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初めての授業

『ああ、何故こんなことになった……。俺は馬鹿だ』


 途轍もない面倒事を背負い込んでしまった。


 適当に受け流して、解任されたなら、それはそれで良かったのに……。


 始めから、俺が教師になってる事自体おかしな話なのに、売り言葉に買い言葉で変なことになってしまった。


 何が「未来の生き方を教えてやる」だ?


 引き篭もってネトゲーする方法でも教えるか?……でも、パソコンがないしな。


 いかん、思考が斜め方向に向かってるな。


 また深い溜め息が出る。溜め息ばっかりだ、俺の人生。


 仕方なく、休憩時間の間に前任の残したメモにより、彼らが受けるべき授業の続きを確認する。


 俺は頭の記憶媒体から、彼らが使っている教科書を使用領域にロードする。



 さて、説明しよう。


 ロードとは何か。


 俺は身体強化が得意だ。


 身体強化は、単純に筋力や反射神経を強化するのが一般だ。


 それは常に魔力を使い続ける身体強化は、持続力の無い普通の魔法使いがそれ以上の使い方を発展させてこなかった結果によるものだ。


 しかし、膨大な魔力を持つ俺は、長期に亘って身体強化の持続が可能な為、独自の研究によって記憶領域の強化を研究した。


 結果、俺は一度読んだ本や文章、見た映像、聴いた音楽等を、脳に記憶ファイルとしてストックできる方法を編み出した。


 当然、常に維持魔力はいるのだが。


 それにより、俺の頭の中には王宮図書館、魔法学園の図書館、その他モロモロで7万冊、使い魔から送ってきた視覚データで5万時間近くの内容がストックされている。


 魔法を覚えていない、使えない、知らないという言葉を俺はよく人に言うが、正確にはそれを常に使用できる状態にしていないと言うだけで、使おうと思えばファイルを取り出して、使用領域にロードすれば、そこに書かれた呪文を読めば使うことが出来るようになる。


 使用領域とは魔力を使わないでも維持できる通常の記憶領域、つまり普段の俺の記憶力の範囲で、あまり容量には自信が無い。


 だから普段は殆どのファイルはしまってあって、使うのは日常生活で直ぐに役に立つものだけしかロードしていない。


 子供の体ということもあって、それほど記憶力が悪いという訳で無いのだが。


 俺はこれを脳内パソコン、略して脳パソと呼んでいる。


 世界中のメディア(使い魔)から送られてくる映像を好きなときに見れ、読みたいときに読みたい本を読める。


 正に娯楽の究極物。パソコンを俺はこの世界で手にしたのだ。


 まあ、残念なのが漫画がない。それに、あんまりおもしろくない映像や本が殆ど、音楽もクラシックや民族音楽……、いや、贅沢は言うまい。



 授業が始まり、教壇に立って、魔法の歴史の講義を始める。


「それでは72ページを開いて…………という訳で、女神リアの祝福を受けたアーサーは、12人の使徒と共に国を平定し、初代国王となった。それが時に起元暦1012年のことであった。

 さて、ここまでで質問は?」


 俺は、黒板に各登場人物の関係説明図を描きながら、質問がないか尋ねる。


 皆が唖然とした顔でこちらを見ていた。


『あれ?なんか間違ったかな?』少し不安になる。


「あの」


 一人の生徒が手を上げる。


 席順と名前を頭の中で照合する。


「はい、マーシー君」


「え~と、何故あなたは教科書を持たないで、それでいて教科書の内容を一言一句間違えないで話せるんですか?確か魔法もまともに使えないと言うことでしたが……」


「授業に関係ないことですが・・いいでしょう。質問に答えます。

 どちらかといえば、その質問はアソロさんが一番に聞いてくると思ったんですが」


 ガタッ、突然自分の名前を出されて、アソロが腰を浮かしかける。


 どうやら、俺がまともな授業をするので、驚いてフリーズしてたようだ。


 俺は彼女に微笑みかけながら、


「簡単な話です。先程の休憩時間に覚えました」


 クラスの中が騒然となる。


「うそだよな?」「冗談だろ?」「ほんとうに!?」


「嘘でも冗談でもありません。歴史だけでなく、魔法学、魔物学、錬金学、この学年で使う教科書は全て覚えてきました。これで1年間、あなた方の授業を受持ったとしても問題ありませんが……」


「嘘よ!そんな事できるはずが無いでしょう!」


 やっぱりアソロさんでした。


「嘘ではありません、お疑いなら何でも教科書から質問をどうぞ。歴史にこだわらずともいいですよ?」


 彼女は慌てて机の中から各種教科書を取り出し、いろいろな質問を俺に投げかけてくる。


 その全ての問いに答える。


 途中で授業の終了のベルが鳴ってしまう。


「おや、いけませんね。流石に学校になんて通ったことが無いから、時間間隔だけはまだ慣れないな」


 俺は黒板を消し始める。


 俺は彼女の方を振り向くことなく話す。


「アソロさん。もういいでしょう?あなたが、俺のことを気に食わなかったとしても、授業さえできれば満足じゃないんですか?」


 彼女は黙して何も言わない。


 俺は振り返り、皆の目を見ながら言う。


「それに、皆にも言っときますが、俺が在任中、普通の授業も当然していきます。でも、さらに言ったように、俺にしか出来ない講義も必ずします。さしあたっては、そうですね」


 俺は日数を頭の中で計算する。


「3日後」


 指を3本立てて、


「3日後に、俺にしか出来ない授業を行います。休まないでくださいね。恐らく、あなた達の人生の岐路になると思いますので」


「それでは……」


 そうして、俺の人生初めての授業は終わった。


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