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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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53マス目 路地を舞う金色の蝶


 後方に飛ばされた二人の男は、路地裏に逃げ込んでいた。


「アニキィ、戦わないのぉー? 相手は女だぜぇー」


「馬鹿野郎! 何でてめぇは、あの女を知らねぇんだよ!?」


 太った男は頭の上にはてなを浮かべながら、狭い道を無理に走り続けている。


「あの女はなぁ、クソみてぇに強い奴って覚えとけ!」


 そう言いながら、細身の男が角を曲がった時だった。


「随分な言い方ですわね。

レディにクソなんて、失礼にも程がありますわよ」


 空から舞い降りるように、エリザベートは二人の前に立ち塞がった。


「フルム兄弟ですわね。

悪名はよく耳にしまして」


 細身の男は身を低くしてナイフを構える。

 しかしその手は震えていた。


「だからなんだ!? 女だからって容赦はしねぇぞ!

クソボケがあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 男は狭い路地裏の地の利を生かす。

 左右の壁を蹴って素早くかく乱しながら呪文を唱えた。

 直後男の体が一瞬青筋を走らせ、動きが数段早まる。


「肉体強化魔法ですわね。

上手く使えばいくらでも化ける魔法ですのに……」


 強化を施し10メートル以上の高さに昇った男は、縦の回転を銜えて丸鋸のように高速回転し始める。

 そのまま勢いを殺さずに、エリザベートに向かって落下していく。


「ミンチになりやがれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


「本当に芸がないですわ」


 落下の音はしなかった。

 男の体は空中に静止している。

 エリザベートはただ突き出しただけ。

 小さな扇子を。


「せめて通用する攻撃を思いつくといいですわよ」


 ナイフは扇子に食い込み、がっちりと挟み込まれている。


「ぐぅ……、動かねぇ!? 嘘だろ!?」


 エリザベートは、扇子ごと男を宙に放り投げる。

 そして、フィギュアスケートのように優雅に回転しながらの、回し蹴り!


「んぐぅっ!!」


 細身の男は情けない声を上げて、壁にもたれながらずるずると倒れこんだ。


「あっけないですわね、……あら?」


 太った男はいつの間にか武器を構えていた

 握りこむ得物が、何度も赤い光を帯びては消える。


「たまったぞぉ! 力が! 力がぁぁ!!!」


 振り上げていた物をただ振り下ろす。

 たったそれだけだが、細い路地のような場所ではとても有効な攻撃だ。

 ……相手がエリザベートでなければ。


「力があれば良いってものでもありませんわよ」


 エリザベートは、力任せに振り下ろされる大鉈の持ち手と刃の付け根を狙って、

拳を少し強めに突き上げる。

 すると、大鉈は衝撃に耐えきれず、刃が空中に吹き飛んでしまった。


「そ、そんな……、俺の武器がぁ、そんなぁ!」


 エリザベートは太った男にゆっくりと歩み寄る。


「わたくしから、三つアドバイスをして差し上げますわ」


「やめろぉ! 来るなぁ!」


 男は折れた鉈の持ち手をぶんぶん振り回す。


「まず一つ。 武器を強化する魔法は、攻撃の刹那に一瞬発動。

こうすればもっとスマートに戦えますわ」


「う、うるさい! 来るなってばぁ!」


 太った男の叫び声が反響する。

 だがエリザベートは構わず続けていく。


「二つ目。 足運びを意識した方が良いですわよ。

攻撃より防御、防御より回避ですわ」


「来るな! 来るなぁぁぁぁぁ!!!」


 エリザベートは、適当に振り回している棒を全て紙一重で避け続けている。


「三つめは、…………人の話はしっかり聞くこと!」


 エリザベートは地面を強く蹴り、巨体の顎に膝を当てる。

 そして、肩を足場にして、さらに飛び上がる。

 頭の上で一回転して遠心力を付けたかかと落としが、バランスを崩した男の脳天に直撃する。

 背中を伸ばした美しい形で見事に着地し、男は大きな音を立てて崩れ落ちる。


「……以上ですわ!

オーッホッホッホッホッホ!」


 エリザベートは扇子を拾い上げると、近くの鉄パイプを拾い上げ、傘に変化させる。

 そして扇子に刺さったナイフを引き抜くと、路地裏の出口へ歩き出した。








「今……、なんて言ったのぉ?」


 ネストはわずかに首をかしげながら笑っている。


「あんたと交渉したいことがある」


 俺は手帳から数ページを切り取って、まとめて折りたたんでからネストの足元へ投げた。


「読んでもらえば解る」


 ネストは隙を見せないように素早く拾い上げると、内容に目を通す。

 するといきなり声を上げて笑い出した。


「うふふっ、あははははははは。

いい知らせねぇ、本当にいいわぁ」


 笑いながら紙を谷間にしまい込むと、ネストは武器をしまって背を向ける。


「50万でいいのね?」


「ああ、頼む」


 それだけ確認すると、瞬く間に姿を消してしまった。

 遠くに一瞬屋根を走る姿が見えたが、すぐに見えなくなった。


「これは賭けだ。 鬼が出るか蛇が出るか。

正直どっちも勘弁願いたいもんだがな」


 そう言いながら俺は、この世界で一番貴重な銘柄のタバコを一本浪費した。








「逃がしたって……、何をやっているんですの!?」


 エリザベートの声が耳に響く。


「悪かった、結構善戦したんだけどな」


 わざと逃がしたなんて知られたら、ボコボコにされそうな勢いだ。


「あの女を逃がすことがどれほどの事か……、んもう!」


 キレすぎて変なテンションになりつつあるエリザベートに頭を下げていると、テンダーがいいタイミングで新しい馬車を調達してきた。


「馬車を持ってきまし……、あれ?」


 テンダーはエリザベートの様子がおかしいことに気が付き、言葉を途切らせる。


「聞いてくださいなテンダー。

この男がネストを逃がしたんですのよ!?

間違いなくお父様に怒られますわ……」


 国外会合の前にこの状況を作ってしまったら、確かにエリザベートの立場を考えるとかなり気まずい空気になるかも。

 そう思うと、ふつふつと心の奥底から罪悪感が湧きあがってきた。


「……大丈夫だ、エリザベートは責任を負わなくていい。

俺が責任を取る!」


「責任て、……具体的にどうしますの?」


「ひとまずは、お前のお父さんと話をさせてくれ。

そこで上手いこと言ってやるさ」


 エリザベートは少し悩んだ末に軽く頷いた。


「わかりましたわ。

でも今は大事な時期ですの。

何か粗相をしたらそれなりの罰は受けますわよ?

それでも構いませんの?」


 俺に迷いはなかった。


「ああ、絶対に言いくるめてやるさ」


 王国最強の騎士。

 その男を言いくるめれば、そのまま国外会合にもついて行けるかもしれない。

 シランの事を解決した後も修羅の道は確定してる。

 出来ることなら今のうちに動いておいた方が良いだろう。


「とりあえずネストの方は、王国騎士に通達して、

最重要警戒網を敷いた方が良いですかね?」


「ええ、そっちはテンダーとセルバに任せますわ」


 一同を乗せた馬車は屋敷へと向かう。

 木のきしむ音を響かせながら、大通りを進んでいった。


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