27マス目 少女の危機
「ふふふっ、よくぞ来てくれました!
この僕、フラウト・ベヨネッタの隠れ家へ!」
ベヨネッタ、その名には聞き覚えしかない。
「もしかしてお前って……?」
年齢から考えるに、この子エリザベートの弟か!?
あ~、確かによく見ると、口元と眉毛がそっくりだ。
「そうだよ! 僕はベヨネッタ家の長男、フラウト・ベヨネッタ!
あのルガニス・ベヨネッタの実の息子だよ!」
「……ルガニスって、誰だそれ?」
俺の素朴な疑問に、少年は驚愕を表情に浮かばせる。
「ちょ、待って待ってよっ、嘘でしょ!?
お父さんのことを知らないって……なんで!!?」
なんでと叫ばれても。
エリザベートの父親の話なんて、由緒正しき騎士ってことしか聞き及んでないんだ。
この国に来てまだ数日の身に、無知を問い詰めないで欲しい。
「えっと、エリザベートは知ってるんだけどな」
エリザベートの弟さんは大きくため息をついて、呆れたと言いたげな表情で話しだした。
「いい? おじさん。
ルガニス・ベヨネッタっていうのは、
このパロット王国で、今一番強い最強の騎士なんだ。
地位だって、王様の右腕と称された王国騎士隊隊長なんだぞ!」
とどのつまりは懐刀ってやつか。
立ち位置的には警視総監やら大臣みたいなものだろうか?
そんな人がいる割には、国の治安は悪いけどな。
「も、もしかして信じてない?
僕がベヨネッタの血を引いてることを、全然信じてないの!?」
むしろ納得した。
態度のデカさがエリザベートにそっくりだ。
「いや信じるよ。
あいつにそっくりだからな」
「あいつ?」
「君のお姉さんだよ、エリザベート・ベヨネッタ。
俺は、そのお姉さんと知り合いなんだ」
その瞬間、フラウトの顔が青ざめた。
身体がガクガクと震えだす。
「どうした!?」
「お、おじさん、エリザ姉ちゃんの友達なの!?」
「まぁ、それなりに。
一緒に戦ったり、家に呼ばれたりしたから、顔は通るレベルだと思うぞ。
出会って日は浅いけどな」
フラウトの顔がますます青ざめる。
……もしかしてエリザベートが怖いのか?
そう思っていると、フラウトが突然謝りだした。
「うわぁぁあああ!!! ごめんなさいぃぃぃいいいいい!!!」
「ええ!? 何だ急に!?」
「もうだめだぁぁぁ!!! 姉ちゃんにばれちゃうううぅうぅうーーー!!
秘密基地作って学校サボってることが、全部ばれちゃうんだ!!!
もうおしまいだぁぁぁぁあああああああぁぁぁぁあああ!!!!!」
泣き声がうるさくて耳が痛い。
確かにエリザベートは怒ったら怖そうだが、絶叫するほど泣かなくても……。
「姉ちゃんに言いつけるのは許してください!
お父さんに言いつけるのも許してください!!
テンダーさんに言いつけるのも許してください!!
リックさんに言いつけるのも許してください!!
セルバさんに言いつけるのも許してください!!
えーっと、あと……、あと~~……」
要求が多い。
どんだけ怒られたくないんだ。
そして一つだけ聞きたい。
「別にテンダーだけは怖くないだろ」
「弱み握られて、イタズラの手伝いさせられるもん」
俺は思わずため息が出てしまった。
あいつは子供に何をやらせてるんだよ?
やっぱり風呂場で殴っとくべきだったかもしれない。
その後フラウトは5分ほど騒ぎ、やっと落ち着いてきた。
「大丈夫だ、絶対言わないから!」
「本当に? 嘘じゃない?」
「ああ、男と男の約束だ!」
「でも大人は嘘ばっかりつくじゃん」
ぐうの音も出ない。
この世界に来てから、何十回嘘をついたものか……。
「……じゃあ、もし約束を破ったら、これをやる」
彼は鞄の中から筆記用具を取り出し、一本のボールペンを手渡した。
「え、なにこれ? ペン?」
「ああ、世界に一本しかない、超珍しいペンだ」
地球のボールペンだし、嘘はついていない。
それにこのボールペンは、3000円もした結構いい奴だから、多少の信憑性はあるはずだ。
「預かっててくれ。
俺が約束を破ったら、持って行って構わない。
俺を信じられるようになったら、返してくれりゃあいい」
「……わかった。 そこまで言うなら信じる」
色々と話していたが、まだ肝心の本題に触れていない。
何で俺をこんな場所に呼び出したかを。
そして何より、シランのことを教えてもらいたい。
「さて、そろそろ説明してもらっていいか?」
「シランのことでしょ?」
「ああ」
「……おじさんに頼みがある」
そう言うとフラウトは、埃っぽい天井裏の床板に頭をこすりつける。
「シランを助けてるのを、手伝ってほしい!」
頭を下げているのにも関わらず、ある種の威圧感のようなものが感じられた。
その姿からは、さっきの子供らしさが微塵も感じられない。
「いじめからか?」
「それ以上のことだよ!」
……それ以上のこと?
というと虐待?
でもシランの両親は死んでるって……。
あれ? でもそういえば……。
(……親は?)
(いないよ、ママも死んじゃった)
あの時シランは、ママもって口にした……。
普通パパとママって言わないか?
それなのに母親のことだけ言ったということは、父親は生きているのか?
だったらなぜ、シランはあんなボロ宿で暮らしている?
「もしかして、シランの父親が原因か?」
「うん!」
フラウトは勢いよく顔を上げた。
その目からは大粒の涙が零れ落ち充血している。
だが表情は泣いていない。
俺の顔をしっかり捉え、視線が逸れる気配がまるでない。
フラウトは一息吸うと、衝撃の言葉を口にする。
「このままじゃ、シランが奴隷になっちゃうんだ!!」
この瞬間、俺の運命は再び、戦場の渦中へと引きずり込まれてゆくのだった。




