表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の心得  作者: 宮原 桃那
1/6

其の一・死神になるには

この話は、高校時代にとある小説雑誌に投稿し、失敗した作品のリメイク版です。気まぐれ追加予定。お気軽にお読み下さいませ。

 世の中なんて、理不尽だ。

 そう、いつだって。

 だから自分は、今でも落ちこぼれ。



「こうしてみると、空ってカラフルなんですねぇ」

「暢気ってことは余裕なんだな、お前」

 自分より大きい鎌を片手で担ぎ、遠くを眺めるようにして呟く少女を睨み、まだ若い青年が同じように鎌を担いでそう返した。

 片やメイドのような黒のエプロンドレス、片や目深フードをかぶった、これまた黒いローブ姿。

 そしてメイド服の少女は、重そうな鎌を持ちながらちらりと相手を見てぼそぼそ言う。

「……余裕でしたら、今、輝水きすいさんはここに居ませんよね」

「そうだな、香月かげつ

 げんなりとした表情で、輝水と呼ばれた青年は頷く。

 香月と呼ばれた少女は、まったく危機感の無いままに首をかしげた。

「最終試験が魂200個ですかー。……うーん、多いんですか、それって」

「多いんだ」

「でもこうして見ていると、すぐ集まりそうですけど。だってこのカラフルな色の透明な珠って全部、魂ですよね?」

「そろそろ、殴っていいか?」

 グーを作って低く問う輝水。

 そもそも、目の前の香月という少女は来た時から色々とおかしかった。

「嫌です。輝水さんのそれ、めちゃ痛いですから」

「そういう意味じゃねぇぇっ!!!」

 ごん!と容赦なく本当に香月の頭を殴る輝水。

 目の前の少女は、最初からおかしかった。



『……あなた、誰ですか?』

 カンカンカンカン、と音が響く。そして少女は居てはいけないはずの場所に立っていた。

『お前、俺が見えるのか』

『はい。……そこどいてくれませんか』

 進めません、と言われ、彼は少し後ろへ下がった。

 ゴオオオオ、という音が聞こえ始める。時間はもうわずか。

 そして一歩前へ進み、彼女は言ったのである。

『あなたでもいいです。妹に伝えて下さい。――「ごめんね」って』

 そして、時は訪れた。


 ――ギィィィィィィ!!!!


 非常に嫌なブレーキ音が辺りに響く。

 しかしその時には、一つの命が散っていたのだった。



 ――自殺というのは、大体がろくな事に繋がらない。

 特に列車事故は、多大なる犠牲をもたらすものだ。

『お前がした事は、許されない』

 冷たく言い放たれ、香月はきょとんとした。

『生きている多くの人間に、要らぬ苦痛を強いた。その罰により、お前は神から見放された魂となった』

 このまま落ち続けていくか、それとも償いをするか。どちらかにしろと言われて。

『何で償わなくちゃならないんですか?』

 彼女は問うた。何も分からないかのように。

 中間地点であるこの場所は、冥界。

 ここで更に落ち続ければ、魔界へ繋がるという。

 当然魂は変質し、二度と転生を遂げられぬ悪魔や魔物となるのだ。

 電車に轢かれて死んだ香月に、まっとうな道はもはやない。

『では、お前が最後まで憂いていた妹がどうなっているか、知りたいか』

 はっと香月は驚く。目の前にスクリーンが現れたのだ。

『……陽香はるか!?』

 そこに映るのは、有名進学校に進学することが決まっていた仲の良かった妹の姿。

 だが瞼は赤く腫れ、両親に心配されていながらもその言葉を聞こうとはしていない。

 両親は相変わらず自分の事はどうでもいい……否、今となっては忌々しささえ感じているだろう。

<補償問題まで残してくれて……!死んでも迷惑な子だったわ!>

<何も出来ないくせに、問題を起こすことだけは出来たからな。陽香、もうあんな姉の事は忘れるんだ。お前の人徳で、予定通りの中学にも行けるようになったんだぞ>

<お父さんもお母さんも……どうしてお姉ちゃんをそんな風に言うの?お姉ちゃんが死んだ方が良かったの!?>

<もちろんよ。あんな子、居たってしょうがないもの>

 猫なで声の母親の、気持ち悪い声。

<私たちは、お前さえいればいいんだ、陽香>

 ――死んでも愛されない、私。

 香月はふっと微笑んだ。

『もういいです』

『いいのか?』

『陽香が私を気にしてくれた、それだけでいいんです。あの子だけは、私の救いでした』

 死後も態度を変えなくて良かった、と香月は安堵して目を閉じる。

 直後、何故か痛みを心臓の辺りに感じた。

『……っ!?』

『お前の処遇が決まった。死神となり、命を奪うその意味を知るまで、苦しみ続けるがいい』

 初めから影だけだったその存在が遠ざかる。

 どんどん痛む心臓。霞む視界。

 死んでも尚苦しいなんて、と思いながら、香月は消えつつある影へ手を伸ばす。

『ま、って……わたしは………』

 どうして、償いをしなければならないのか、まだ聞いていないのに。

 だが、意識はどんどん薄れ、気付いた時には。

『目覚めたか、死神ナンバー42731番、香月。お前にはこれより、試験を受けてもらう』

 見知らぬ寝台の上に寝ていて、見下ろしたのは死ぬ前に見た男の姿。

 黒いフード、ローブ姿の彼の言葉を無視して、香月が問うたのは全く違う事だった。

『妹に――陽香に、ちゃんと伝えてくれましたか?』

『は?……あ、ああ』

『良かった。じゃあ、おやすみなさい』

 返ってきた答えに安堵した香月はまた眠ろうとするが、直後頭を殴られた。

 ――ごん!

『あいったあああ!?』

 頭を押さえて飛び起きる。

『寝るんじゃねえ。……お前は今すぐ着替えて、鎌を受け取るんだ、香月』

 低くドスの効いた声に、起きるしかないか、と諦めた。

『…………はい』

 痛かったのは頭だけで、他は何ともない。

 そして着替えた服は――メイド服だった。

『うわあ、可愛い!私こういう服にあこがれてたんです!』

 キラキラと目を輝かせる香月を、この頃には既に呆れた目で彼は見ていたという。

『あ、そういえば忘れてました。あなたのお名前は?』

『…………死神ナンバー4598。輝水だ』

 これが、死神となった香月のいきさつであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