28話「春と初めての精霊魔法」
リングホール正面入り口へ入る階段を駆け上り、ミアの案内で異常のあった患者の元へ急ぐ春達。
部屋の前まで来ると、サンディが水の入ったたらいを手に丁度部屋から出て来た所だった。
「あ!ミアちゃん!ハルちゃんも!?どうだったの?」
「アンドルフ先生は来れないそうですが、ハルさんの精霊が診れると言うので来てもらいました!」
「そうなの?!じゃあ早くこの部屋へ入って!お願い!」
「わっわかりましたっ。」
扉を開けると中は広く、敷物が敷かれた上に呻き声を上げてぐったりしている人達がおよそ50人ほど寝かされていた。
さっそく部屋に入ると、ポテちゃんが鼻をつまんで顔をしかめ手をぱたぱたさせた。
「うわぁ・・・。ここ瘴気臭いぃ~!」
「えっ!そうなの?!」
「マスター、ポテの鼻は瘴気に敏感なんです。何か瘴気を出している元があるはずです!」
じゃが君はそう言うと部屋の中をぐるりと見渡し、春の腕の中からぴょんと飛び降りて患者の元へ走って行った。
「マスター!やはりこの人達の中から瘴気が漏れ出ています!」
「えっ!じゃが君分かるの!?」
「はい!ぼくの目は『識眼』と言って、見た物の魔力の流れや特性とかが分かるんです!恐らくこれは《瘴気毒》です!」
「じゃが~・・・それはいいから瘴気の臭い早くなんとかしてぇ~・・・」
そう言って春の腕の中でぐったりしているポテちゃんにじゃが君が頷き、部屋の中央まで走り背負っていた木の盾を構えた。
「《癒し樹の盾よ!じゃがの名に於いて命ずる!聖なる樹の苗を我が元に呼び、不浄を除く力を注げ!》」
そう叫んでカンッと盾で床を叩くと、そこから小さな芽が出た。
続いて春の内から以前の契約の時のように魔句がするすると湧き、口から紡がれる。
「――!《慈しみ、癒やす者よ。我、種の王の名に於いて、その葉から聖なる雫を注ぎ与えよ!》」
そう言って春は、《精霊の贈り物》の頭をカンッと床に打つ。
それに呼応するようにその芽は瞬く間にするすると伸びていき、天井に当たるとそこから横へ枝葉を伸ばしていく。
部屋一杯に広がった枝葉からはきらきらと輝く雫が零れ落ち、何事かと目を見張る人々の頭上へと降り注いだ。
するとどうだろう。
雫を浴びた患者の口の中から黒い靄が噴き出て霧散していき、今まで苦しんでいた人々の顔色がどんどん良くなっていった。
魔句を唱え終わり目を開けて、部屋の変わり様にぽかーんと口を開けていた春だが、はっと我に返る。
「あの、ええと、これで大丈夫だと思います。あと念のため、他の部屋に居る人達も一度この部屋へ来てもらったほうがいいと思います。」
それを聞いた一同は、ふーっと安堵の溜息を突く。
春の横ではミアが、溜息と共に膝を突いている。
「はー、よかったぁ・・・」
「ミアさん大丈夫ですか?なんか顔色が悪いですけど・・・」
「うん、大丈夫。安心したら力が抜けちゃった。」
そう言って春に笑顔を向けるが、その表情には疲れが見えた。
「あとはわたし達が見てますので、少し休まれたらどうですか?」
「うん、ごめんね。そうさせてもらいます。」
そう言って部屋から出て行った。
「マスター。」
いつの間にか春の横に来ていたじゃが君が声をかけてきた。
「あの方、少し注意した方がいいかもしれないです。」
「え?どうして?」
「んー、何と言ったらいいか。《瘴気毒》は取り除いたのですが、あの方の中にはまだしこりが残っている感じなんです。」
「しこり?」
春はじゃが君の言葉に首を傾げる。
「もしかしたら、他に病気の様な物を持っているのか、あるいは――」
