に回りこむ。

 ネストの死角から、硬化した拳で何度もその背中に鉄拳を叩き込んだ。

 ……しかし、当たらない。

 まるで背中に目がついているかのように、足捌きと手元の曲剣で防いでいる。

 そして、ロネットが曲剣ごと叩き壊そうと、拳を大きく振りかぶった瞬間、

ネストの後ろ蹴りが、カウンターでロネットの顔面にクリーンヒットした。


「ぐほぁ!」


「良い手ごたえねぇ」


 ロネットの鼻から、真っ赤な血がポタポタと流れ落ちる。

 だが、ロネットは何故か一瞬だけ右に視線を向けた。

 もちろんネストはそれを見逃さない。


「あらぁ、何をしているのぉ~?」


 にこやかに笑う視線の先には、こっそりと逃げ出そうとしているヴァーデの姿。

 

「お逃げください、公爵様!!」


「うふふっ、ダ~メ」


 ネストは笑いながらブーメランのように曲剣を投げつけた。

 その刃は、ヴァーデの太ももに深々と突き刺さる。


「があっぁあぁぁぁあああ!!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!

ああ、血がっ血がっ、あぁぁぁぁ、死ぬ死ぬ、ああ、死ぬぅぅ!!!!」


「うるさいわねぇ、耳障りよぉ」


 ネストは片耳を塞ぎながら、冷めた目でヴァーデを見下ろしている。

 対してロネットは青ざめた顔で駆け寄ろうと走り出した。

  

「公爵様!!」


「隙だらけ。 うふふふっ」


 背を向けるロネットに、ネストは素早く背後を取ると、

回し蹴りに近い形で、首に足を引っ掛けた。

 そのままの勢いでロネットを投げ、宙に浮かす。

 空中のロネットに向かって、ネストは正拳を叩き込む。


「むごぁぁ!!」


 背骨が軋む音と共に、ロネットは床に倒れこんだ。

 そこに追撃するように、ネストは鋭いかかとを振り下ろす。

 その攻撃をロネットは全身を硬化して防いだ。

 弾かれた瞬間、ネストは素早く足を引き、後ろへ飛び退き距離を取る。


「硬くなるタイミングが、少し遅れているわねぇ。 

動揺しちゃったぁ?」


「……卑怯な」


 立ち上がりながらそう呟くロネットに、ネストは眉を潜ませる。

 

「戦いの最中に何を言っているのかしらぁ?

増援、トラップ、援護、人質、脅迫、買収、ぜーんぶが戦いよぉ。

卑怯なんて言ってる暇があったら、備えを万全にしないといけないわぁ」

  

 ネストはいまだに元気そうに喚くヴァーデを指さす。

 

「剣さえ抜かなければ、しばらくは持つはず……。

うふふふっ、この意味が解るかしらぁ?

特別に、あなたの土俵で戦ってあげるわぁ~」


 ネストはプラプラと手を振ったあと、ゆっくりと拳を握りしめる。


「……待っていろ、すぐにその口を開けなくしてやる」


 ロネットはその場で上着を破り捨てると、背中に赤い光が灯る。

 両拳を音が鳴る程強く握りしめ、限界まで硬く硬化させる。

 二人の間に生まれる、わずかな沈黙。

 数秒の間をおいて、先に動いたのはロネットだ。


「行くぞ!!!」


 ロネットは真正面からネストの元へ突っ込んだ。

 これに対して、ネストは避けようともしない。

 ロネットは一瞬たりとも速度を緩めようとせず、

突進しながら弾丸のように左拳を突き出した。

 眼前に迫る鉄拳を、ネストは身体を横に向け上体を逸らして回避。

 体を逸らしたまま、左足でロネットの顔面を膝で蹴り上げた。

 だが、ロネットは歯を食いしばりこれを耐える。

 この攻撃によって、ロネットの突進は止まり、ネストはあまりに避けにくい体勢。

 ロネットは軸足に力を込めて、ネストの顔面に右の鉄拳を叩きこむ!

 回避の間に合わないネストは、両腕を十字にクロスさせ防御する。


「無駄だ!」


 ロネットの鉄拳は、ネストのガードをたやすく弾き飛ばす。

 バランスを崩したネストを前に、ロネットは左拳の硬化を解く。

 そして手刀のような形にすると、再び硬化させる。


「これで終わらせてくれる! 龍落指針(りゅうらくししん)!」


 ネストの腹部に直撃した刺突は、その衝撃波で床に大きなヒビを入れた。

 衝撃でネストの体は後方に吹き飛ぶ。

 それでもまだ攻撃は止まない。

 ロネットはその場で飛び上がると、右手を鍵爪のように爪を立てた形で硬化した。

 ネストは数回床でバウンドすると、壁に叩き付けられ、

跳ね返る野球ボールのように地面を転がる。

 ロネットは右手を下に突き出した形で全身を硬化させると、

全体重を乗せてネストを押しつぶす。


「龍我圧壊(りゅうがあっかい)!」


 ロネットの攻撃に耐えきれず、床が崩壊。

 二人は一階の空き会場に落下した。

 その場所は、奴隷を魔物と戦わせたりする闘技場のような場所だ。

 十数メートルの落下と共に、数百キロの重さが地面に落ちる衝撃は、

建物を地震のように大きく揺らした。

 すでにぐったりしているネストに、ロネットは攻撃の手を止めることは無い。

 即座に硬化を解くと、ネストの胸ぐらを掴み真上に放り投げた。

 右手を発勁の形にして、魔力を集中。

 溜めに溜めて……、硬化する!

 

「砕け散れ! 龍景覇軍(りゅうけいはぐん)・鉄華仁狼掌(てっかじんろうしょう)!!」


 落下してきたネストの腹に、完璧な形で入った掌底。

一瞬周囲の音が止み、空気が歪む。

 すると、一拍の間をおいて、ネストの体は虫けらのように吹き飛んだ。

 壁に衝突しても衝撃は止まず、最初の衝突で壁面は抉れ、

数瞬後に全体にヒビが入る。

 その直後、観客席を含めて、会場の半分近くが倒壊した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。