3-10 独りのお仕事
「討伐完了。消失確認っと」
その日の夜、大悟は昼間に見かけた中学生の夢の中に入り込んでいた。
昼食後、秀人と別れたあとに、大悟たちは例のごとく街の調査に赴いた時に、夢魔に蝕まれている人間を発見したのだ。かなり微弱な反応だったため、夢魔のカケラだというのが岬の見立てだったが、中学生の夢の中にいたのは、予想通り大した力を持たない夢魔のカケラだった。
調査の際にもう一人夢魔に蝕まれている人を発見したので、岬はそちらのほうに向かっている。そちらのほうも大した力は感じなかったが、相対的に向こうの夢魔のほうが強そうだということで、そっちは岬に任せたというわけだ。
岬に見守られることなく夢魔と対峙したのはこれが初めての経験だったが、大悟はとくに問題なく使命を果たせた。
(いや、初めてではないか……)
大悟自身の夢の中に巣食っていた夢魔をやっつけたときは、岬の手を借りずに夢魔を退治した。とはいえ、あのときは何も考えなしに無我夢中で倒したから、実質ノーカウントみたいなものと言っていいだろう。
現実世界に戻ってきた大悟は、自室のベッドの上で一息ついた。
(あいつはもう終わってるかな)
大悟は自力で他人の夢に侵入できるようになったため、わざわざ岬の家に泊まることもなくなった。よって、今日は自室からターゲットの中学生の夢の中へと侵入した。
(とりあえず連絡しておくか)
岬にメールを送ると、すぐに返信が来た。どうやら岬もたった今、夢魔を退治したようだ。
(それじゃあ寝るか)
仕事を果たした大悟は、枕を高くして今度は自分の夢の中へと潜ったのであった。
翌日の月曜日、予鈴が近づいているにもかかわらず、薫はまだ来ていなかった。
「九曜さん、今日も休みなのかな……」
そう岬が呟いた瞬間、教室のドアが開き、薫が姿を見せた。
薫は先週の金曜日にお見舞いしてきたときよりも、一目でわかるほど顔色がよくなっており、なんというか憑き物が落ちたような晴れやかな表情だった。
その表情を見て、心配事が一つ消えた大悟たちは胸を撫で下ろしたのだった。
そんな大悟たちの視線を感じたのか、すぐさま薫がこちらへとやってくる。
「心配掛けてすまないな。もう大丈夫だ」
それは普段通りの、大悟のよく知っている薫の声音と表情だった。
まだ「アスタロト」様の問題が残っているとはいえ、薫が戻ってきたことで日常が戻ってくるんだ。
――このときはそう思っていた。




