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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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54マス目 夢うつつの計画


「ほ、本当にレベル1なんですのね……」


 エリザベートは震えた声で言った。

 手に持つワイングラスも、プルプルと震えている。

 その顔は驚きと不安と呆れに満ちていた。。


「これでネストの手先だとか、お前の命を狙った暗殺者とか、そういった疑いは晴れたか?」


「ええ、ばっちり晴れましたわ。

あなたを敵に送り込むくらいなら、近所の子供を特攻させた方がまだマシですもの」


「ほっといてくれ……」


 おrの前でレベルを計るための美しい水晶が輝く。

 その中心には、白い雪のように儚い数字が映し出されている。

 そこらの子供以下となれば、帰ってくる反応は呆れるため息か、馬鹿にする大爆笑だろう。

 現に後ろの執事は、物凄い形相で笑いを堪えている。


「ねぇテンダー、これって幻覚を利用したいたずらとかではありませんのよね?」


「いやぁ、複数人が見る幻覚なら、そこそこの幻覚使いなら見破れますよ。

これは紛れもなく本物で……ぶっ、くふっ……」


 あの後、馬車はいつものようにエリザベートのお屋敷に到着。

 そのまま疑いを解いて、現在は食事中だ。


「あ、そういえば、

ネストの後ろにくっついてた二人組って、どうなったんだ?」


「もう捕らえられている頃ですわね。

馬車の手配と同時に、テンダーが通報してくれましたの」


 普段バカやってるくせに、ちゃんとやる事はやっているんだと、俺は少しだけ感心した。


「……なぁ、確かあいつらって賞金が出てたよな?」


「ええ? 欲しいんですの?」


「ちょっと今、金欠でな」


 今までは生活資金くらい真面目に働いて稼ぎたいと考えていたため、賞金の話題は出来るだけ避けていた。

 だが今回は作戦の一つに、多少まとまった金がいる。


「良いですわよ。 その弱さでネストを退けた褒美ですわ。

本当は申請まで時間がかかるところですけど、

わたくしから直接差し上げますわよ」


 エリザベートが指をパチンと鳴らすと、すぐさま扉が開いてセルバさんが布袋を手渡してきた。


「フルム兄弟の兄、ジペスタ・フルムダーリック。 200万。

フルム兄弟の弟、ダップ・フルムダーリック。 100万。

合わせて300万円でございます。

どうぞお納めください」


 受け取った布袋の中には、ギッシリと日本銀行券が詰まっている。

 この状況での福沢諭吉の似合わなさに、思わず苦笑いがこぼれた。


「どういたしましたの?」


「ああいや何でもない、ありがたく頂くよ」


 そう言って俺は、物凄い違和感を持つ金袋を鞄に詰め込んだ。








 水の流れ落ちる音が心地いい。

 俺は湯船に浸かりながら、天井を眺めていた。


「やっぱり、どこも無理だよなぁ」


 考えていたのは、シランとフラウトを匿う場所だ。


「フラウトの隠れ家は駄目。 シランの住む宿は駄目。

誰にも見つからないはずの、地下書庫も駄目だった」


 この屋敷は、エリザベートとテンダーが会合の準備のために屋敷を開けてしまう。

 襲ってこられたら対処できないため、結局はここも駄目だ。


「あとは、馬車で逃げ回るとか……、追いつかれそうだな。

そうだ、ヒゲ爺の家……、は無理だよな。

もういっそ国の外へ……、魔物のエサになるのがオチだろうな」


 うわ言のようにブツブツと独り言を言っているが、背後への警戒は怠っていなかった。


「いったぁ!!」


 脱衣所からする、大きな物音。

 そこから聞こえた声は、テンダーとエリザベートを混ぜたような変な声。

 まあ、間違いなくテンダーだが……。


「おう、盛大に引っかかってるな」


 俺はあらかじめ、脱衣所の一部に石鹸を塗っておいたのだ。

 そこに不用意に足を付ければ、大抵の人間は尻もちをつく。

 俺はのんびりと脱衣所に足を運び、まんまと引っかかったテンダーをあざ笑う。


「えっと、……何でばれたんすか?」


「秘密だ」


 そのあと、俺とテンダーは急いで脱衣所の石鹸を拭きとり、、途中酔って入って来そうになったエリザベートを食い止めた。








 夜の食事も済み、俺は屋敷の一室でペンを走らせていた。

 小さな手帳に細かく書いては消して、書いては消してを繰り返す。

 少しでも多くの事態を想定して、1%でも生存率を上げるために。

 しかしだんだんと襲い来る睡魔は、疲れた体を翻弄するのには十分すぎた。


「…………やっぱり、………だよな。

多分源竜会は………探さな…は…。

約束の…………、隠れ………二人を…………。

酒………逃げ出……ば、……に足止めし…………。

これ……題…………、……ネ……………。

……………………………………………」


 目蓋が白く照らされる。

 小鳥の鳴き声が、なんとも可愛らしい。

 ……ってあれ!?


「朝!? 今何時だ?」


 時刻は六時半。

 いい感じで六時間の十分な睡眠を、突っ伏した姿勢でとってしまった。

 俺はすぐに耳たぶに指を当てる。

 こんな場所でグーすか寝ていたものの、どうやら熱は出ていないらしい。


「危ねぇ、もしこれで風邪でもひいたら最悪だったな」


 朝っぱらから顔を青くしたところで、変な体勢で寝た分しっかりこりをほぐす。

 本当は栄養ドリンクでも飲みたい気分だが、そこまで言ったら贅沢過ぎる。

 もう一度机に向かってしばらくしたころ、ドアからノックの音が鳴る。


「お食事でございます」


「あ、はーい、今行きます」


 俺は緩くなっていたネクタイを締め直すと、部屋を出た。








「もう少し居てもいいんですのよ?」


 玄関口まで見送ってくれたエリザベートは、少しだけ名残惜しそうに言った。


「悪いな、少しやることがあるんだ」


 いつもは昼前にここを出ていたが、今回は早めに出発することにした。


「わかりましたわ。

それでは、これを持って行きなさい。

その恰好よりは目立たないと思いますわよ」


 エリザベートはテンダーに指示を出す。

 持ってきたのは、以前見たことがあるベージュ色のローブ。


「そういえば、前は貰い忘れてたな……」


「ん? 何のことですか?

もしかして、エリザベート様からもう一着貰ってるとか?」


「あ……、いや違う、何でもない」


 こう何度もやり直していくと、失言が増えてきてしまう。

 気を付けないとな。


「ありがとう、本当に助かったよ」


「礼には及びませんわ。

ほら、そちらの馬車を貸して差し上げますから」


「おお、いい感じだな」


 少し古めの車体は金持ち感を出さず、丸いフォルムは内装を広く取っている。


「こちらは盗難防止のチェーンでございます」


 南京錠の着いた大きな鎖。

 これならば、スマホの電力も無駄に消費しないで済みそうだ。


「……お父様の件、よろしくお願いいたしますわよ」


「お、おう」


 最後の一言は、小声だったが威圧感が凄かった。

 エリザベートがここまで言う相手。

 今更ながら緊張してきた。


「それじゃあ、もう行くな」


 俺は馬車に乗り手綱を握る。

 世話になったお屋敷を背に、大きく手綱を振るった。


 公道に響く蹄の音。

 その規則的な音と共に、俺は覚悟を決めていく。

 次こそ勝利するため、もう死なせないため。

 一層手綱を強く握りしめた。


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