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種と不死者と少女の物語  作者: 狸森
1章 神種の運び手
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41話「春と初めての戦い その5」

春の右目で、闇夜に蒼く光る識者の瞳《識眼》。

注視した対象の、状態、特性、効果、果ては魔力マナオドの流れまでを知る事が出来る『魔眼』の一種だ。

少し前にじゃが君がリングホールでこの識眼を使い、倒れた人々の体内が《瘴気毒ヴェノム》が侵されている事を看破している。


春はこれを、現状を打破する為に使えないかと考えた。




『――あと、さっきミアさんが蜘蛛の目を通して見てるって言ってたけど、それってわたしにも出来るの?』

『ぼくとポテ限定ですが、出来ると思います。』

『じゃあ、じゃが君が時々使ってる《識眼》って言うのも、私の目を通せたりする?』

『出来ます。本来は《第三契約》まで済ませないと出来ない事なのですが、マスターは既にその条件を満たしています。』

『えっ!いつやったっけ!?』

『リエラ様は最初、仮契約だと思われていたようですが、ジョガー芋に乗り移っていたぼくらに名付けをした時点で、《第二契約》は済んでいたんです。その後、契約の儀式をした際にマスターが詠唱をした魔句スペルで、《第五契約》まで進んじゃってます。』

『へ・・・?わたし、そんな事しちゃってたの?・・・』


いつものごとく、自覚のない大それた事をしてしまっていた春は、少々頭痛を感じて頭を抱える。


『はい。マスターは良く知らないようですから順序立てて説明しますね。まず《第一契約》が名付けネーミングによる、精霊と術者の魔力経路マナラインの開通です。大多数の精霊使いはここで止まっているようですね。《第二契約》が精霊に仮初の器を与える受肉術インカナティオ。本契約とも呼ばれていますね。先程のあの方の様に、普段は体を持たせずに必要な時にだけ触媒を使って器を与える精霊使いも居ると聞きました。』


じゃが君は、指を一つ一つ立てながら春に説明をしていく。


『そして《第三契約》が共有術リンク。精霊と感覚共有を出来る様になります。また、精霊が持っている固有の能力も限定的にですが使えるようになります。マスターとぼくの例で言うと、マスターが識眼を使っている間、ぼくはマスターに常に触れている必要があります。』

『なるほど。』

『《第四契約》が眷属術ファミリア。これは先程マスターが使った《新緑の障壁》がこれに当たります。呼び出している精霊と同属性の微精霊や小精霊を扱って、精霊使い単独での精霊魔法行使が出来るようになります。』

『ふむふむ。』

『最後に《第五契約》が結合術ユニオンです。ぼくらとよくやっている、別々の詠唱を組み合わせて大きな効果を生み出すあれです。』

『あぁ・・・アレかぁ・・・』


春は少し考え、今聞いた話を頭の中で整理する。

父や友人の話やアクション映画で観た知識も総動員して、策を練り込んでいく。


『――それじゃ時間もないので、よく聞いてね。』


その結果が、先程の奇抜な攻防であった。




識眼を宿した右目でラミアを注視する。

右目と左目で見え方が全く違ってしまうため、多少酔ったような気分になってくるが、ぐっと堪える。


――右上腕骨と左の肋骨が2本折れちゃってるかな・・・打撲も酷そうだから、結構辛そうだけど・・・あと、なんだろこれ・・


この期に及んでラミアの心配までする春は、識眼で見えた彼女の違和感に眉を潜める。

気遣う必要が無いのは分かっているが、それでも豹変するまで多少なりとも仲良くしていた相手だ。


「忌々しいけど、少し舐め過ぎていたようだわ。」


ラミアは、苦笑しながら立ち上がる。

その背後に倒れている《コクヤ》は、ポテちゃんの攻撃でピクリとも動かない。


「まさか魔眼そのものを共有リンク出来るなんてね。そんな事が出来たのは、聖女・・・――そうか、ハルちゃんは《神種の運び手》。愚問だったわ。」


そう言ってラミアは荒い息を整え、自分の腹に左手を当てた。


「――だけど勘違いしないで頂戴。この程度の攻撃で、私も《コクヤ》も倒せたと思ったら大間違いよ。」

「無理しないで下さい。そんな怪我で何が出来るって言うんですか!」

「あぁ・・・やっぱり優しいのね。――でも大丈夫よ、ハルちゃん。」


そう言うと、腹に当てた左手から黒い靄が吹き出し、ラミアと《コクヤ》を包んだ。


「なっ!」

「――ほらね?もう大丈夫。」


右目の識眼でラミアを見ると、先程まで負っていた打撲や骨折は綺麗に治っている。

一方、ポテちゃんに眉間を貫かれた《コクヤ》も、吹き飛ばされた体組織を再生させながら再び動き出していた。


「くっ!《新緑の加護よ!再び我等に集まれ!》」


春が魔句スペルを唱えると、再び木の葉が舞い始める。

だが、最初に使った時よりもどこか弱弱しい。


「へぇ、精霊魔法の再構成リ・コンストラクトまで出来るんだ。やっぱりハルちゃんは凄いわ。――でも、」


うっとりとそう呟くと、ラミアの姿がスッと掻き消えた瞬間、春の胸に衝撃が走り吹き飛ばされた。


「うあ!」

「はる様!」


吹き飛んだ春を庇おうと、その俊足で走り寄ったゴシンも巻き込み、春とじゃが君とゴシンは壁に叩きつけられる。


「ゲギャ!」

「ぐうっ!」


衝撃でくらくらする頭を振り自分が居た場所を見ると、ラミアの艶めかしい足が蹴った体勢でぴたりと止まっていた。


「――体捌きは素人そのもの。状況判断もまるで駄目。精霊魔法は確かに強いけれど、まだまだ経験不足ね。相手の息の根を止めるまで、間合いに入っちゃ駄目よ?ハルちゃん。」


