第103話 ボーイズトーク──チャラ男とクローンとときどき王冠
カンセル先生の部屋にやって来た俺の手には、ホネチチさんの意思が宿った王冠がある。
「ふぅん。その王冠を作れば良いんだな。お安いご要だぜ」
カンセル先生には詳しい事情を話していない。それでこの反応ということは、王冠のことを知っているのは学園長先生とアルブレヒト女王。
あと、もしかすると母上。このトップ3だけだろう。そして、エリスさんは王冠にホネチチさんが宿っていることを話していない。
つまり、王冠の真の事実を知る者は俺とエリスさんのみ。
「あ、でもよ、リオン。それを使って金儲けとか考えちゃだめだぜ。所詮は魔法。その内に効力が切れちまうからな」
「大丈夫です。金儲けなんて考えてません」
違うことは考えてますけども。
『あの、リオン殿。事情はわかったのですが、これは大丈夫でしょうか……』
ホネチチさんが不安そうな声を出す。
「バレたら俺達は死ぬでしょう」
『ですよね⁉︎ 国を騙そうとしているんですもんね‼︎』
「まぁまぁ。黙ってたら騙したことになりゃしませんよ」
『リオン殿は中々のクズ野郎ですな』
「初めて言われましたが、存外ダメージはありませんね」
『自覚していると?』
「おそらく」
まぁ自分自身が聖人だなんて思ったことがないから、クズ野郎でも、クソ野郎でも、なんとでも思われてもなんも思わんな。
「なぁにぶつぶつ言ってんだ? リオン」
絶賛王冠を作ってくれているカンセル先生に、ホネチチさんの声は聞こえていないらしい。
聞こえたらクローン確定だから、カンセル先生はクローンではない。だから何だと言うわけだが。
「先生。俺の秘密話すんですから、王冠のことも黙っていてくださいね」
自分でも言葉の意味がこじれているのはわかるが、要はお前の相手をしてやるから、今やってることは誰にも話すなという意味だ。
「うぃ‼︎ いいねぇ。マジ恋の話聞けるの、あっちぃ‼︎」
この先生はあんまり俺の言葉を理解する気はないらしい。ま、王冠作ってもらってるし、別にいっか。
「んでんで。リオンは結局誰狙いなん?」
『そうですね。そこは気になります。ホリーでないことは、そりゃわかりますが……』
ホネチチさん。あんた良い歳してガキの恋愛模様が気になるのか。少女漫画とか好きそうなだな、おい。
「誰狙い……と聞かれれば、素直にヴィエルジュと答えますね」
「うぇえええ‼︎ やっぱ、ヴィエルジュ推し⁉︎」
『ヴィエルジュ殿は美しいですものね。リオン殿も凍漬けにされて悦んでおられた』
悦んじゃいねぇよ?
