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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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55マス目 今度こそ、その手を


「すいませーん、トマトを20個もらえます?」


「はいはーい、毎度あり!」


 俺は広場近くの八百屋でトマトを買っていた。

 シランにあげるため、悪い言い方をするなら餌付け用だ。

 だがそれで守れるのなら、汚いやり方でも構わない。


「結構量あるけど、持って行けるかい?」


「ええ、馬車があるんで」


 軽く会釈をして、馬車の中にトマトの詰まった紙袋を入れる。

 俺は小腹を満たすために、1つだけかじりながら馬車を出した。








 広場に着くと一目でわかった。

 やはりシランの白い髪の毛は目立つ。

 今日は周りに誰もいないようで、一人で座って虚空を見つめている。

 俺は視線に入りそうな場所で、わざとらしくトマトを食べ始める。


「…………トマト」


 明らかに視線がこちらに切り替わる。

 なんともわかりやすい子だ。


「……食べるか?」


 俺がそういうと、頷きながらすぐに駆け寄ってきた。

 シランは遠慮なしに袋を漁ると、大きめのトマトを選んでかぶりつく。


「うまいか?」


「うん、ありがと、トマトのおじさん」


 シランは小さく微笑んだ。

 トマトを貰ったことに喜んだのかと思ったが、

どうやら違うようだ。

 近くをシランと同年代の子がウロウロしている。

 きっと、俺がいるからシランに手を出せないのだろう。


「トマトのおじさんは悪い人? いい人?」


 シランはたまに変な事を聞いてくる。

 ここで悪い人と言う人間は、あまりいないと思う。


「……良い人だと思うぞ? ほら、人にトマトをあげるくらいだし」


「そっか」


 もう何度も話しているはずだが、やっぱり考えが読めない。

 シランはただ黙々とトマトを食べている。


「口についてるぞ」


「あっ、ありがとう」


 俺からハンカチを受け取ると、口を拭いてポケットにしまう。


「……洗って帰すね」


「子供がそんな事気にすんな」


 シランからハンカチを取り返すと、折りたたんで鞄にしまう。

 すると、シランはベンチを降りて歩き出した。


「……トマトのおじさん、ちょっと来て」


「へ? なんでだ?」


「いいから」


「お、おう」


 俺は大量のトマトを抱えながら、シランについていく。


「……ここだよ」


 シランが指差すのは、魚の餌が売っている売店。


「ああ、そういえば、すぐそこに池があるもんな……。

そういう店があっても、変ではないか」


 中に入ると、見たことも無い不可解な物が並んでいた。

 鯉のエサなどは見たことがあるが、

店頭に並んでいるのは、見た目も名前も不思議な物ばかりだ。

 そもそもエサの種類が馬鹿みたいに豊富なのが気になる。


「レーデフィッシャーのえさ、ロンドシザーのえさ、モーモーエビのえさ……。

だめだ、どんな魚か想像もつかない」


「トマトのおじさん、これ!」


 シランの表情はいつものように無表情だが、

普段より動きにキレがある気がする。

 多分、テンションが上がってるのだろう。


「ん? どれだ?」


「これ、これだよ」


 指差す札には、パンプキンフィッシュのエサと書いてある。

 カボチャ魚? 何だかハロウィンみたいだ。


「この魚って、珍しいのか?」


 彼の質問に対して、シランはブンブンと首を横に振る。


「普通のやつだけど、形が面白い」


「そうか、わかった。 ちょっと待ってな」


 俺は店員に言って、二人分エサを売ってもらう。

 一人分が1200円と妙に割高なので、子供が買えないのも納得。


「ねぇ遅いよ、早く」


「そりゃ、お前は走ってるからな」


 トマトを抱えているため、俺は早歩きでシランを追っている。

 だが、シランは結構全力で走っているのか、なかなか追いつけない。

 結局、先に着いたシランがマッチ棒サイズに見えるほどに、距離が開いてしまった。


「トマトのおじさん、もっと早く」


「今行くから、待てって」


 もはや完全に振り回されている。


「エサ撒いていい?」


 池のほとりで準備万端なシランが、目を輝かせてそう言った。

 ……これで断るとどうなるのだろう。

 なんて事を考えそうになったが、そんな意地悪はしない。


「ああ、好きなだけやったらいい」


 無邪気にエサを撒き、魚がパクパクと口を開けるのを見ているシラン。

 その姿を見守っていると、父親にでもなった気分になる。

 結局俺は急いでいたことも忘れ、夕方までシランの遊びに付き合った。

 遊び疲れた俺たちは、のんびりベンチに座って残りのトマトを平らげる。


「ほら、最後の一個だ」


 袋の奥からヘタが乾いたトマトを取り出す。

 そんなトマトをシランは嬉しそうに受け取り、大きく口を開けてかぶりつく。

 こんな時間でも、まだこちらを見る子供の影は絶えない。

 彼はシランを心配して一つ提案をした。


「家まで送ろうか? 近くに馬車を止めてあるんだ」


 すると、食べ終わって口を拭くシランが、

馬車という言葉に反応する。


「……トマトのおじさんは、お金持ちなの?」


「うーん、今はそうかな」


 彼は鞄にチラリと視線を向ける。


「……ならいいや」


 シランはどこか残念そうな顔をして、ベンチから立ち上がる。

 この子の父は偉い立場にいるそうだから、

金持ちや貴族に嫌悪感でも抱いてるのか?

 だとしたら、今のは失言だったかもしれない。


「ねぇ、トマトのおじさん」


「ん?」


「……ううん。 何でもない」


 そう言って走り去ろうとするシラン。

 その顔は、どこか泣き出しそうな表情に見えた。


 ……この光景、どこかで見たことがある。

 確かシランと会った最初の世界で、似たような事があった。

 俺はその時、確かに後悔したんだ。

 あの時手を取っていれば、少しは未来が変わったんじゃないかと。

 俺はもう迷わなかった。


「シラン!」


 俺の手は、真っすぐ彼女の手を掴んでいた。

 振り向くその顔はとても悲しそうで、

でも、どこかホッとしたような顔に見えた。

 彼は優しく、親のような顔でその小さな頭を撫でた。


「隠さなくていい。 逃げなくていい。

大丈夫だ、安心しろ」


「ねぇ、……おじさん」


「ああ」


「……助けて」


「ああ!」


 これは小さな一歩だろう。

 だが、確実な一歩だ。

 俺は固く決意する。

 今度こそ、シランを貶める全てを打ち破る!


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