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60 鬼熊
鬼熊という妖怪がおります。
長野県木曽谷に伝承があり、年老いた熊が化身したものだといわれています。
鬼熊は力がとても強く、猿などは手の平で押しつぶしたといい、夜更けに人間のように直立歩行で里に下りてきて、牛馬を捕えては山に持ち帰って喰らったといいます。
享保年間のはじめ。
鬼熊が捕まえられたことがあり、その皮を広げたところ畳6畳分もあったといいます。
鬼熊を仕留める場合は、大木を井桁に組んだのち、藤蔓で巣穴をふさいで弓矢で射つと、鬼熊は行き場を失って穴から出てくるので、そこを鉄砲で仕留めるのがよいとされていました。
この鬼熊。
矢が飛んでくると穴の中から叫びました。
「ヤだなあー」
・ヤだなあ=矢だな=イヤだなあ
・井桁=井の字の形に組んだもの




