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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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65マス目 血濡れる少女


 全力で走り過ぎて足がもつれそうになる。

 それでも走る!


「……っ、出口!!」


 俺は飛び込むように外へ転げ出た。

 後方からは、いまだに激しい戦いの音が聞えてくる。


「……さっきの奴らどこ行った?」


 外にいた警備兵の姿が見えない。

 警備兵までもが、貴族達への対処でてんてこ舞いなのだろうか?

 とにかく、源竜会はこれで壊滅するはずだ。

 巻き込まれる前に、急いで地下街から脱出した方が良い。

 俺はシランとフラウトを預けたボロい店へ駆け込む。


「シラン! フラウト! 待たせて悪か……、あれ?」


 扉を開けた先で、俺は思わず目を丸くした。

 シランは本を読みながらお菓子を食べているし、

フラウトはボールでリフティングのような事をしている。


「あ! おじさん、おかえり!」


「トマトのおじさんも食べる?」


「……平和そうだなお前ら」


 今さっき死線を2回ほど潜り抜けた身としては、

あまりの温度差で風邪でも引きそうだ。

 でも元気そうでよかった。


「ちょっと色々あってな、今すぐここを出るぞ!」


「え? ……う、うん。

すぐに準備するよ」


 二人は足早に奥の部屋へ入っていった。

 俺は店員に頭を下げる。

 

「匿うだけでなく、面倒まで見てくれるなんて。

本当に助かった、ありがとうな」


「良いってことよ、子供と話すのは久々だったからな。

数年ぶりに心が和んだような気がするよ」


 店員の男性は大口をあけて笑っていた。

 その間に二人も準備が終わったらしく、奥の部屋から出てきた。

 

「もう大丈夫か?」


「うん!」


「いつでも行けるよ! おじさん!」


 俺は再び定員に向き直ると、もう一度深く礼を言った。

 

「本当にありがとう、今度は客として寄らせてもらうよ」


「よしてくれ、ここのもんはあまり褒められた商品じゃない。

また、遊びに来てくれ。

茶くらい出すぜ」


「ああ、またな」


 お互いに手を振りあい、俺たちは店を出る。

 ここから先は源竜会の人間に見つかる危険がある。

 その前に、足早に地下の出口へと走った。


「急ぐぞ、早く走れ!」


「わかってるよ。

大丈夫、シラン?」


「うん、平気」


 立ち止まらず出口の階段を駆け上がる。

 そして、鉄の扉が見えてきた。

 

「よし、開けるぞ!」


 力いっぱい取っ手を引っ張る。

 開いた扉から、なだれ込むように俺たちは外へ出た。

 木製の壁を見ると、何だか少し落ち着く気がする。

 まあ、この場所も治安の悪さで言えば危険地帯だが。

 取りあえず、酒場の扉をノックしてマスターに扉を開けてもらおう。


「おう、戻ったか」


「ああ、何とかな」


 マスターと一言ずつ言葉を交わして、立ち去ろうとした。

 すると、マスターから声がかかる。

 

「ちょっと待ちな。

コイツがあんたらに用があんだってよ」


 マスターが指差すのは、カウンター席に座る鎧を着た男。

 冒険者だろうか?

 そう思って俺が近づこうとすると、シランとフラウトが俺の服を引っ張った。

 二人は服を掴んで離さない。


「ちょ……、おいどうした?」


「……おじさん、こいつだよ」


「こいつ?」


 こいつと言われても、俺にはよく分からない。

 だが、次のシランの言葉に、俺は衝撃が走った。

 

