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ふりだし廻りの転生者  作者: チリ—ンウッド
第二章 盤上の裏側
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28マス目 青き追跡者


「奴隷って、どういうことだよそりゃ……」


 あまりにも突拍子もない話で、頭が付いて行けていない。

 普通子供がこんなことを言っても、信じる人間は少ないだろう。

 だが、シランの扱いの異常さ。

 お化けという言葉。

 不可解な点が多い今、信じられないという理由で情報を蔑ろにはできない。


「……わかった。 その話信じよう」


「……ほんとに?」


 フラウトは涙をふきながら、少し驚いた表情で目を向ける。

 多分信じてくれないと思ってたのだろう。


「とにかく、順を追って話してくれ。

シランが奴隷になるっていうのは、誰かから聞いたのか?」


「うん、シランのお父さんが、貴族の人と話してるのを聞いたんだ」


「……話の内容を覚えてるか?」


「小さい声だったし、シランを奴隷にって聞いたら、

怖くなってすぐに逃げ出しちゃったんだ」


 フラウトは悔しそうに歯を噛み締める。

 そんな少年に、俺は優しく言葉をかける。


「そんな会話を聞いたら誰だって怖くなるもんさ。

むしろよくその事を話してくれた、ありがとう」


 フラウトは俯いたまま顔を上げようとはしなかった。

 俯いた状態で「うん」と言った声が、また少し涙声だ。


「でだ、その話をいつ頃聞いたんだ?」


「……一昨日くらい」


 思ったより時間は経っている。

 しかし現状シランに危害を加えられた様子はない。

 被害らしい被害といえば、学校でのいじめ問題。


「シランは学校でおばけって言われてたな。

それも奴隷と関係があったりするのか?」


 フラウトは大きく首を横に振る。


「僕もシランがあんなことになってるのを知らなかったんだ。

少し前から学校で、そう呼ばれてたみたい。

僕とシランはクラスが違うから、いつから呼ばれてたのかもわからくて。

でもね、僕が奴隷の話を聞く前から、おばけの話は言われてたみたいなんだ」


 聞いた限りだと、シランへのいじめと奴隷は関係ないのだろうか?

 だとしたら一旦切り離してみるべきか。

 ならば問題は、物騒な話をしていたというその父親。


「シランの父親か……」


 子供を奴隷に、そんな言葉が出てくる時点で、間違いなく善人ではない。

 いざとなれば、拳銃の使いどころが出てくる可能性もある。


「シランのお父さんの事、少しだけ知ってるよ」


 俯いていたフラウトが思い出すように呟いく。


「教えてくれ、どんな奴だ?」


「シランのお父さんは、この国の衛兵なんだ。

しかもすごく偉い人」


 俺は驚くでもなく納得した。

 フラウトが衛兵を頼らず、見ず知らずの俺に頼ったのはそういう事か。


「すごく怖い人なんだよ。 

この前シランが怒鳴られて、

無理やりどこかに連れていかれるところを見て……」


「それってどこに?」


「わかんない。

すぐに馬車に乗せられて……。

でも次の日の学校には来てたよ、僕心配でクラスに行ったから」


「連れてかれたのはいつだ?」


「えっと、二週間くらい前」


 つまり二週間前にはシランは学校へ来てた、だからきっとおばけの噂が広がる前だ。

 時系列で考えれば、連行されたあと、おばけの噂が広まり、奴隷の話ってところか。

 いろいろ繋がってきた。


「これは予想でしかないけど、連れ去られた時に何かあったのかもな。

二週間前なら、いろいろ聞き込みができると思う」


 まさかこんなところで刑事の真似事なんてな。

 でもここまで関わっておいて、今更逃げ出す気は毛頭ない。


「この話は俺以外に誰かにしたか?

