戦う理由
召喚されたその場では、それなりの距離があったし、パニックになっていたので、全く気が付かなかった。しかし、落ち着いて近くで見た王女様は、どえらい美人だった。
「ど、どどどうぞ。」
椅子を引く手が震える。そんな俺をみた王女様は、クスリと笑う。そんな姿も、可憐だった。このまま、穏やかに会話が進むかと思われたが、そうは問屋が卸さない。クスクスと笑っていた王女様は、ふと思い出したようにこちらを睨む。先ほどの意地悪のことを、根に持っているらしい。まずい。
「先ほどは失礼しました。今のは我らの世界の、歓迎のあいさつです。」
「なわけないでしょ!」
お、口調が崩れた。ごまかせないかー。残念無念。と、いかんいかん。こんなことしている場合ではない。本題に入らなければ。
「それで王女様、どのようなご用件でいらっしゃったのですか?」
王女様訪問の意図を尋ねると、姿勢を正しこちらをまっすぐ見つめる。先ほどとはまた違った、目力のつよさにたじろぐが、視線はそらさない。
「単刀直入に言います。あなたたちには、戦いのパーティーから外れてもらいます。」
まさかの、戦力外通告だった。まさか、戦いが始まってもいないのに、追放宣言を受けるとは思いもせず、頭が真っ白になる。王女様に、問う。
「どういうことですか、私たちというのは?私たちは、戦うために召喚されたのではないのですか?」
当然の疑問。戦うために召喚しといて、戦うなとは来れ如何に。言葉を探す王女様。しばしの沈黙。
「そうですね。戦いから外れてもらうのは、Bランク以下のスキルを持った者たちです。理由は、戦死の危険性があるからです。」
「それは、前田たちも同じでしょ?」
命を懸けるのは、前田たちも同じことだ。現代への帰還というのは、俺も目的を同じくしている。ならば、一部の人間だけに、命を懸けさせられない。それに、呼び出したのは、そちらじゃないか。
「わかっています。」
視線に込めた、言外の言葉をくみ取る王女様。
「本当に、申し訳ありませんでした。本来、平和な世界に生きるあなたたちを、このような場所に連れ出してしまった。ですが、聞いてください。BランクとAランクには、致命的な違いがあります。それは、モンスターがもつスキルです。モンスターはその強靭な肉体と引き換えに、スキルの最高ランはBとなります。もちろん、経験法な冒険者であれば、Cランクスキルで、Bランクスキルを持つ魔物を倒せます。しかし、あなた方はそうではない。」
王女様が、何を言いたいのかは分かった。つまり、Aランク以上のスキルを持つものは、モンスターに負けることが、ほぼあり得ないのだ。それは、フィジカルの差を考慮しても、スキルの差が絶対的なのだろう。だから、ほぼ死ぬことはない。だが、俺たち、Bランク未満の者たちは、そうではない。たぶん簡単に死ぬ。だから、王女様は、後方にいろと言いたいのだろう。でも、納得は出来ない。それは、戦いたいということではなく、なぜあなたが、ということだ。
「でも、王女様。俺たちは、捨て駒にしたって、痛まないでしょ。なんでわざわざ。」
そう聞くと、王女様の顔がゆがむ。
「私は、異世界の勇者を召喚することは、反対でした。それは、自分の世界でのことを、自分で解決できなければ、この先問題が起こるたびに、別世界に頼ってしまう。それは、とても健全とは言い難い。だから、反対でした。そして、あなた方をみてから、この思いは、さらに強まりました。あなた達は、子供すぎます。」
おそらく同年代だろう、王女様にそう言われて、固まる。
「ああいえ、悪い意味ではないんです。その年で、そのような幼い表情ができるのは、きっと元の世界が、それを許せるほど、優しい世界だったから。そんな世界に生きるあなた方に、戦いをさせるのは許されることではありません。本来であれば、前田様も戦いの場に赴かせることはしたくありません。ですが、それは私のエゴです。王女として、この国を守るために、勇者を派遣しなければなりませ。折り合いをつけられるのは、Bランク以下までです。」
納得した。つまり、この人はただ優しいだけなのだ。俺たちにも、この国の人にも死んでほしくない。だから、召喚しといて、戦うななんて、意味の分からないことをいうのだ。でも、意味は分からなくても、気持ちはわかってしまった。だから、俺は戦おう。勇者として。
「すいませんが、そのお願いは聞けません。ほかのやつは、なんというかはわかりませんが、俺は戦います。」
王女様の顔色が変わる。おそらく、Dランクのやつが戦うなんて言い出したからだろう。でも、もう気持ちは変わらなかった。
「だから、おれが死なないように、最高の教育を授けてください。死んでほしくないなら、守ってくださいよ。王女様の力を使って。」
情けない言い分だった。俺はこの人に、悲しい顔をさせたくはなかった。だから、誰も死なせない。俺も死なない。そんな、魔王討伐を果してみせると、決意した。
「なんで、そんなこと言うんですか。ますます、死なせたくないじゃないですか。だから、あなたを最強の勇者にして見せます。」
ここが、俺の旅の始まりだ。




