其の一・死神になるには
この話は、高校時代にとある小説雑誌に投稿し、失敗した作品のリメイク版です。気まぐれ追加予定。お気軽にお読み下さいませ。
世の中なんて、理不尽だ。
そう、いつだって。
だから自分は、今でも落ちこぼれ。
「こうしてみると、空ってカラフルなんですねぇ」
「暢気ってことは余裕なんだな、お前」
自分より大きい鎌を片手で担ぎ、遠くを眺めるようにして呟く少女を睨み、まだ若い青年が同じように鎌を担いでそう返した。
片やメイドのような黒のエプロンドレス、片や目深フードをかぶった、これまた黒いローブ姿。
そしてメイド服の少女は、重そうな鎌を持ちながらちらりと相手を見てぼそぼそ言う。
「……余裕でしたら、今、輝水さんはここに居ませんよね」
「そうだな、香月」
げんなりとした表情で、輝水と呼ばれた青年は頷く。
香月と呼ばれた少女は、まったく危機感の無いままに首をかしげた。
「最終試験が魂200個ですかー。……うーん、多いんですか、それって」
「多いんだ」
「でもこうして見ていると、すぐ集まりそうですけど。だってこのカラフルな色の透明な珠って全部、魂ですよね?」
「そろそろ、殴っていいか?」
グーを作って低く問う輝水。
そもそも、目の前の香月という少女は来た時から色々とおかしかった。
「嫌です。輝水さんのそれ、めちゃ痛いですから」
「そういう意味じゃねぇぇっ!!!」
ごん!と容赦なく本当に香月の頭を殴る輝水。
目の前の少女は、最初からおかしかった。
『……あなた、誰ですか?』
カンカンカンカン、と音が響く。そして少女は居てはいけないはずの場所に立っていた。
『お前、俺が見えるのか』
『はい。……そこどいてくれませんか』
進めません、と言われ、彼は少し後ろへ下がった。
ゴオオオオ、という音が聞こえ始める。時間はもうわずか。
そして一歩前へ進み、彼女は言ったのである。
『あなたでもいいです。妹に伝えて下さい。――「ごめんね」って』
そして、時は訪れた。
――ギィィィィィィ!!!!
非常に嫌なブレーキ音が辺りに響く。
しかしその時には、一つの命が散っていたのだった。
――自殺というのは、大体がろくな事に繋がらない。
特に列車事故は、多大なる犠牲をもたらすものだ。
『お前がした事は、許されない』
冷たく言い放たれ、香月はきょとんとした。
『生きている多くの人間に、要らぬ苦痛を強いた。その罰により、お前は神から見放された魂となった』
このまま落ち続けていくか、それとも償いをするか。どちらかにしろと言われて。
『何で償わなくちゃならないんですか?』
彼女は問うた。何も分からないかのように。
中間地点であるこの場所は、冥界。
ここで更に落ち続ければ、魔界へ繋がるという。
当然魂は変質し、二度と転生を遂げられぬ悪魔や魔物となるのだ。
電車に轢かれて死んだ香月に、まっとうな道はもはやない。
『では、お前が最後まで憂いていた妹がどうなっているか、知りたいか』
はっと香月は驚く。目の前にスクリーンが現れたのだ。
『……陽香!?』
そこに映るのは、有名進学校に進学することが決まっていた仲の良かった妹の姿。
だが瞼は赤く腫れ、両親に心配されていながらもその言葉を聞こうとはしていない。
両親は相変わらず自分の事はどうでもいい……否、今となっては忌々しささえ感じているだろう。
<補償問題まで残してくれて……!死んでも迷惑な子だったわ!>
<何も出来ないくせに、問題を起こすことだけは出来たからな。陽香、もうあんな姉の事は忘れるんだ。お前の人徳で、予定通りの中学にも行けるようになったんだぞ>
<お父さんもお母さんも……どうしてお姉ちゃんをそんな風に言うの?お姉ちゃんが死んだ方が良かったの!?>
<もちろんよ。あんな子、居たってしょうがないもの>
猫なで声の母親の、気持ち悪い声。
<私たちは、お前さえいればいいんだ、陽香>
――死んでも愛されない、私。
香月はふっと微笑んだ。
『もういいです』
『いいのか?』
『陽香が私を気にしてくれた、それだけでいいんです。あの子だけは、私の救いでした』
死後も態度を変えなくて良かった、と香月は安堵して目を閉じる。
直後、何故か痛みを心臓の辺りに感じた。
『……っ!?』
『お前の処遇が決まった。死神となり、命を奪うその意味を知るまで、苦しみ続けるがいい』
初めから影だけだったその存在が遠ざかる。
どんどん痛む心臓。霞む視界。
死んでも尚苦しいなんて、と思いながら、香月は消えつつある影へ手を伸ばす。
『ま、って……わたしは………』
どうして、償いをしなければならないのか、まだ聞いていないのに。
だが、意識はどんどん薄れ、気付いた時には。
『目覚めたか、死神ナンバー42731番、香月。お前にはこれより、試験を受けてもらう』
見知らぬ寝台の上に寝ていて、見下ろしたのは死ぬ前に見た男の姿。
黒いフード、ローブ姿の彼の言葉を無視して、香月が問うたのは全く違う事だった。
『妹に――陽香に、ちゃんと伝えてくれましたか?』
『は?……あ、ああ』
『良かった。じゃあ、おやすみなさい』
返ってきた答えに安堵した香月はまた眠ろうとするが、直後頭を殴られた。
――ごん!
『あいったあああ!?』
頭を押さえて飛び起きる。
『寝るんじゃねえ。……お前は今すぐ着替えて、鎌を受け取るんだ、香月』
低くドスの効いた声に、起きるしかないか、と諦めた。
『…………はい』
痛かったのは頭だけで、他は何ともない。
そして着替えた服は――メイド服だった。
『うわあ、可愛い!私こういう服にあこがれてたんです!』
キラキラと目を輝かせる香月を、この頃には既に呆れた目で彼は見ていたという。
『あ、そういえば忘れてました。あなたのお名前は?』
『…………死神ナンバー4598。輝水だ』
これが、死神となった香月のいきさつであった。