例えばエリザベートとか」


「言おうとは思ったんだ。

でも最近、近くの村で油田が見つかったって騒ぎになってるんだよ。

そのせいでお父さんにも会えなくて。

エリザ姉ちゃんに話しても、多分忙しくて何もできない」


 油田の話、昨日助けた女の人から聞いたな。

 国家間で莫大な資金のやりとりも発生するだろうし、場合によっちゃ戦争も警戒しなきゃならない。

 エリザベートは裏方といってはいたが、裏方だからこそ今回の話じゃ忙しそうだ。


「そっか、ほかに頼れる大人は……、いやいないな」


 敵は衛兵じゃ、通報は無意味。

 この子の親は手が離せない。

 確かにこの子、フラウトにとっちゃ八方塞がりもいいところ。


「だから、もう頼れるのはおじさんしかいないんだよ!」


 何とかしたいのはもちろんだ。

 だが今回は敵の情報どころか、個人なのか組織なのかも不透明。

 ネストの時はエリザベートとテンダーがいたし、敵の人数や場所が分かっていたから何とかなった。

 でも今回味方は、小学生のちびっこ一人。

 ハードルの高さで目が滲んでくる。


「とにかく、話はもう分かったでしょ?

さあ、行くよ!」


「え? 行くってどこに?」


「言ったでしょ。

シランのお父さんは路地裏で話してたって。

その相手の貴族のところにだよ」








 そこから馬車で30分。

 場所は街の北西。

 貴族の家が立ち並ぶ、高級住宅街。

 人通りは少ないが、ほかの場所と違って随分と小奇麗だ。

 石畳の道は他よりも金をかけているのか、凹凸が少ない道となっている。


「あそこの家だよ、相手の貴族の屋敷は」


 表札には、ヴァーデと書かれている。

 見た目はフランスのお屋敷なのに、表札には日本語。

 このギャップにはまだ慣れそうもない。


「でも何でここだってわかったんだ?」


「ヴァーデ公爵は、すっごい髭をしてるんだ。

フード被ってたけど、一発で分かっちゃったよ」


 公爵のすっごい髭と聞くと、宴会用の髭メガネが頭に浮かぶ。

 あんな感じの顔をしているなら、確かに一発で正体がわかる。


「でも来たところでどうするんだ?」


「ヴァーデ公爵が出てきたところを、やっつけてやるんだ!」


 フラウトは自信満々の表情で宣言する。

 その自信がどこから来るのか、皆目見当もつかない。


「貴族には護衛とかがいるだろ?

そいつらはどうするんだ?」


 俺の言葉に対して、フラウトは何を言ってるの?と言いたげな顔でこちらを見る。


「おじさんがやっつけてくれるんじゃないの?」


「いや……、俺は」


「おじさん強いんじゃないの?

背も大きいし、エリザ姉ちゃんとも知り合いだし」


 完全に誤解されている。

 早くこの誤解を解かないと、この子は貴族の館に突っ込んで行きそうだぞ。


「えっと、俺は確かにエリザベートと知り合いだ。

でもそんなに強くないぞ?」


「大丈夫だよ! 

少し足止めしてくれれば僕がドカンとやっちゃうからさ。

多分貴族のおじさんだけなら、僕でもなんとかできると思うし」


 多分その少しの間に、俺はひき肉にされる。


「いいか? お前は無計画すぎる。

相手は権力も戦力もあるんだ。

もっとじっくり考えて、それから……」


「そんなに待てないよ!

シランはどうするんだ!!」


 感情を抑えきれなかったのか、フラウトは声を張り上げる。

 だが敵地で騒ぐのは非常にまずい。

 もし誰かに聞かれていたら……。

 そんな俺の予想は、最悪の形で的中する。


「今、シランと言ったか?」


 突然一人の男が、声をかけてくる。

 身長は俺とそう変わらないが、盛り上がる筋肉は服の上からでもわかった。

 全体的に青い服装で、その服はどこかチャイナ服をイメージさせる。

 男の目は、俺たちを食い殺すかのような敵意を放っていた。


「……違いますよ。 本の話をしてたんです。

そしたらこの子が、そんな本は”知らん”って言ったんですよ」


 あまりに陳腐な嘘だ。

 こんな嘘で黙せる相手なら助かるが。


「ほう、こんな場所で、それも小声で話していたのか?」


 青い服の男の表情は変わらない。

 このまま見逃してもらうのは難しそうだ。

 俺が打開策に頭を回していると、フラウトが声を上げる。


「おい! お前はヴァーデ公爵の仲間か!?

