第102話 王冠を献上せよ──くそ、こうなりゃ……‼︎
ヴィエルジュの尋問により、凍り漬けになってしまったが、フーラになんとか溶かしてもらって一命を取り留めた。
一段落した矢先、学園長先生に呼び出されてしまったとさ。
みんなに俺がクローンってことを伝えたいのだが、なかなかタイミングが合わない。
特にウルティムには、マリンがクローンだったことの照合性を確かなものとしたかったのだが。
しかも、学園長先生からの呼び出しとかろくなことないよなぁ、トホホ。なんて肩を落としながら、アルバートの生徒が宿泊している部屋の中でも、ぶっちぎりに良い部屋を訪れた。
「失礼しまぁ……す」
おそるおそると部屋を訪れると、そこはスィートルームというのにピッタリの広い部屋。畳の香りと、見事なアルブレヒトの景色。
明らかに生徒達とは違う次元の部屋に、アルバートの学園長先生と、アルブレヒトの学園長先生がお茶をしていた。
なるほど。女王様もやって来るから、そりゃ下手な部屋も選べないってな。
「来たか、リオン」
「いらっしゃい、リオンさん」
俺はついつい辺りを見渡してしまう。
「母上は?」
「ライオの容体をみにいった。学園長として……いや、母親として当然の行動だな」
「母親、として……」
ふと、自分がクローンだという事実を思い出してしまい言葉に詰まる。
母上は……父上や他の兄妹達は俺がクローンという事実を知っているのだろうか……。もし知っているのなら、なぜ、今まで隠していたのだろうか。
「リオン?」
俺の反応に違和感を覚えた学園長先生が名前を呼んでくる。
「い、いえ」
まだヴィエルジュ達にも、家族にも相談していないことを学園長先生に最初に打ち明ける気はない。
「いえ……ところで、俺はどうしてこの場に呼ばれたのでしょうか」
尋ねると、俺の質問にはアルブレヒト女王が答えてくれる。
「此度はリオンさんの活躍で事なきを得たと伺っております」
「そんなそんな」
「ご謙遜を。流石はレオンさんの息子、ですね」
ゾワッ──
なんだかわからないが、背筋が凍った。さっき、ヴィエルジュにやられた時のおふざけじゃない、嫌な予感。俺はつい一歩引いてしまう。
「どうかしました?」
アルブレヒト女王が首を傾げる。そりゃ、話している最中に一歩下がれば気にもなる。
「すみません。アルブレヒト女王の美しさを改めて実感してしまったようです」
適当な言葉で茶を濁す。
「あら、今更ですかぁ?」
その適当な言葉を鵜呑みにはしていないだろうが、相手も適当に相槌を打ってくれる。
気のせい、か……?
こんな愛嬌のある人から、さっきの背筋の凍るような言葉、放たれるわけがない、か。
「そこでリオン。あのダンジョンのことを少し聞きたいのだが」
学園長先生が言うと、「そうです」とアルブレヒト女王が続いて言って来る。
「先程、エリスにも聞いたのですが、配信の魔法も届かない場所で鬼に襲われてしまった、と」
あー……確かに、あの場所に入った瞬間、外野の声が聞こえなくなったっけ。あそこはホネチチさんが自ら封印を施した場所だもんな。そういう魔法防止みたいなのもあったんだろう。
「襲われた、というよりかは、俺達が鬼の封印を解いたと言った方が正しいですね」
「確かに。ライオさんのハルバートで封印を解いた感じでしたものね」
そこまでは見えていたらしい。そこから中が見えなかったんだろう、アルブレヒト女王が俺に再度質問を投げてくる。
「そのあと、鬼を退治し、リオンさんが王冠を手に入れたんですよね? そして、鬼を退治したリオンさんは見事に巫女さんと結ばれた、とエリスより伺っております」
「いや、巫女さんとは結ばれていませんが」
「またまたぁ。抱き合っていたくせにぃ」
このこのぉ。なんて、昔の囃し立て方をしてくるアルブレヒト女王。そこからは配信が見えていたんだね。
しかしなんだ。エリスさんは王冠のことは話したが、ホネチチさんやホネコのことは話していないっぽいな。
「まぁ、俺が巫女さんと結ばれたとかは置いておき、ダンジョン内で起こったことはエリスさんから聞いた通りかと」
ホネチチさんのことを伏せておくと、「そうですか、そうですか」と頷くアルブレヒト女王。
「それでリオン。その王冠は?」
学園長先生が尋ねてくる。
「俺が預かっていますよ」
「そりゃいかんな。今すぐにアルブレヒトに献上しないと」
「え……?」
学園長先生の言葉に耳を疑ってしまう。
献上って……引き渡すってこったよな?
「なん、で?」
「冒険者が依頼を受けてダンジョンに潜ったのなら、道中で見つけた物は冒険者の物。だが、あくまでもこれは学園のイベント。アルブレヒト領で見つけたものはアルブレヒトに献上することになっている」
ここに来ての学生縛り。
「随分なお宝だったのでしょうか。ならば、それ相応のお金を支払いましょうか?」
俺の反応に、アルブレヒト女王が気を使って言ってくれる。
いや、金じゃねぇんだよな。
「アルブレヒト女王。リオンは学生ですので、あまり金品をチラつかせるのはやめていただきたい」
お。腐ってもアルバートの学園長。教育者の鑑みたいな発言。
「リオン。明日にはアルブレヒト女王に献上するようにしろ」
しかし、こっちの事情を知らない学園長先生は、俺にとって都合の悪いことを勧めてくる。良くも悪くも教育者の鑑だね、こりゃ。
♢
つうわけで、呼び出しの理由は王冠を献上しろって話だったわけだけど、どうするか。
国相手じゃ侯爵家なんて権力も霞む。ここは一旦、ホネチチさんと相談して──。
「うぃ、リオンじゃん。お説教は終わったん?」
学園長先生達の部屋から自分の部屋に戻っている途中、学生ノリのカンセル先生とばったり会う。
このチャラ男、俺が呼び出しをくらつていたことを知ってやがったのか、煽るように言ってきやがる。
「今、チャラ男と喋ってる暇はないんで。アデュー」
「ちめてぇぇ。せっかくの旅行なのにテンション奈落かよぉ。語ろうぜー。恋ばなしよーぜぇ」
こいつ、本当に先公なのか?
「恋ばなならゴーレムちゃんとしといてください」
「ゴーレムちゃんマジ雌だからさ。雄と恋ばなさせてくれやー」
信じられるか? これでシラフなんだぜ。
「雄のゴーレムを作って恋ばな──」
そこで俺の脳裏に雷が落ちる。
良い事思いついちゃったもんね。
「良いっすよ先生。恋ばなしましょ」
「まじ⁉︎ いぇー‼︎ アルバートの奴等二軍陰キャばっかで恋ばなできなかったんだよ」
それは教員の話だろうか。少なくとも先輩達の中には一軍陽キャがいるような……いや、あれは一軍陽キャじゃなく、ただの狂った人達、か。
「恋ばなって正直恥ずかしいじゃないっすか。こっちが恥ずかしいことをするんだから、それ相応の頼みがあるんですけど」
「頼み──?」




