【18】キールの正体
――――雨上がりの炊き出しが行われる中、テントの裏でひっそりと立っていたローウェンを見付ける。
「ローウェン、ここにいたの?」
「……デイルは何も聞かないの?俺のこと」
「話してくれるなら聞くけど」
「……俺はね、混魔で間違いないよ。角はないけどね。その異質性は分かるみたいだ」
「イスキオス自体異質性の集まりだ。気にすることじゃない」
「ははっ。だからかなぁ、ここにいるのは」
「ローウェンはどうしてイスキオスに入った?」
「魔族と人間の混血であるがゆえに小さな町で隠れ住んでいた。けど優しかった魔族の父親は魔族を恐れた町の人間に騙され殺され、町の連中は魔族を殺したことで領主から大金と褒美を得た」
ひどい話だな。
「その後さらに町の住民は金欲しさに母親も殺し、待っていたのはおぞましい虐待。だがそのスキルゆえに死ぬことはなく、さらにスキル肉体改造を使ったことで町ごと住民を皆殺しにした」
「それがシリアルキラーの名の発端か?」
「そうだねぇ。俺はその際にサイコキラーに目覚めたヤバいやつ。その後は好き勝手に殺しまくったが、ある日……出会ってしまったんだよ。うちの総帥にね」
「それでイスキオス入りか」
「そ。俺が恐くなった?」
「まさか。でも兄ちゃんじゃなくて俺でいいの?」
「ふふ……っ、そうだね。あの人は俺の憧れだけれど……君は放っておけないからね」
「さすがは保護者のひとり、分かってる」
「はっはっはっ」
「だからこれからもローウェンは俺の部下だし仲間だ。ジルたちにとってもな」
「ま、あんな熱烈ラブコールを受ければ師匠としても付き合ってやってもいいかな」
「ああ、そうしてやってくれ」
※※※
炊き出しを終えてキャンプに戻ったみんなに、まず紹介しておかないとならない。
「えっと……実は協力者が来てて。ルキは先んじて魔法で加わってくれた。ルキも修行の旅で出会った魔法使い。それから……」
2人、新たに合流する。
「ジルは知ってると思うけど俺の世話役みたいなものだったキールとその友だちのナル」
「その、友だちってのはちょっと」
「まぁまぁいいではないですか、キール。私はネクロマンサーをやっております」
「それにしても世話役って……デイルってお坊ちゃんだったの?」
アンジュの疑問も分からなくはない。
「まぁ、実家については色々とあってな」
それとなーく話題をそらしておく。
「この3人に合流してもらったのは、この先の魔王四天王第1席との戦闘用だ。ギルドが掴んだ情報によるとアンデッド使いだ」
「なのでネクロマンサーの私が最大限お役に立てるかと」
「だけどアンデッドって浄化で何とかなるんじゃないの?」
「確かにアンジュさんの言う通り浄化も効きますが倒す有効打としては時間がかかる、倒した後により浄化が必要になるのです」
「そっか……確かに攻撃魔法じゃないから」
「そこで私の出番です。みなさんには火魔法や物理でアンデッドを破壊していただきます」
火魔法は俺やルキが担当するからほかのみんなはとにかく物理をたくさんぶちこむ係だ。
「そして私がアンデッド使いがアンデッドを使えぬようリンクを切っていきます。最終的に勇者にアンデッド使いを倒していただきたい」
「だけど……その」
「疑問があればどうぞ、勇者ジル」
「ネクロマンサーとアンデッド使いは違うのか?」
「ほぼ同義……ですが、あれはアンデッド使いですよ。確実に。ネクロマンサーと言うのはただアンデッドを使うわけじゃありませんから」
その気になれば契約のリンクも切れちゃうすごいやつらだと覚えておけばいいだろうか……?