何でシランを奴隷にしようと…んむぐぅ!」


 俺は慌ててフラウトの口を塞ぐ。

 だが、もう遅い。


「……そうか、全部知っているようだな」


 青い服の男は後ろ手に組んでいた手を解き、ゆっくりと拳を握る。

 情報が洩れてると知った悪人が、容赦してくれるはずがない。


「っ!? 逃げるぞ!!」


 俺はフラウトの手を強く引く。

 子供の足で逃げ切れる相手とは思えない。

 俺はポケットに入れていた携帯灰皿を取り出す。


「これでもかぶってろ!」


 灰皿の中身を、男に向けてぶちまける。


「っぐぅ! 何だこれは!?」


 上手い具合に、灰が目に入ったようだ。

 これで時間が稼げる。


「走るぞ!!」


「う、うん!」


 俺たちはあの男を巻くため、できるだけ曲がり角を多用しながら走った。


「おじさん! あそこの森に逃げ込もう!」


 俺は一瞬迷う。

 確かに森に隠れてしまえば、逃げ切れる可能性が高い。

 だが逆に見つかれば、こんな秘密裏に殺せる場所もない。

 袋の鼠になるくらいなら、多少無茶でも逃げ切れる方法を取る!


「ここに飛び込むぞ!」


「ええ!?」


 俺が示したのは川だ。

 その少し先は地下へ続く水路になっている。

 川の水は濁っているので、深さもわからない。

 

「おじさん、あれがどこに続いてるのか知ってるの!?」


「知るわけねぇだろ!」


「えぇ!?」


 しかし迷っている時間はもう無い。

 まるで体を引っ張られるような、いやな重圧。

 俺には明らかに危険な気配が近づいているのが分かった。


「飛べ!!」


「うわぁぁぁ!!」


 飛び込んだ川は、思ったよりも深い。

 底に足がつかない状況で着衣泳は、結構やばいかもしれない。

 まして子供がいるのだ。

 俺はフラウトの肩を掴み、しっかりと引き寄せた。


「フラウト、大丈夫か!?」


「うっぷぅ、なん…とか……」


 あの男はもう近くにいるはずだ。

 キツイがなんとか身を隠さないと。


「フラウト、潜れるか?」


「がっ、頑張ってみる」


「よし! せーの!」


 酸素を取り込んで大きく沈み込む。

 その直後だった。

 川を覗き込む、狩人の視線。

 獲物を探すその目に見つかれば、間違いなく殺されていただろう。

 だが川の濁りと俺の黒い服が幸いして、

 青い服の男は、二人を見つけられなかった。








 ある住宅街の一角で、カタカタとマンホールが鳴る。

 肩で息をしながら、命からがら這いずり出てきた俺とフラウト。

 眩しい陽の光が冷えた体を微力ながら温めてくれる。


「ふぅ、この世界にもマンホールがあってよかったよ」


「もう……全身びっちょびちょだよ」


「服も体も乾かせばいい。

俺にとっちゃ、こっちのほうが問題だ」


 俺が見つめるのは、悲しい姿になった鞄。

 中身のほとんどがダメになったことだろう。


「せめて武器だけは生きててくれないかな?」


 銃を引っ張り出し、弾丸を確認する。


「弾丸って濡れても撃てるっけ……。

ちくしょう、日本人に銃の知識なんてあるわけねぇだろ」


 不安にかられながらも、丁寧に弾丸を込め直す。

 知識のない俺には、これが発射される事を祈るだけだ。

 ため息をこぼした俺は、望みを託すように恐る恐るジッポライターのホイールを回す。

 すると火花が散り、数回試すと美しい炎を灯した。


「よかったぁ……、ライターさえあれば、少しは何とかなる」


「ねぇ、おじさん、せめて乾かさない?」


「そうだな」


 俺たちは日光を遮らない開けた場所に移動し、花壇の淵へと腰掛ける。


「あんな人がいるなんてね。

どうする、やっぱり誰かに助けてもらう?」


「助けって、誰に?

エリザベートの屋敷にでも行くか?」


「もうエリザ姉ちゃんは屋敷から出ちゃってるよ。

そのあとは屋敷にも戻らないで国を出発して、何日も帰ってこないよ」


 まずいな、状況がどんどん悪くなってる。

 これだけ味方がいないとなると、フラウトも戦力に数えてみるか?

