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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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58マス目 風車小屋の作戦会議


 ランタンの明かりが揺れて時計が見づらい。

 苦戦しながら確認した現時刻は、19時14分。

 舗装されてないため、車体が揺れて尻が痛む。


「あの人、クッションとか、持ってないかな?」


 そう言いながら見つめる先は、風車のある小さな家。

 ヒゲ爺の住んでいる場所だ。

 俺は馬車を降りて木の戸を叩く。


「ピーター・ディクソンさーん!

いらっしゃいますかー?」


 一瞬の間が空き、扉の奥から大きな物音がする。

 まるで火事場から逃げ出すような、

大げさな足音を響かせて、勢いよく扉が開いた。


「そ、その名で呼ぶということは!?」


「どうも、俺は何度も合ってるけど一応言っときます。

……はじめまして、ヒゲ爺」








「ここは街灯が無いから、来るのが大変だったじゃろ?」


「ええ、今度からは朝に来たいもんです」


 相変わらず、ここのコーヒーは美味い。

 俺は暖かいコーヒーを味わいながら、背もたれに体重をかける。


「だがそれでも来たということは、何か急ぎの用があるんじゃな?」


 急ぎと言うわけではなかったが、手に入れられるときに銃を貰っておきたかったのだ。

 でも、いい機会かもしれない。

 ロネットの事を相談すれば、何か知恵を貸してもらえるだろう。

 俺はコーヒーカップを置き、一息ついた。


「あなたに相談があるんです」


「……言ってみろ」


 ヒゲ爺の視線はどこか優しく、そして力強い。


「ロネットという男の使う魔法が、どうしてもわからないんです。

どうか知恵を貸してください」


 俺は深く頭を下げる。

 もしこれで、ヒゲ爺にも解決策が見つからなければ、

危険な賭けに出ることになるだろう。

 だが、もしあの男を倒すことができれば……。


「その男と戦ったことはあるか?」


「ええ、何回か戦いましたが歯が立ちません。

攻撃を防ぐんです。

魔法も、炎も、……拳銃も」


「拳銃? もしや、わしのか?」


「そうです」


 そう言うと、ヒゲ爺は途端に顔を伏せて唸りだす。


「うーむ、銃が効かん相手か。

変身したりはせんよな? 魔物とか、虫とか」


「いや、普通のままで、弾丸をものともしてませんでした」


 ヒゲ爺は腕を組み、頭を右へ左へ傾ける。

 そして、急に立ち上がった。


「なるほどのぉ、ちょっと待っとれ」


 ヒゲ爺は足早に階段を上って、一分も経たないうちに戻ってくる。


「こいつじゃ、きっとこれに近い魔法じゃろう」


 その手には一冊の本が握られている。

 ヒゲ爺はテーブルのコーヒーをどかして、

重量感のある音を立てながら本を置いた。


「この本には、わしが戦った敵の事がメモしてある」


 年季の入った茶色のページを次々に捲っていく。

 その中には、たった一人に何十ページもびっしりと書き連ねられている。

 攻略法、弱点予想、駆け引きなどの情報や図解。

 まさにこの人の歴史と言っても過言ではない。


「お前さんの言った相手は、こいつと似ておる」


 ヒゲ爺は丁度真ん中あたりのページを開いた。

 そこにはマントを羽織った中年男性が描かれている。


「この男は、攻撃を吸収して自分の魔力へ変換する男じゃった」


 ヒゲ爺は険しい顔をして語る。

 きっとこの男に何度も殺されたのだろう。


「どうやって倒したんですか?」


「それがのぉ、こういった攻撃無効化の魔法は、

長時間の発動ができないはずじゃ。

わしは、魔法の効果が切れるタイミングを狙ったんじゃよ」


