【17】リリアとの再会
――――エルフの森を後にした俺たちは遂に魔王領国境の街へ辿り着いた。
「何だ……これは」
ジルが言葉を失っている。
荒れ果てた土地、ボロボロの家屋、痩せ細った魔族たち。
「これが魔王領だよ」
ここまでの案内人を務めてくれたローウェンが告げる。
「俺は人間領で育ったからここまでとは知らなかった」
合流したルディさんも沈鬱そうな表情だ。
「魔王軍はとてもじゃないけれどここの暮らしとは駆け離れていた」
「そうだな、クレア。つまり魔王軍と言うのは一般の民衆たちの犠牲の上に成り立っていたんだ」
みなで愕然としていれば遠くから誰かが走ってくる。
「あなたたち」
あの赤髪……間違いない。彼女は。
「勇者一行ね。私はリリア。魔王の娘です」
「魔王の娘……!?」
ジルが驚愕する。
「ここにはあなたがほっするものなんて何もない。あるのは飢えた民だけよ」
「それなら見ただけでわかる。でも何故ここに魔王の娘がいる」
「それは……ここを、襲ってほしくないの」
「襲っているのは魔族の方じゃないか」
「それでもここの民には何の罪もない」
「それは分かる。だがそれで君は何をしたいんだ?」
「私は……私はここに国を作りたいの!」
国……それが彼女が導きだした答えと言うことか。
※※※
荒れ果てた土地の片隅で勇者一行はリリアと向き合う。
「現状、食料も富も全て魔王軍が独占しているの。そして領土は荒れ果て、民は痩せ細っている」
「だからこそ君は国を作りたいと」
「そうね、勇者ジル。私はこの魔王領を国家として運営することで民を飢えさせず凍えさせず豊かにしたいと思っているの」
「……」
「夢物語に聞こえるでしょ?お父さまにも鼻で笑われ城を追い出されたわ」
「それでこんなところに……」
「ええ……せめて私に何か出来ないかと思って」
「素晴らしいわ!」
アンジュが立ち上がる。
「なら、炊き出しをしない?」
「炊き出し?」
「みんなで狩ったお肉とスープで炊き出しをするの!こう言うのは出来ることからみんなでコツコツ、よ!」
「いいの……?あなたたちにとっては敵なのよ?」
「それでもここで苦しんでるひとたちは敵じゃないもの。いつか魔王領が国になったら、人間の国々ともきっと仲良くできるよ!」
「聖女アンジュ」
「アンジュって呼んで」
「俺もジルでいい」
「ありがとう……ありがとう、アンジュ、ジル。みなさん」
リリアが俺たちに深々と頭を下げてくる。
※※※
この土地の植物などほとんどない。素材は俺たちの保存食と狩った魔物の肉を加えたスープである。
最初は人間たちがいることで地元のひとたちは近寄りがたい雰囲気だったのだが。
「みなさん。みなさんのために用意した炊き出しです!どうか今日だけでも食べていってください!」
「そうだぞ、食える時に食え」
リリアと角を出したルディさんの呼び掛けでスープを受け取ってくれる住民たちも増えてきた。
「ありがたい」
「ひめさまが我々のために」
「ありがとう、ありがとう」
種族が違えども、感謝されると言うのは悪くないものだな。
※※※
――――その夜、俺たちのテントにはリリアも来ていた。
「今日はありがとう、みなさん」
「お礼なんていいよ、リリア」
「困った時はお互いさまよ」
「うん、ジル、アンジュ」
あの時答えられなかった答えをリリアは手に入れた。それが世界の運営にどう影響を及ぼしてくるのやら。
「本当はね、ハルベルトがいればよかったんだけど」
「ハルベルト?」
ジルが復唱する。その名前にぴくんとなったのはルディさんものようだ。
「ハルベルトはかつて魔王国を国にしようとして左遷されたのよ。でも人間だった奥方は亡くなり、子の行方も知れない」
「そんな……」
「だけどね、私のはハルベルトの受け売りだけどその意思を継ぎたいって思うの」
「ああ、リリア。俺は応援するよ」
「私もよ!」
