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 じいちゃんが死んだ。ばあちゃんが死んでから十年が経った、高校を卒業した春の事だった。

 僕はまたこの家に戻ってきた。二人のいない家の整理を行う為だった。僕は向き合わなければならなかった。じいちゃんの死。そして改めてばあちゃんの死にも。

 一人暮らしの為に発見が遅れたが、相当な異臭から近隣の住民が気付いた事でようやくじいちゃんは発見された。ばあちゃんと同じく、あの襖の中で座ったままで。

 

 

 また不自然な死だ。警察は自然死と言っていたがきっと違う。

 二人に何があったのか。あの黒い球が無関係だとは到底思えない。

 でも何故。あれは一体何なんだ。結局ばあちゃんが死んでから今に至るまで何も分かっていなかった。唯一の手掛かりは、ばあちゃんが死に際に遺した奇妙な言葉だけだった。


 気にする必要はないのかもしれない。全ては偶然で自分が見たものは幻で、勝手に自分の頭の中で組み上げた出来の悪いホラーなだけだとそう思いたかった。

 だがその考えを捨てきれないのは、自分も関係者かもしれないという怖れがあったからだ。

 

 ーー本当は、僕が襖の中で死ぬはずだったんじゃないか。


 幼いあの日、本当に死ぬはずだったのはばあちゃんではなく自分だったのではないか。考えては捨てを繰り返した思考にまた舞い戻っていた。

 目の前には二人がいた襖がある。だが開ける必要はない。この中にはもう何もない。整理の必要もない。それに、開けてもしまたアレがいたら……。

 僕は襖からすっと目を逸らし部屋を後にした。


「太一、じいちゃんの本いるか? お前、本好きだろ」


 父さんから声をかけられ見ると、じいちゃんがあの襖に入れていた本がどさっと床に詰まれていた。襖の中で亡くなった事もあり、警察が調べる際にどかして別の場所に置いていたようだ。


「まあ、警察が言うには一部衛生的に処分が必要なものもあって廃棄したものもあるみたいけど、上の方に積んであったのは問題ないらしい。無理にとは言わんが、もし興味があるなら」


 そう言われて僕は詰まれた本達に目を向ける。小さい頃にはまるで興味のなかった活字に今や抵抗はまるでなく、むしろ好んで読むようになっていた。

 僕は詰まれた本達に手を伸ばした。見る限り時代小説が多く、正直自分の好みとは異なっていた。


「ん?」


 その中からふいまだ新しめの大学ノートが出てきた。ぱらぱらとめくってみると、しっかりとした手書きの文章が現れた。一目でじいちゃんの字だと分かった。他にも同じようなものはないかと見てみたが、ノートはどうやらこの一冊だけのようだった。


「ありがとう。持って帰るよ」

「そうか、大事にしろよ」


 父さんからすれば思い出の品として、という意味で言ったのだろう。その側面はもちろんあるがそれだけではない。わざわざ新しいノートを買ってまでじいちゃんがこれを書いたのにはきっと理由がある。それに、こんな表紙を見たら無視できるわけがない。


『太一へ』


 僕はこれを確かめなければならない。 

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