99マス目 街中の激戦区
街はひどい惨状だった。
建物は倒壊し、道路は破壊され、馬車が散乱する。
ここからだと確認できないが、きっと死人も出ていることだろう。
そんな状態の街中で、ネストとロネットは激戦を繰り広げている。
「エリザベート、お前じゃ止められないのか?」
「どちらか一人なら問題ありませんわ。
でもあれに割って入れば、双方の攻撃を受けることになりますわよ。
わたくしの力じゃ、10秒も持ちませんわ」
エリザベートは悔しそうに、手に持った傘を握りしめる。
その時、俺たちに向かって弾丸のような突風が吹きつけた。
戦いの衝撃がここまで届いているのだ。
奴らはお互いに飛び上がり、屋根の上に着地する。
「うふふっ、防戦一方じゃ勝てないわよぉ」
「黙れ! ちょこまかと鬱陶しい」
見たところロネットの方が余裕がないが、
お互いに大きな傷は負っていない。
そう簡単にケリはつかなそうだ。
「今ので怪我をした者は後方へ。
残りは住民の避難をお願いしますわ!」
エリザベートが素早く衛兵に指示を出す。
だが、手が出せない以上どうしても後手後手になる。
大勢で包囲しているのに、流れ弾の防御や周辺住民の避難誘導しかできていない。
このままではさらに被害が増えるだけだ。
「……なあ、エリザベート」
俺は悔しそうに戦いを見上げるエリザベートに提案する。
「あの二人が一瞬動きを止めるなら、
その間にどうにかできるか?」
「……そんなことできますの!?」
「ああ」
俺の頭には、一つだけ策が浮かんでいた。
たった今思い付いた方法だが、まず間違いなく二人いっぺんに隙ができるはず。
でも一瞬、本当に一瞬だけだろう。
「エリザベートは、あの男の方を倒してもらえるか?」
「ネストはどうしますの?」
エリザベートの問いに、俺はニヤリと笑った。
「俺が追っ払う。
倒すのは無理だが、今はそれで充分だろ?」
エリザベートはクスリと笑う。
そして傘を腰に持ち、居合のような格好で屈んだ。
「合図をしたら隙を作っていただきますわよ。
ネストの足止め、期待してますわ」
「任せておけ」
エリザベートにならい、俺も屋根の上の激戦に目を見張る。
だが俺の動体視力じゃほとんど動きを追えない。
斬っているのか蹴っているのか、避けているのか防いでるのか。
ここから見てもまったく分からない。
しかしその瞬間、俺にも見えるくらいの大振りで、二人の一撃が交差する。
凄まじい衝撃音が鳴り、ネストとロネットはお互いに少し飛ばされ、
10数メートルの距離が開く。
「今!」
エリザベートが合図を出した。
俺は奴らにしっかり聞こえるように、腹の底から声を絞り上げる。
「ヴァーデが死んだぞ!!!」
曲剣を構えたネストが。
拳を硬化して走り出したロネットが。
今この瞬間、……動きを止めた!
「はあああぁぁぁぁぁーーーー!!!」
一瞬の跳躍。
エリザベートは風を切り、剣を抜く。
その刃はロネットの腕に深く食い込んだ。
「邪魔……だ!」
振り払おうとするロネット。
エリザベートは吹き飛ばされる前に細剣から手を放し、
上手く身を捻って衝撃を逃がす。
「街中での魔法乱用、暴動、破壊行為。
言い訳は聞きませんわよ、拘束しますわ」
エリザベートは無事にロネットを足止めした。
あとは俺がネストを追っ払えば……。
「……うっ!?」
突然うなじに走る鋭い痛み。
今俺は確かにネストを目指して走っていたはずなのに、いつの間にかその姿は消えている。
……つまりこの痛みは。
「説明してもらうわよぉ」
いつもより少し低めの声色で話すネスト。
多分、曲剣の切っ先を突きつけられているのだろう。
俺はすぐに両手を頭より高く上げて降参の意を示す。
とにかく殺される前に誤解を解く。
「悪いな、ヴァーデはまだ生きてる」
「嘘をついたのぉ?」
ネストの声色は低いまま。
このままだと、いつ喉元を剣が突き破ってもおかしくない。
俺は即席で考えた言い訳を、辻褄が合うように話しながら頭の中で整理する。
「あのまま戦われちゃ困るんだよ。
ヴァーデが国に捕まって尋問を受ければ、俺の事も喋るかもしれない。
そうなったら俺は公開処刑さ。
戦いを楽しむのも結構だが、ここで騒ぎ過ぎるとあんたもまずいんじゃないか?」
言い終った頃には、ネストは刃を引いていた。
……いや、それどころか気配も無いような。
俺は恐る恐る振り向いてみた。
「……いない」
いつの間にか、ネストは姿を消していた。
上手く追い払えたのだろうか?
ともかく、現状はこれで良しとしよう。
あとはエリザベートだ。
「負けないとは思うが……、頑張れよ」
俺の視界の先に見える、エリザベートとロネットの戦い。
ここから先、もう俺には見守ることしか出来ない。