 よく考えれば、この子はエリザベートの弟だ。

 もしかしたら、この見た目でなかなか戦えるかもしれない。


「なあ、フラウト。

お前ってどんな魔法が使えるんだ?」


「いきなりどうしたの?」


「いいから教えてくれ、必要な事なんだ」  


 フラウトは不機嫌そうな顔で「仕方ないなぁ」と言いながら呪文を唱える。

 そうしてしゃがみこむと、地面に指で円を描いた。


「……なんだそれ?」


「いいから離れて。 危ないよ」


「……危ない?」


 とりあえず言われたとおりに離れてみる。

 すると数秒後、ボンッという派手な音と共に地面が抉れて、砂埃が舞い散った。


「ゲッホゲホ! ど、どう? これが僕の魔法”マーキングボム”だよ!

本当は印爆魔法って名前だけど、この方がカッコよくない?」


 カッコよくない? と聞かれても困る。

 確かにすごいのかもしれない。

 だが単純に使いづらそうだと思う。


「おいごらぁ! 家の前で何やってんだぁ!!!」


 近くの家の人が頭にを上らせ、フライパン片手に飛び出してきた。

 よく見ると今の衝撃で、花壇の花が砂まみれ。


「逃げるよおじさん!!」


「おう!」


 俺たちは謝罪の言葉を述べつつ、全速力でその場を後にした。








「はぁ、はぁ、ここまで来れば、大丈夫だよ思うよ」


「ならいいんだが……、

なんか今日は逃げ回ってばっかだな」


「あ、おじさんあれ見てよ」


 フラウトの指さす方へ視線を向けると、

 一休みできそうな休憩所がある。

 いくつかのベンチに、自動販売機もある。


「休んでいくか?」


「もちろん!」








 俺は自動販売機っぽい物の前で立ち尽くしている。


「おじさん買わないの?」


「いや、喉は乾いてるけど、……何これ?」


「魔力缶でしょ? よく売ってるじゃん」


 まったく知らない。

 というか、前に病院で見た一回限りだぞ。

 全然よく売ってるという感じがしない。


「これ飲んだら魔力が回復するとか?」


「そりゃ多少はね? 

まあ、エリザ姉ちゃんとか魔力が多い人が飲んでも、

ほとんど回復しないだろうけど」


 つまり気休め程度ってことか。

 ちょっとした回復なら、本当にただの飲料ってことだな。

 こっちの世界のエナジードリンクみたいなもんだろう。


「……これって美味いの?」


「僕は普段あんまり飲まないしなぁ。

魔力を使い切った時なら、美味しく感じると思うけど」


 フラウトは興味なさそうに言いながら、近くの水道で水を飲んでいる。

 ということは、魔力が無い俺が飲んでも絶対に不味いだろう。

 飲むのはやめとこ。


「しばらくしたら移動するぞ。

あんまり一か所にとどまってると、危ないからな」


「わかった、でもどこか行く当てはあるの?」


 そう言われてみれば、今のところ目的地も何も決まっていない。


「うーん、ヒゲ爺の家は公爵の家から少し近いしなぁ。

どうしたもんか……」


「ねぇ、行く場所が決まってないなら、

先にシランのところに行かない?」


 それはもちろん俺も考えていた。

 だが、シランは朝に部屋を飛び出してしまったので、居場所が分からないのだ。


「シランは家にはいないと思うぞ」


「知ってるよ、この時間なら多分あそこだと思う」


 フラウトの言葉に俺は驚く。


「……お前、シランの居場所知ってるのか?」


「シランなら向こうの広場にいると思うよ。

いっつもあそこで、ぼーっとしてるし」


 フラウトが指差す方角に広場と聞き、俺は思い出した。

 そうだ、この方向は俺とシランが初めて会った広場じゃないか。


「ちょうどいいや、こうなったらシランにも直接話しを聞きたいし。

守るにしたって近くに居てもらうほうが都合がいい」


 早速歩き出した俺の横に、早歩きで並んでくるフラウト。

 ふと見たその顔は力強く、そして再確認するように俺と目を合わせる。


「絶対にシランを助けるよ、おじさん!」


「おう、任せておけ!」


 フラウトが伸ばす小さな手に、俺は優しく、でも力強くハイタッチをした。


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