第100話 復活のホネ
奥の部屋はあの時と変わっていない。
ベッドには巫女装束に身を包んでベッドで眠っているホネコの姿があった。
こいつのことだ。近づきでもしたら、「グッモーニン☆」とか言って起きて来そうで怖い。
でも、そんなことはなかった。なんだか安らかに眠っているように見える。
「ん?」
なんかを大事そうに抱えて寝てやがるな。
それをまじまじ見る。
「婚姻届けかよ」
確かに書いた。書いたよ。でも、ありゃママゴトで……でも、こいつからしたら夢が叶った瞬間だったのかな。だったらまぁ、書いてやって良かったと思える自分がいる。
「ホネチチさん。ホネコは治るんですか?」
『上手くいく保証はありません。ですが、ホリーはヴァンパイアの呪いを受けたまま。どちらにせよ、その呪いから解放してやりたいのです』
上手くいく保証はない。もしかしたら俺がホネコにトドメをさす形になるかもしれない。
ホネチチさんの気持ちはわかる。生き返るにしても、眠るにしても、ヴァンパイアの呪いを消したい。それはホネコも同じ気持ち。
ただ、俺としては生き返らなかった場合、夢見の良いものじゃない。
「あ、の。リオン様」
思い悩んでいると、隣からエリスさんが声をかけてくれる。
「私もキュアをかけます。だから、その、大丈夫です。リオン様なら」
まさかエリスさんからそんな言葉を貰えるとは思いもしなかった。エリスさんからすれば、寝起きで会っただけのガイコツだってのに。
「共犯者になってくれるんですね」
「きょ!? そ、そそそ、それは、えと、あの」
「あはは。冗談ですよ。でも、エリスさんがそう言ってくれただけでも嬉しいです」
それだけで自分が行動に出る勇気がわく。
上手くいかなくても、エリスさんのせいになんかしない。
いや、自分のせいにもしない。
ホネコは治る。
自分に言い聞かせ、ホネコへ俺の魔力を送る。
「……」
送る、送る、送る。
『キュア』
送っている途中、有言実行でエリスさんが回復魔術をかけてくれている。
キュアキュアキュア──
「いやいや回復過多でしょ」
アニメ声でツッコミを放ちながら起き上がる巫女装束の女性。
長い黄色の髪の毛に艶様な雰囲気を纏わせた彼女は──
「ホネ、コ?」
尋ねると、ニコッと愛想の良い笑顔で微笑んでくれる。
「お久しぶりです、リオンさん」
「はは……は……」
良かった……どうやら魔人化を治すのに成功したらしい。
『ぉ、おお、ホリー……我が娘、よ』
王冠だからわからないが、ホネチチさんが人の姿なら泣いていたことだろう。そう思える声色。
そんなホネチチさんの気持ちを知ってか知らぬか、ホネコは、「なんですー?」とこちらに駆け寄って来る。
「ホネと思っていた嫁が、こんなセクシーな女でドキドキしちゃいましたー?」
「いや、まぁ……」
正直、その通りなため、反論できねぇ。
「んなことより、感動の親子の再会を果たせよ」
「親子の再会?」
キョロキョロと見渡すと、ホネコはエリスさんの前に立つ。
「ま、まさか、お母様!?」
「いや、どう見ても……」
ちげーだろうが。
そう言おうと思ったが、同じ黄色の髪色で、雰囲気も少し似ていたため、強く否定できなかった。
「や、やや、わ、私はエリス、です……」
「わかってます。ちゃあんと覚えてますよ、エリスさん☆」
お茶目に言ってのけたあと、こちらにマジな質問を投げてくる。
「それでリオンさん。どこにわたくしの両親がいるのでしょうか?」
「もしかして、聞こえないのか?」
王冠をホネコの方へ差し出す。
『ホリー……』
ホネチチさんの呼び声にホネコは反応できないまま、王冠を手に取る。
「これはお父様がしていた王冠……」
「声は聞こえないか?」
「声?」
なんのことだろうと戸惑うホネコへ、『ホリー、聞こえぬか?』と今一度ホネチチさんが呼びかけた。
「なにも聞こえません。もしかして、お父様が?」
どう声をかけて良いかわからず俺は頷くことしかできなかった。
『やはり私の声が聞こえるのは私の魔力と共鳴できるクローンの方々のみ。いくら娘だろうが、クローンでなければ声は聞こえないということですな』
「なにかホネチチさんとホネコが会話できる方法はないでしょうか」
そう言うと、ホネコの方が首を横に振る。
「リオンさんの心遣い、感謝致します。でも、お父様が王冠としてでも生きているというのであれば、娘として喜ばしいことです。それ以上望めば、それこそ神の怒りを買うでしょう」
『そうですな。本来ならもう死別していたのに、こうしてお互いが生きていることを確認できた。それだけでも喜ばしいことです』
ああ……この親子はどこまでも前向きなんだな。生贄にされても、魔人化されても、長い年月封印していても、親子で会話ができなくとも……それでも嬉しそうに前を向いて歩ける。
『それでリオン殿、頼みがあるのですが……私の管理をお願いできないでしょうか』
「でもそれはホネコの方が良いのではないですか?」
『いえ、私が誰かの手に渡るのは危険です。なんせクローンを生成し、魂の移植までできますからね』
それだけ聞くと本当に神を冒涜した禁呪だな。そんなもんを管理するとか嫌だけど、でも、声が聞こえるのが俺とエリスさん──。
ふとエリスさんを見る。
ぶんぶんぶんと思いっきり首を横に振られてしまった。
ですよねー。
「わかりました。俺が管理しますよ」
本当ならホネコが持っておくのが良いのだろうが、声が聞こえた方がなにかと都合が良い。
『ありがとうございます』
こうしてやばい王冠の管理を任されることになってしまった。