「……お父さん」


「んな!? こいつが例の?」


 俺は睨み付けるように、男へ視線を向ける。


「こいつこいつって、ほかに呼び方は無いのかね?」


 めんどくさそうに重い腰を上げた男は、

兵士というよりは、中年太りのおっさんという印象が強い。

 吊り上がった眉毛と、常にしわの寄っている眉間を見るに、

いい人ではないのが、見た目で伝わってくる。


「私は衛兵部隊の第6支部部隊長、デニックス・クローバー。

そこのガキの父親だ。

しっかり覚えておくように」


 ものすごく態度のデカイ男は、とても強そうに見えない。

 だが部隊長という肩書からすると、相当な実力者なのだろう。

 戦闘になったら勝ち目はなさそうだ。


「……んで、用ってなんだよ?」


「ふむ、そのことだが……」


 デニックスは俺の後ろにいる二人を交互に指差す。

 

「ガキ共を渡せ。

これは命令だ、拒否権はない」


 シランの体が震えだす。

 さっきから自分の子供にガキって。

 そんな言い方するか、普通?

 こんな野郎に対する俺の答えは決まっている。


「答えはノーだ。

ベヨネッタ家のフラウトがいる分、こちらの方が権限は上。

こちらには拒否権が発生するはずだ」


 こう言って出直してくれるなら助かるんだが……。

 俺の思いとは裏腹に、デニックスの顔にはどんどんしわが寄る。

 

「そうか、それは重大な命令違反だな。

権限? 知らんよそんなもん。

私が絶対なんだよ、拒否権とかふざけたこと言うならば、

今すぐ私が処罰してやろう」


 デニックスは肩に張ってある紙を千切って、テーブルに張り付けた。

 すると、テーブルが宙に浮きあがる。

 あれが奴の魔法か。

 俺はデニックスが行動を起こす前に声を上げた。

  

「頼むぞ、あんた達」


 その瞬間、大きなテーブルが俺たちに向かって突っ込んでくる。

 だが、テーブルはこちらには当たらなかった。

 横からの大きな一撃が、木製のテーブルを粉々に砕く。


「任されたぜ、兄ちゃんよぉ」


 それはさっきまで飲んでいた、ゴロツキの放った棍棒の一撃。


「あれだけの大金貰ったんだ。

俺たちゃ盾にでも何でもなるぜ、なあ!?」


「おう!」


「ったりめぇよぉ!!」


 雄たけびを上げる三人の屈強な男たち。

 三人とも、シラン達を預けた際に雇っておいた人間だ。

 本当は地下から敵が追ってきたときに守ってもらおうと考えていたが、

こんな形で助太刀を頼むことになるとは思わなかった。

 それに、この三人は俺がこの世界に来た時に、襲ってきた三人でもある。

 人の首を一発で切り落とす、あの人間離れした腕力は、きっと助けになるだろう。


「おじさん……、この人たちは?」


「味方だ、三人とも強ぇーぞ」


 俺の言葉通りに、三人のゴロツキ達はデニックスの操る家具を次々叩き落としてゆく。

 そして、段々とデニックスの周りに飛ばせるものが無くなってくる。


「おいおい、部隊長ってのもたいしたことねぇなあ」


「少し手加減してやるか? げっはははは」


「おい、ダルマおやじ、言いてえことがあるなら聞いてやろうかぁ?」


 三人はデニックスを取り囲み、今にも飛びかかりそうだ。

 これは心配いらなかったかな。


 そう思っていた時だった。

 デニックスは短い呪文を小さく唱えた。


「ん、ぎ、うぐぅぅぅぅぅぅぅぅ…………」


「ん? え!? おいシラン!?」


 突然うずくまり、唸り声を上げるシラン。

 全身から脂汗が噴き出し、床に小さな水たまりができていく。

 はっきり言って異常だ。


「おいシラン! しっかりしろよ!

どうなって……」


 俺がシランの体に触れようとした瞬間。

 シランの姿が眼前から消えた。


「……え?」


「おわあぁぁあぁあっぁぁぁぁっぁぁあ!!!!!!」


 背後から突然聞こえた叫び声。

 俺はすぐに振り返った。

 そこに、シランはいた。

 ゴロツキの首筋を大きく抉りながら、血にまみれるシランが。


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