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彷徨い歩く第十話

よろしくお願いします。

 見る者がいれば、全くの無拍子で放たれたかに見えた一閃。

 接触の瞬間、魔力を集めて強化した脚部の力で跳躍し、同時に掬い上げる様にブラッディ・ヘルハウンドの首を刎ね飛ばして着地した漆黒の騎士の胸中は、初陣を勝利で飾ったにも関わらず、何とも言えない陰鬱な感情で満たされていた。

 心を占めるその多くが前途に対しての不安感であり、先の戦闘での失態から来るものだ。

 漆黒の騎士という体が如何に強くとも、戦い方を誤れば直ぐに危機に陥るのがこの世界なのだ。

 経験が浅いから仕方がない等と言い訳をする事は出来ない。

 再び体を失った時、次も漆黒の鎧の様に新しい身体を手に入れられるとは限らないのだ。

 次は本当に死んでしまい、恭司であった魂は消えて無くなってしまうかもしれないのだから。


 「……? コレ……ハ……」


 魔獣の群れとの戦闘を終え、自身に異常が無いかを確かめる漆黒の騎士は、自身の魔力が僅かながら増加している事に気が付いた。

 漆黒の騎士にとって、その魔力量は身体能力の高さに直結し、魔力が増加したという事実は、漆黒の騎士が強化された事と同義である。

 自らの目的を果たすため、歓迎すべき事態ではあるのだが、何故魔力が増加したのかが分からない。

 魔力量の上昇は、魂を持つ生命体が生きて時を重ねるほどに増加する傾向が有るとされている。

 つまりは長生きした生命体ほど高い魔力を備える事になるのだが、今回の魔力増加はこの例に当てはまらない。

 先ほどの戦闘に要した時間は僅か数分であり、この短時間に魔力が増えるのであれば、これまで過ごした時間でも体感できるほど魔力が増加しなければおかしい。

 他に考えられる理由としては、魔力の消費と回復を繰り返す事だ。

 漆黒の騎士は、その身体を駆動させる為に魔力を用いる事から、僅かでも身体を動かす度に魔力を消費する。

 しかしそれは、消費した次の瞬間には回復しているほど僅かであり、体感するのも難しい。

 それは戦闘時の様に、魔力密度を変化させて動いても変わらない事から、戦闘行為が原因というのも考え難かった。

 確かに動く度に消費と回復を繰り返しているので、魔力増加と無関係では無いのだろうが、やはりこのタイミングで突如体感するほど増加するというの考え難いのだ。

 これらの可能性は、過去の漆黒の騎士に経験が無い事からも確かな筈である。

 ならば一体何故、突如魔力は増加したのか?

 現状考えられる要因は、やはり魂喰らいの力だろう。

 それは殺害した生命から魔力や知識を吸収出来ると思われる力だが、ヘルハウンドを殺しても魂を捕食する為の戦場といったような空間に、精神が移行する事は無かった。

 漆黒の騎士としては、魂を持った生物を殺す度に魂だけの空間に移行し、捕食を行う事になると考えていたのだが、人と魔獣では勝手が異なるのだろうか?

 魔獣も魔力を有する以上、魂を備えた存在のはずだが……と、そこまで考えた漆黒の騎士は、失念していたモノを思い出す。

 後ろ足を失い、捨て置いても何れ果てる命であろうが、まだ息のあるヘルハウンドが一匹残っていた事を思い出したのだ。

 虫の息とはいえ、魔獣の存在を無視して思案に耽っていた自身の迂闊さを恨めしく思う漆黒の騎士。

 つい先ほども反省したばかりであるというのに、このザマであるのだから言い訳のしようも無い。

 周囲を確認すると、既に息絶えたヘルハウンドの死骸の他に、猛然と疾走したまま頭部を失ったブラッディ・ヘルハウンドの身体が、勢いのついたまま洞窟の壁に激突し、周囲を血で赤く染めていた。

 地面に転がるブラッディ・ヘルハウンドの頭部を一瞥し、地に伏したまま荒い息をしているヘルハウンドの元に近づく漆黒の騎士。

 この期に及んでも媚びるつもりは無いらしい。

 地に伏したまま犬の様に唸り声を上げ、自らを威嚇するヘルハウンドに、妙な感心を抱きつつも、漆黒の騎士はその剣で首を刎ねる。

 自らの魔力量に集中して命を奪った瞬間、僅かに……本当に僅かだが、それでも確かに魔力量が上昇した事を漆黒の騎士は感じ取った。

 やはり魂の戦場へと精神が移行する事は無かったが、確かに魔力の吸収が行われたのを体感する事が出来たのだ。

 魔力以外は何も吸収できなかったが、やはり命を奪う事で魔力等を吸収するのが魂喰らいの力なのかもしれない。

 吸収出来るモノの種類やその条件、魂の戦場へ移行する事の意味と条件など、分からない事はまだまだあるのだが、それでも自らの特性を理解する事が出来たのは僥倖だ。

 自らの不甲斐なさばかりを痛感させられた戦闘だったが、一応の成果も得られた事に、漆黒の騎士は気を持ち直すのだった。


 ヘルハウンドの毛皮や牙は、武器や衣服を作る際に用いる事が出来る。

 その為回収して町で換金する事も出来るのだが、漆黒の騎士は既に十分な金貨や宝石を所持しているので、その場に捨て置く事にした。

 実際には解体の知識が無く、荷物をこれ以上増やしたくないという事に加え、換金するにはメリエルの住民とのコミュニケーションが必須である為、それらに不安の残る漆黒の騎士では、換金する事が難しいという実情もあっての判断だった。

 もっとも、その意味では金貨や宝石と言った物を持ち歩いても、同様の理由で意味が無い気がしていたのだが。


 地面に転がしておいた頭陀袋を回収した漆黒の騎士は、一度ルヴォルフの隠れ家に戻り、金銭の代わりに装陣器の杖を持って来るべきかと考えていた。

 この世界で身の安全を確保するには、より強くなる必要がある。

 金銭は有れば便利だが、命あってのモノであるし、使える見込みの無い現状では持っていてもあまり意味が無いだろう。

 加えて単独で複数の敵と戦う経験を積む為にも、直ぐに外へ出るのではなく、しばらくは隠れ家を拠点にし、洞窟内で戦闘経験の取得と、魔力向上に努めた方が良いのかも知れないと考えていた。

 少なくとも、先の戦闘のような無様を曝す事が無くなるまではと。


 目的を果たす為には、自身の強化が必須である。

 そう認識した漆黒の騎士は、更なる力を得る為に新たな魔獣を求め、その足を再び洞窟の奥深くへと向けて歩み出した。




 そして数日の後、地竜の洞窟には、とある噂が付き纏う事になる。



 『彷徨う騎士』



 薄暗い洞窟内を、魔獣の血肉を求めて闊歩する、悪魔の様な姿をした漆黒の騎士は、今も新たな獲物を求め、地竜の洞窟を彷徨っている。


ありがとうございました。

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