※※※
魔王城に近付くにつれ魔王領の現実が色濃くなってくる。
「何処もかしこも荒れている」
「そうね……ジル。これが魔王領の今。誰もがみんな飢えに苦しんでいる」
リリアが沈痛そうにそう漏らす。
「たらふくご飯を食べられるのは魔王軍やその幹部だけ。飢えから逃れるためにみな魔王軍に入る。魔王軍に入れる実力のないものたちは飢えるのみ」
想像以上のブラックさだな。これが世界の営みのため……そう言われたところで納得できるかと言われれば否だ。
「みなさん、アンデッドの気配が濃くなってきました」
ナルが告げれば、遠くから多くの軍勢が近付いてくる。
「あれ、全部アンデッド!?」
アンジュが身震いする。
「そのようだ。しかも……ほとんどが魔族じゃないか?」
「ええ、デイルさま」
キールが頷く。
「どうやら魔王軍に与すれば食っていける……そんな甘い状況ではないようです」
「どう言うことですか?」
リリアが首を傾げる。
「アンデッドにすれば食費の節約になるでしょう?」
「そんな……まさか……」
「そのまさか。あのアンデッドのどれだけが魔王軍に仕官したものたちか。はたまた飢えで死に絶えたものたちか」
「ひどすぎる……っ」
「だからこそ解放してやるべきです」
ナルが告げる。
「分かった。俺たちの進む道はひとつだ」
ジルが剣を掲げる。
「行くぞ!」
『『『お――――っ!!!』』』
アンデッドの軍勢が迫り来れば、その中央にいかにも幹部の出で立ちの魔族がいる。
『我こそは魔王四天王第1席。お前たち、勇者一行を撃ち取れ!裏切り者のお姫さまと共にな!』
それはリリアのことをを言っているのか。
「待って!私は裏切ったわけじゃない!裏切ったのは魔王軍の方よ!」
『何だと?』
「魔王軍に仕官したものたちをあなたはこんな風に……」
『我は彼らが望んだ通りにしてやったまで。もう飢えることもない。死ぬこともない。心行くまで魔王軍として働けるのだぁっ!あーはっはっはっ!』
「ひどすぎる……っ」
リリアが悲痛な声を上げる。
『さぁ、お前たち……やれ!』
『『『ウオオオオオオォォォッ』』』
「リリアは後衛に下がってくれ」
「ええ、ごめんなさい。ジル」
決戦の時が来た。
「ルキ、魔法で援護するぞ!」
「ああ、デイル!」
そして後衛ではアンジュが浄化魔法を。クレアとクロウが支援魔法を駆使してくれる。
ジル、ルディさん、ローウェンはアンデッドたちの身体を破壊していくがまたすぐに復活してしまう。
「お任せを。今リンクをひとつひとつ解除していますので」
「ああ、頼むぞナル!」
復活するアンデッドも徐々に少なくなっていく。
『そんな……我がアンデッドが!しかしこれならどうかな……吸血種だ!』
「愚かな」
そう漏らしたのはキールだ。キールの目が赤く光る。
「従いなさい、お前たち……」
そう告げた途端、吸血種たちが微動だにしなくなる。
『ど……どうなっている!』
「私……ヴァンパイアロードを前に逆らう吸血種なんていませんよ」
「あーんっ、やっぱりいいですねぇ~~っ」
そして案の定キールの正体にテンションが上がっているナル。今、戦闘中だぞ。
「ナル、彼らのリンクを切れますか?」
「はーい、キールさん。お任せあれー」
ナルが告げれば、吸血種たちがバタバタと倒れ地に沈んでいく。
「リンクが切れたから去っていったのですよ」
「それだけで見放されるだなんて。どれだけアンデッドたちに人望がないのでしょう」
ナルがクスクスと笑う。
「さて、吸血種たちは我が手勢」
「リンクが切れたのと同時に新たに契約、結んじゃいましたよー」
つまりはアンデッド使いは全ての手勢に裏切られたわけだ。そして完全にこちら側に寝返った。
「それならみんな仲間ってこと?」
アンジュが浄化をやめ、ナルに近付く。
「そう言うことですねー」
「ならもう浄化は必要ないよね!みんな一緒に、がんばろう!」
アンジュがそう告げればアンデッドたちがウオオオオオオォォォッと沸き立つ。
「おや……聖女はアンデッドたちにも人気みたいですねぇ」
ナルがクスクスと笑う。アンジュ、最強になってきたぞ!?
「さて、残るはお前だけだ」
ジルがアンデッド使いに剣を向ける。
『ま……待て!待ってくれ!もしも魔王軍に寝返るのなら飢えるのに困らない至高の待遇をやるぞ!』
つまりアンデッドとして働かされるってことじゃないか。
『『『そんなのごめんだよ!』』』
満場一致であった。
「さて、そろそろお時間のようです」
ナルがそう告げれば、アンデッド使いに群がるアンデッドたち。
『やめろ!やめろおおぉっ!』
しかしアンデッドたちは止まらない。アンデッド使いはアンデッドたちによって地の底へと引きずり下ろされていく。自らが道具として使ったアンデッドたちによって。
「終わったのか」
「ああ、ジル。だけど最後に魔王が残ってる」
「そうだな、デイル。魔王に……会わないとな」
ジルの言葉にリリアは沈痛そうに胸を押さえる。
最後の決戦の時は間近に迫っている。




