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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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6話「鏡と涙」

「《種》・・・ですか?」


アンドルフ先生の話ではわたしの中に『種』があり、それが魔力マナを吸い込んでいるらしい。

でもそれと私の異常とどんな関係があるんだろう?


「まあ簡単に言うと、その《種》が自分を維持するための栄養。つまり魔力マナじゃな。それを嬢ちゃんの身体から吸い取っておる。急激に痩せたのもそれが原因じゃ。旺盛な食欲もな。」

「じゃあ、このまま放置してたらわたし干からびて死んじゃうとか・・・」

「いや、それはないのぅ。」


アンドルフ先生は一旦話を区切り、サンディさんが淹れて来てくれたお茶を啜り話を続けた。


「酷い空腹感は出てくると思うが、嬢ちゃんが死ぬほど魔力マナを吸い上げるということはなさそうじゃ。」

「なぜですか?」

「今嬢ちゃんが生きてるのが何よりの証じゃ。さっきサーチをしたときに儂から吸っていったマナの量からすると、とっくに干からびててもおかしくないペースじゃて。」

「そんなに吸われたんですか?」

「うむ。あの短時間で儂のマナを半分持っていきよった。」

「えっそんなに吸われて大丈夫なんですか?」


言われてみれば、さっきわたしにサーチをしていた先生はかなり辛そうだった。

マナを吸われると言うのがあれほどの苦痛だったら、わたしはどうなってしまうんだろう。


「おそらくじゃが、《種》は宿主の生命維持の核にもなっておる。共棲関係というやつじゃな。《種》は嬢ちゃんからマナという糧を得て、また『種』からもなにかしら恩恵をうけているはずじゃ。」

「《種》からの恩恵・・・」


なんだろう?思い当たることがない・・・せいぜいいつもより食べ物が美味しい・・・あ。


「――味覚の・・・変化?」

「ふむ?」

「なんか、いつもより食べ物が美味しく感じるというか・・・気のせいかもしれないですけど。ここの食べ物美味しいですし。」

「それじゃな。魔力マナの補給は通常食事から取られるからの。そういう恩恵もあるんじゃろ。まあ、他にも何かしらあるかもしれんが。」


すると、アンドルフ先生はサンディさんを手招きした。


「ここから先の話は、シェルにも聞いてもらった方がいいかもしれん。呼んできてくれんか?」

「はい~。わかりました~。」


サンディさんは、シェルさんを呼びに別室に向かった。

程なくして部屋に入ってきたシェルさんに、アンドルフ先生は診察結果を告げて話を続けた。


「シェル、なるべく早いうちに王都へ嬢ちゃんを連れて行った方が良いかもしれん。」

「王都リディアですか・・・。」

「うむ。儂が王都におった若い頃、王立図書館である噂を聞いたことがあるのじゃ。」

「噂ですか?」

「そう、リディア王立図書館の禁書庫には《精霊の種》の記述がある本があると、な。」


その話を聞いたシェルさんが眉をぴくっと一瞬動かした。


「《精霊の種》・・・。」

「たしかお主にも関係がある話じゃったよな?」

「シェルさんと?」


シェルさんは目を見開いてわたしを見つめていた。


「嬢ちゃん、思い出してほしいんじゃが。」

「はい。」

「嬢ちゃんは別の世界から来たと聞いたが、こちらへ来るときに何かおかしなことはなかったか?」

「えっと・・・」


思い出す・・・あの時・・・夕焼け・・・トラック・・・ブレーキ音・・・そして。


「女の子・・・」

「んむ?」

「長い黒髪で黒いワンピースを着ていて青い目をしてる綺麗な女の子に会いました。」


シェルさんがわなわなと震えだした。

アンドルフ先生は問いかけを続ける。


「それで、その子になにか言われたり渡されたりせんかったかの?」

「たしか・・・その子に触れかけた時に『あなたに、種を』って声が聞こえました。」


突如、


バン!


扉を勢いよく開けてシェルさんが外へ駆け出していった。

走り去る前のシェルさんは怖い顔で、



泣いていました。








~夜更け~


わたしはランプの明かりの中で、サンディさんに借りた鏡に自分を映して見ていた。


「ほんと・・・自分じゃないみたい・・・」


着ていたセーラー服もなんかぶかぶかで、自分がどのぐらい太っていたか思い知らされている感じだ。


「お父さんとお母さん、心配してるかな・・・」


家に帰るといつも笑顔で夕飯を作ってくれていた、優しいお母さん。

仕事が終わって帰ってくると、いつも私に気遣いの言葉をかけてくれたお父さん。


「もう・・・会えないのかな・・・美香子にも・・・カズマ君にも・・・みんなにも・・・」


涙がでてくる。


「明子先生にも・・・隣の遠藤さんも・・・ジョイフルの店員さんも・・・」


そこまで呟いてわたしは涙をぬぐった。

泣いちゃだめだ。

きっと帰れる。

シェルさんやサンディさんやレインさんやアンドルフ先生。

頼れそうな人ばかりだ。


そんなことを考えながらぼーっとしていると。


コンコンッ。


ドアをノックする音がした。


「どなたですか?」


わたしはもう一度涙を拭い、ドアへ向かった。


「シェルだ。」

「シェルさん?」


ドアを開けると、闇の中にシェルさんが立っていた。


「さっきは済まんな。少し取り乱した。」

「いえ・・・なにか事情があるんでしょうし。」

「そう言ってくれると助かる。」


シェルさんは部屋の中に入って椅子に座り私の方を見た。少し目が腫れている感じだ。

そして長い沈黙。少し声をかけづらい・・・・


「あっ、そういえば。わたしこの部屋をこのまま使ってていいんですか?」

「ああ、問題ない。俺は別の部屋を取った。」


そしてまた沈黙。するとシェルさんのほうから切り出してきた。


「昔な・・・」

「はい。」

「俺が護るといって護り切れなかった子がいたんだ。」


とつとつとシェルさんは語り出した。


「そして彼女ははこの腕に・・・」


シェルは春に向けて右腕を見せ、言葉を続けた。


「自らを、封じたんだ。」




次回はシェルの過去の話。

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