「小さい頃から一緒で、大人になったら結婚するんだろうなぁ、って思ってましたからね。ただ、アルバートに来てから、フーラと婚約させられて、ルベリア王女と婚約させられているんですよね」
一応、ヴィエルジュも王族だけど、そこは喋っちゃいけねぇところ。
『しまいにはホリーと結婚したってわけですね』
「やかましいぞ、王冠。ぶっ壊すぞ」
『さーせん』
「???」
こちらのやり取りにカンセル先生は首を傾げた。
「いえ、先生のグラサンが気に食わないから、ぶっ壊そうと思って」
「情緒大丈夫かよ」
「先生にだけは言われたくありません」
「ご意見きびちぃ」
良かった。カンセル先生がアホで。
「でもまぁ、そうだよなぁ。リオンは王族と婚約してるわけだもんな。家柄てきにはやっぱ、ルベリア王女と結婚ってのが濃厚? でも、フーラとも婚約してるなら……」
「そうなんですよね。俺はヘイヴン家を追放されている身ですから、これが政略的な婚約にはならないんです。それでもやっぱり、多少は気にしますよね」
「えー、じゃあ、フーラと結婚しろって言われればするん?」
「フーラと結婚して夫婦になっても、末長く仲良く暮らしていけると思います。フーラは良いお母さんになるだろうし、産まれてくる子供も、めちゃくちゃ良い子になる自信しかありません」
「めっちゃフーラ好きやん。ルベリア王女だったら?」
「彼女のことはあまり知りませんが、真っ直ぐ芯の通った女性です。俺なんかを引っ張ってくれるでしょうし、良い家族になれると思います」
「んだよ。結局、誰と結婚しても良いってか」
「そうですね。正直、誰としても素敵な家族になれる自信があります。でも、先生の質問に答えるとしたら、やっぱりヴィエルジュです」
「じゃあ、答え決まってんじゃん。さっさと付き合って爆ぜろよ」
「これはあくまでも俺の選択ですからね。ヴィエルジュがどう選択するか」
「いや、目に見えてわかんだろ」
「でも最近、ヴィエルジュに避けられまして」
「好き避けってやつ? 思春期特有のやつじゃん」
「思春期特有というか……なんかそれがヴィエルジュ本来の思いというか……」
「でも、俺から見た感じ相変わらずイチャイチャしてるように見えるけどよぉ」
「最近はまた戻ったと言いますか、正常と言いますか……前みたいにどキツイアプローチじゃなくなって。なんか、距離感が変わったというか……」
「もしかしてあれ? 最初は冗談でやたら近い距離で絡んでたけど、好きなことに気が付いて、ちょっと距離を離すてきな?」
「自分で言うのもおこがましいですが、そんな感じかと」
「なるほど。ヴィエルジュがガチ恋モードに突入したことによって、関係性が後退したって感じかぁ」
「小さい頃から知り尽くしていると思っていたけど、全然知らないんだなぁ、って……」
「なーる。んで、結局、リオンは誰が好きなん?」
「へ? だから──」
「それは狙ってる女ってだけだろ。おめぇの口から好きって言葉が出てねぇぞ」
「……」
確かに、だ。
ヴィエルジュといるのは当たり前で、避けられた時は悲しい気持ちになった。これは好きとは違うよな。
フーラも。一緒にいると楽しいけど、これが好きって感情とは違う。
ルベリア王女に関しても、かっこいいとは思う。でも好きとは違う。
そもそもだ。彼女達は俺がクローンと知ったらどう思うんだ? 気色悪いと思ってしまうのではないだろうか。俺は誰か──レオンのコピー。中身は転生者だけども、その真実からは逃れることができない。
あ、やばい。なんか不安になってきた。
「ままま。リオンもまだまだ若いから、これからもっと出会いがあるし。その女と関係を持つかもだもんな」
こちらが急に無言になったもんで、カンセル先生が慰めるように言ってくれる。
「いやー青臭くて良いわぁ。まじで青春って感じ」
ゲラゲラと笑ってきやがるカンセル先生。
『良いですなぁ、青春』
ホネチチさんが、しんみりと言ってのける。
「そんなカンセル先生の恋ばなは?」
「ほい、リオン。完成だ」
そう言って手渡してくるカンセル先生お手製の王冠。見た目はそっくりである。
「ありがとうございます。それで、カンセル先生の──」
「ほいほい店じまいだ」
そう言って杖をクイっとされた瞬間、俺の目の前に壁が現れた。
これは、廊下の壁?
「あんにゃろ。魔法で強制的に追い出しやがった」
『凄い魔法ですな』
「感心しとる場合ですかっ」
『そんなにカンセル殿の恋ばなを聞きたかったのですか?」
「ありゃ、ぜってぇなんか隠してますよ。あー、ムカつくぅ」
『まぁ、王冠を作ってくれたのですから、ヨシとしましょう」
ホネチチさんの言う通りではある。目的の物は手に入れたのだから良いんだが。
あのチャラ男の恋愛遍歴を聞いてみたかった。