「……つまり、逃げ回って魔力が切れたところを撃てばいいんですね」


 俺は納得したように頷いたが、ヒゲ爺はそれを否定する。


「いや魔法じゃ。

銃だと急所に当てねばならんぶん、

運に頼ることになってしまうじゃろう」


 そう話すヒゲ爺に、俺は何も言えなかった。

 確かにいい攻略法だとは思う。

 だが、あの男が魔法を使ったそぶりはなかったはず。

 発動と解除の瞬間を一度も抑えてない状況で、

作戦など立てようもない。

 そんな俺の表情を見て、ヒゲ爺は再びページを捲り始めた。


「なら、お前さんは若いから、

ちょっと体を動かす作戦もできるじゃろ?」


 そう言って指し示す場所には、いくつもの作戦が書いてあった。

 ほとんどは魔法を使うもので、俺にはやりようがない。

 その中の一つに、ヒゲ爺は波線を引いた。

 それはあまりにシンプルな事。


「……首を絞める?」


「ああ、わかりやすいじゃろう?」


 腕を組んで自信気に言ってるが、

どうにも納得がいかない。


「いやあの、攻撃が効かないんですよ?」


 ヒゲ爺は「大丈夫じゃ」と言いながら、自信満々に笑う。


「攻撃を無力化する魔法は、

言ってしまえば、衝撃を無力化する魔法じゃ。

こういった魔法は攻撃を無効化するだけで、

相手に触れないわけではない。

衝撃も無いこの方法ならば、上手くいくはずじゃよ」


 確かにヒゲ爺の言うこともわかる。

 バリアや反射の魔法でないなら、その方法もアリかもしれない。


「でもこれって、結構難しくないですか?

上手い具合に背後を取らなきゃいけないし……」


「ああ、だから作戦を考えるんじゃ」


 ヒゲ爺はそう言って笑ったが、

俺は苦笑いを返すしかなかった。








「ありがとうございました」


 俺は作戦を書き込んだ手帳を手にドアノブを回す。

 いくつかの不安要素は残るが、この作戦は上手くいきそうだ。

 もちろんすでに拳銃も貰い準備はできた。


「また何かあったら、いつでも来るといい」


「ええ、助かります」


 俺はもう一度深く頭を下げ、馬車に乗りこむ。

 馬が鳴き手綱が振るわれ、馬車が動き出す。

 去り際に「がんばるんじゃぞ」と聞こえたので、軽く手を振り返した。


「思ったより時間かかったな」


 腕時計に視線を落とすと、22時36分。

 馬車に乗っているから襲われる心配は少ないが、

徒歩ならあまり外を歩きたくない時間だ。

 俺は今晩止まる場所を探すために、ボロ宿付近の通りを走っていた。

 せっかく泊まるのだから、フラウトとの待ち合わせ場所近くの方が楽でいい。

 ……もちろんあのボロ宿で寝るのはもう勘弁だけど。


「しっかし、通りは大丈夫だけど裏路地はすごいな。

馬車を睨んでくる視線がビシビシ飛んで……、あれ?」


 視線の先には、まるで通りを塞ぐように謎の人だかりができていた。

 俺は手前で馬車を止めて様子を見る。


「あの、何かあったんですか?」


 俺は近くにいた冒険者風の男に聞いてみた。


「殺しだよ、裏路地で人が死んでんだ」


 不謹慎だが、この街では裏路地での殺人が珍しいとは思えない。

 そう思って、軽く背伸びをして覗いてみた。

 だが、その光景は俺の想像をはるかに超えていた。


「……人? ……あれが!?」


 路地裏に転がる丸い物体は、

所々から出血し、血管らしきものが浮き出ている。

 よく見るといくつか顔がついており、歪んだ表情は助けを求めているようにも見える。

 それは人間というよりは肉塊。

 数人分の肉体が、醜く融合していた。


「はいはい! どいたどいた!」


 がちゃがちゃと音を立てながら、何人かの衛兵が人混みをかき分ける。

 誰かが通報したのだろう。

 とにかく、これ以上変な事件に関わるのはごめんだ。

 俺はすぐさま馬車に乗り、その場を離れた。


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