リリアを励ます2人を見ながら、ルディさんは複雑そうな表情を浮かべる。
「そんなこと……俺は知らなかった」
「ルディさん。ハルベルトが何を思ってるのかは俺も知らないよ」
(でも……イスキオスにまで入ってもやりたいことがあったんだろ)
その念話にルディさんは複雑そうな表情を深める。
(わかんねぇよ……そんなの)
「でもこの魔王領の現状を見たら……俺も姫さんのことを応援したくなった」
「なら突き進むだけだよ」
「お前はそれでいいのか?」
(全てはイスキオスの美学のために。それは変わらないのだから)
そう念話を送ればルディさんは呆れつつも良くも悪くもないと言う微妙な表情だった。
※※※
――――明朝。
ごうごうと集落を包む炎。押し寄せる軍勢にリリアが悲鳴を上げる。
「どうなってるの……?これ?」
『どうもこうも、裏切り者には関係のないことよ』
襲来した魔王軍の筆頭に立つのは腕が6本の魔族だ。
「私は裏切ってなんていない!」
『勇者パーティーなんぞと仲よろしくつるんでいるではないか』
「これは……対話よ!この魔王領を国にして民が飢えずに済むように!」
『知らぬなぁ、そんなこと。魔王領の民は我らが魔王軍のための糧となり命を、魔力を、全てを差し出すのが務めと言うもの!』
「そんなの違う!間違っている!」
『どこがだ?この悲鳴を聞くが良い!みな我らのために命を捧げられて僥倖であろう!』
完全に狂ってやがる!
「リリア」
「……デイルくん?」
「この凶行を止めるには戦うしかない」
「俺もそう思うよ、リリア」
「ジル……」
「何かを守るためには戦うしかない。リリアの守りたいものは何?」
ジルの意思の強い眼差しがリリアを穿つ。
「この魔王領の、民」
「なら民を苦しめる元凶を絶つしかない!」
『さて……死ぬ覚悟はできたか』
「俺たちは死なない!生きてお前たちに勝つんだ!」
『いい気概だ。この魔王四天王第2席が受けてたとおかぁぁっ!!』
次の瞬間魔王四天王が膨張し巨大化する。
『ウオオオアァァァッ!!』
「ジル、バーサーカーだ!油断すれば持っていかれるぞ」
「分かった!」
ジルが剣を構え、みな臨戦態勢を取る。
『ウオオオアァァァッウオオオアァァァッウオオオアァァァッ』
「く……っ!一撃一撃が重い!」
「ジル!」
くそ、ジルの援護に行きたいがこちらも相手にする数が多い!
「どきな!」
その時敵の魔族を払いのけジルの元に駆け付けたのは。
「ローウェン!?」
「力任せに奮ってんじゃない!」
『ウオオオアァァァッ』
ローウェンの剣が魔王四天王を叩き飛ばす。
『ぎ……ぎざまぁ……まざか……混魔……?』
え……ローウェンが?
「だったら何」
『ぎ……聞いたことが、ある……赤茶けた髪に混魔……シリアル、キラー!』
なるほど、イスキオス入りしても不思議じゃない経歴だな。
「それが何だ!ローウェンさんはお前のように民を虐殺なんてしない!俺の自慢の師匠だぁっ!!」
『ぐぼあぁぁぁぁっ!!』
ジルが魔王四天王にトドメを刺す。
「ジルに続け!残党を片付ける!それからルキ、来い!」
「は……っ」
遂にバックヤードからルキが姿を現す。
「あの炎を消してくれ」
「任せろ。特大禁忌魔法で天候を操ってやる」
相変わらずすごい魔法を知ってるなぁ。
魔王軍の残党を蹴散らし、集落には恵みの雨が降り注ぐ。
「今、治療をしますから」
アンジュはクレアとクロウと治療に奔走している。
「私、結局何も出来なかった」
雨に濡れながらも目尻からも涙が滲んでいるのだと分かる。
「リリア」
「デイルくん……私は結局役立たずでした」
「そんなことはない。出来ることならある」
「私に何が出来るんですか……?」
「生き延びたひとたちを励ますことも立派な務めだろ。今アンジュたちがやっているように」
「はい……私、行ってきます!」
涙を拭いリリアが走っていく。そうやってきっと彼女も強くなっていくのだろう。




