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思い出、ベランダ、きっかけ

 幼い頃、もうあんまり覚えていないけれど、隣の家に引っ越してきた家族がいました。


 その家庭には私と同い年の子がいて、お母さん同士がすぐ仲良くなったのもあって、お母さん同士がおしゃべりをしている間よく遊んでいました。


 その子の家は両親が忙しい人みたいでよくうちに預けられてて、ゲームをしたり夕飯を食べたりしていて、気がつくと家族みたいに仲良くなっていたのを覚えています。


 小学生の頃の私はなんというかお転婆で、テレビで見た面白そうなことをすぐやりたくなってやっていました。


 カメラのフィルムケースに入浴剤を入れて蓋を飛ばしたり、シャボン液に砂糖を溶かして食べられるシャボン玉も作ったし、よく覚えてるのはメントスコーラをやったときに洗濯物にかかっちゃってお母さんにかなり怒られたこと。


 いつも隣のあの子がいた。ずっと一緒でいつも一緒。

 でも小学校高学年くらいからその関係を友達にいじられるようになった。

 お前あいつのこと好きなんだろーみたいなのはお互い言われてたっけな。

 そういうのを言われた時あの子はすこし気まずそうにしながらも、それでも夕飯を食べにきたりして、一緒に過ごした。


 クラスも一緒で登下校の道も一緒。

 学校っていう家族が本来いない場所にもいて、本当に一日中ずっと私の目線の先、視界にはあの子がいた。


 中学に上がった時から、小学生時代のこともあってお互いなんとなく気まずくて少しづつ疎遠になっていった。

 特にそれに対してさみしいとか、悲しいなんて思いはしなかった。


 でも隣に住んでいるしお母さん同士は仲がいいから、よくあの子のことをお母さんが喋っているのを聞いていたし、たまに家族同士で食事をした。


 時が流れて、私が高校受験を意識し始めたのは妹が幼稚園に入ってそれまで家にいたお母さんが仕事を始めたことがきっかけだった。


 頑張って私がいい高校に行って、両親を安心させられたら妹の明里の進む道もきっとよくなるはず。そう思って公立の進学校へ進むことにした。


 最終目標はその先の国立大学まで~なんて、よく気軽に思えたものだ。

 毎日の勉強。自分が自分へとかけるプレッシャーに少しずつ溜まる疲労とストレス。それにかなり参っていたんだと思う。


 ある日私は勉強に疲れてしまってベランダに出ていた。夜空を見ながら外の空気を肺に目いっぱい入れる。

 するとたまたまあの子もベランダに出てきて、話をしたことがあった。

 大した話はしていなかったと思う。親がどうしたとか、妹の話もしたかな。そんななか突然言われたのが。


「受験勉強、大変なんだって? 頑張って」


 夜のベランダからじゃはっきりは見えなかったけれど、その横顔はなんとなく赤らんでいた気がした。

 事情を知っていてくれた。

 応援してくれた。


 幼いころから私を知る人がそれをくれた事実に、自分の想像以上に心を軽くしてくれた。

 そのあとそっけなくなって部屋に戻ってしまったのを見届けて私も部屋に戻った。本当にうれしかった。


 それからはただ頑張れるようになった。苦しかったし辛かった。でも頑張れた。それはあの夜があったからだと、私は確信している。


 だから感謝しているし、いずれ何かお礼を言おうと思っていた。

 無事に目標だった高校への進学も決まり。いつその話をしようかと伺っていた。

 のに、タイミングを逃した私は気が付くと中学も卒業して、高校の一年もあっという間に終わっていた。


 学校が違えば生活のリズムも少しづつ違ってくる。隣の家に住んでいるのに全然顔を見なくなった。

 高校は想像より楽しかった。私は入学して初めてできた友達に誘われるがままテニス部へ入って勉強だけでなく、青春も謳歌しようと欲張った。でもそれまでやってこなかった運動部があまりにきつく、さらには日々の勉強。その負担はすさまじく、誘ってくれた友人には謝り倒して部活はやめることにした。


 私には国立の大学を目指すという目標もあったから。



 

 そして高校二年生の春。運動をしなくなった私はジョギングをしていた。


 冬ウエストに溜まった憎き肉、あいつを成敗する。

 つまりはダイエット。

 私は何度もそれをこなしてきたから自信がある。


 少しの節制と適度な運動。睡眠と柔軟。体に適した行動できちんと身体は整えることができるのだ。

 汗ばんだ頬をタオルで拭いていると。見慣れたシルエットが隣の家から出てくるのが見えた。


 運動して火照った頬を春の優しい風が撫でる。

 気が付くと私は声をかけていた。


 あの時のお礼をできるのは今だけかもしれない。私の頭にはそれがよぎっていた。

 カメラを始めているのは知っていたから、モデルなんてどうだろう。

 

 「ねぇ、私のこと撮ってよ」

 

 

ふとした瞬間、今何してるんだろうと考えているときがあった

隣の家でも顔すら見ない

たまに聞こえる物音で存在を思い出したりしていた

きっと求めていたんだと思う

手にしたきっかけを離さぬように

わたしは声を出した

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