はっとして右肩を見ると、じゃが君はなんとかしがみついている、

だが、春を庇ったゴシンは壁と春に挟まれ、白目を剥いて伸びていた。


「ゴシンさん!」


慌ててゴシンの上から退いて、肩を揺するが完全に気を失っていた。


「――ハルちゃんの服、異様に防御力が高いわね。付与魔法が掛かっているようだけど、ロレイン辺りかしら。余計な事をしてくれるわ。」


ゴシンを引きずり、一先ず安全そうな物陰へ移す。

とは言え、この女ラミアが本気を出せば周囲に安全な場所など無いのは分かっているのだが、なんとか持っている手札で時間を稼がなければならない。


「ポテちゃん!お願い!」

「やあぁぁぁぁ!」


ポテちゃんは春の声で一気にラミアまで間合いを詰め、その顔面に蹴りを入れようとするが、


「ふん。」


小さく鼻で鳴らすラミア。


岩をも砕くポテちゃんの蹴りが、《コクヤ》の脚で止められる。

一度地面に着地し、再び跳躍と共に連撃を放つが、ことごとく大蜘蛛に先読みされラミアには届かない。


「《コクヤ》」


あるじの声を聞くな否や、《コクヤ》は口から糸を吐いてポテちゃんを糸で絡め取り、そのまま壁に貼り付けた。


「ウオォォォ!」


雄叫びと共にオルグも突進してくるが、ラミアは一瞥することも無く歩き始める。

ラミアまであと一歩という所で、再び吐かれた粘着性の糸を浴びせられ、オルグもまた壁まで飛ばされて貼り付けられる。


「そんな・・・なんで、なんで魔法が効いてないの?!」


自分も含め、仲間全員に《新緑の防壁》を張り直していたはずなのだが、多少攻撃の威力を弱めただけで全て一撃で破られていた。


「だから、状況判断が出来ていないって言ったのよ。最初に張られたハルちゃんの障壁をどうやって破ったと思う?」


その言葉に、じゃが君がハッとして辺りを見渡した。


「マスター!周辺に居た眷属の微精霊が殆ど居ません!」

「え?・・・」


ラミアは、落したままになっていた《無慈悲な刈り手グリムリーパー》を拾い、くるくると回す。

その動作に違和感を感じた春は、識眼を使って黒い大鎌を注視する。



精霊武器ガイスト 無慈悲な刈り手グリムリーパー

『能力 斬った対象の魔力経路マナラインの遮断』


「――魔力経路マナラインの遮断?・・・」

「そうよ。ついでに言うなら、それでハルちゃんと繋がりを断った微精霊は、《コクヤ》に喰わせたの。」


そう言ってせせら嗤うラミアは、大鎌を手にゆっくりと春の元へと歩く。


「ご主人様!」

「はる様!」


糸に絡まったままもがくポテちゃんとオルグだが、粘つく糸は剥がれることは無く、むしろ動くたびに締め付けてくる。


春は《精霊の贈り物エレメンタルギフト』を構え直し、ラミアと対峙する。

だが、狂気の女のどす黒い圧力にじりじりと押され、少しずつ後退る。


――まだ・・・まだ何か手が・・・!


春はフル回転で考えを巡らせるが、何も浮かばない。

涙を浮かべながらも、それでも必死で圧力に抵抗する。


涙目でラミアを睨み付ける春だが、既にその間合いに入ってしまっていた。


「――まだ諦めてないのね。素敵よ、ハルちゃん。でもね、それを往生際が悪いって言うんじゃなかったかしら?」

「諦めたらそこで終わりだって、お父さんが言っていましたから!」


漫画のセリフを真似た父の言葉を思い出し、踏みとどまる春。


「ふぅん・・・もう少しで折れそうなんだけどなぁ。――なら、その肩に乗っている精霊との繋がりを断ったらどうなるかしら?」

「え・・・?」


そう言って、少しずつゆっくりと《無慈悲な刈り手グリムリーパー》を振り上げていくラミア。


「や・・・やめて・・・」


思わず懇願の言葉が口を突いて出てしまう。

春の肩では、じゃが君が主人だけは護ろうと盾を構えている。


「いいわ・・・その顔・・・。あぁ・・・大好きよ、ハルちゃん・・・」

「いやあぁぁぁ!!」


恍惚の表情を浮かべながら、じゃが君に向けて大鎌を振り落した。









ガキィィィン!!!




交差する大鎌と二本の剣。


「何!」


精霊使いの少女と、狂気の女の間に割って入ったのは、


「――間に合った!」


大鎌の刃を、鋼のショートソードと魔法剣《鎧貫きメイルトゥース》を十字に持った少年が受けていた。


「レジィ君!」

「やっぱりハルか!凄い音と激しい光が見えたから来てみたんだ!後は俺達に任せろ!」

「そうね、よく頑張ったわ。ハルちゃん!」


レジィの声に続き、凛とした女性の声が響く。


「くっ!」


突如周辺に赤い閃光と白い斬撃の乱舞が奔る。

春に向けていた大鎌を引いて防御に使い、斬撃の閃光を受け流しながら下がるラミア。

見れば、壁に貼り付けていたオークの男と樹精霊ドリアードは、その斬撃で糸を剥され自由を取り戻していた。


「――《転移斬舞てんいざんぶ》!リエラね!」


春を護る様にレジィが立ち、白い双剣を逆手に交差させて構える赤髪の美鬼――リエラが、さらにそれを護るように立っていた。




次回は、5月10日 日曜日 18時更新予定です。

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