「ハルちゃ~ん!」
じゃが君の言葉を遮り、樹精霊達ごと春にがばっと抱き付いてくるサンディ。
目を白黒させていると一瞬離れ、今度は頭に頬っぺたをぐりぐりとさせてきた。
「ふぁぁぁ!」
「ハルちゃんもこの子達もすごーい!びっくりしちゃった!」
そう言ってぐりぐりされ続けるハル達の周りに、先程まで呻いていた患者達が集まってくる。
「本当にありがとう!苦しくて死ぬかと思った!」
「ああ!こんな凄い魔法始めて見たよ!」
「さすがは噂の《食欲の魔女》だな!」
「いや違うだろ!《ミーフまんじゅう500個の娘》だよ!」
「俺はあの大食い勝負の時からファンだったもんね!」
後半は褒められてるのか良く解らなかったが、それでも次々と感謝を述べてくる人達に自然と頬が緩んでくる。
そして、それと一緒に涙も溢れてきた。
「あれ?・・・あれあれ?」
目をこすって涙を止めようとするが、止まらない。
「あれれ?・・・なんでだろ・・・?悲しい訳じゃないのに・・・」
そう言って目をこすり続ける春に、周囲の人達はほっこりと微笑みを浮かべる。
「ハルちゃんそれはね、悲しくて流れてる涙じゃないのよ?」
「え、でもでも・・・止まらないんです。なんか、こう言うの初めてで。自分にも出来る事があったんだって分かったら、なんか嬉しくて・・・」
「そうよ?それが嬉し涙。昨日まですごく不安そうな顔だったけど、ずいぶん吹っ切れた良い顔してるわよ?」
そう言ってサンディは、春をまた優しく抱きしめた。
人々は、サンディと抱き合う春と樹精霊達を囲んでさらに喝采を挙げたのであった。
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「ヒャッハー!次に耕されたいのはどいつだぁ!」
土砂とゴブリンの群れを巻き上げながら、大き目の鍬を何度も地面に振り降ろし突き進むのは農業ギルド長だ。
彼の持つ鍬は精霊武器《農夫の勇気》。
どんな土壌でも一振りで楽に耕す事が出来る鍬だ。
かつて旅人の、ケンタロウ・イサキから聞いた農業機械『とらくたあ』の話をヒントに編み出した技を使い、ゴブリンの群れごと泥沼を豊かな土壌に変えていく。
「おらおらぁ!どんどん来いやぁ!」
右手にスコップ、左手にツルハシを持って恐狼を蹴散らしていくのは土木ギルド長。
彼の持つ得物もまた精霊武器だ。
右手のスコップが《奇跡を掘り起こす者》
左手のツルハシが《星の一撃》
どちらも土木工事で固い地盤を楽に掘削できる能力を持っている。
2人が振り回している大仰な名前の付いた武器は、どれも本来武器として使う物ではないのだが、ケンタロウ・イサキの語った『ファンタジーな武器とその使い方』に感銘を受けて人知れず訓練を重ねていたのだ。
中に棲んでいる精霊も、選んだ主人が悪かったと半ば諦めている始末だ。
「どりゃぁ!どうだ!俺の方が広く耕したぞ!」
「何を言っている!俺の掘削範囲の方が広いだろうが!」
似た技を使うせいか、普段仲が悪い農業ギルド長と土木ギルド長は口喧嘩をしながらも見事なコンビネーションを魅せて、押し寄せる魔人間の群れを次々となぎ倒していった。
「あの二人に×しても、暑苦しいだけでキュンッとしないのよねぇ・・・」
怪我人に簡易儀式を施したポーションを振り撒きつつゴブリンを殴殺したロレインは、遠くで土砂を巻き上げる二人を見ながらぼそっと呟いたのだった。
「飛竜がきたぞぉー!!」
物見櫓から反響の魔法を使って呼びかける魔術師。
戦いは新たな局面へと突入していった。




