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4時50分

 時刻表を眺めていると、記憶の何処かにひっかかるものがある。少なからずある。

 筆者にとって、そのひとつが450、すなわち4時50分だ。

 青森駅を二本の特急列車が発車する時刻である。

 上野ゆき「みちのく」と、大阪ゆき「白鳥」。

 東京と大阪への直通列車が同時発車する。おそらく東北新幹線開業前の青森駅をおいて他になかったろう。


 北海道旅行で出会った男女が、青函連絡船で本州に渡る。船が青森に着く。ひとりは上野ゆきの「みちのく」へ、もうひとりが大阪ゆきの「白鳥」へ。お互いが列車に乗り込んでから、お互いを見つめている。やがて戸が閉まる。ひとつは583系電車の折り戸。もうひとつが485系電車の引き戸。ふたつの列車が動き出す。ふたりはお互いに手を振る。なにかを叫んでいる。列車はそれぞれの方向へと離れてゆく。お互いの赤と青の列車が見えなくなるまで、ふたりはそれぞれのデッキから離れない。


 などといった情景があったのかどうか。


 ちなみに「みちのく」と「白鳥」は下り列車の青森到着時刻も、一緒であった。

 23時50分。

 上下とも連絡船の接続便が同じだったためであるが、上下とも発車時刻と到着時刻が同じとは、他に例はなかったであろう。


 4時50分発は、津軽海峡を挟んで向こう側の函館駅にもあって、旭川ゆき特急「北海」がそれ。

 時計の針が4時50分を指したとき、海峡を挟んでみっつの特急列車が発車する。その光景を想像するだけで、なんとも雄大な印象がある。


 時刻表の駅構内案内図によると、青森駅はホームが三面あり、1番線から6番線だった。

 のりば案内には1番線と2番線が東北線、3番線から5番線が奥羽線、6番線が津軽線とある。

 列車本数が少ない奥羽線の発着番線が多いのは不思議な気がする。

 一日の列車本数が多いわけでは決してないものの、連絡船の乗換駅だけに、連絡船との接続時刻に列車が集中する特徴もある。


 4時50分前には、上野ゆき特急「みちのく」と大阪ゆき特急「白鳥」の他に、4時53分発の上野ゆきエル特急「はつかり2号」がホームに並んでいたはずだ。どんな並びであったかわからないが、1番線と2番線ホームには「みちのく」と「はつかり2号」が並び、3番線と4番線ホームには「白鳥」が停まっていたことだろう。日によっては5時9分発上野ゆき臨時急行「十和田54号」も並んでいたかもしれない。

 3本の特急が発車すると、5時3分には上野発の寝台特急「ゆうづる1号」、5時8分には「ゆうづる3号」が立て続けに到着する。連絡船からの乗換で混雑していたホームは、連絡船への乗換客で再び混雑したに違いない。

 青森駅が列車で埋まるのは、19時前後、上野ゆき寝台特急「ゆうづる」が立て続けに発車する頃であろう。

 18時50分発の「2号」、18時54分発の「4号」、19時15分発の「6号」、19時20分発の「8号」と次々出てゆく。奥羽線では大阪ゆき寝台特急「日本海4号」が19時23分に出る。ずらりとブルートレインが並ぶ中に、上野からのエル特急「はつかり5号」が19時4分に到着する。

 東北線ホームは1番線、2番線だけでは足りなかったはずだ。


 8時ちょうどは、エル特急「あずさ2号」が新宿を発つ時刻だが、昭和53年10月改正後の「あずさ2号」は甲府を7時35分に出る。8時ちょうどに出るのは「あずさ3号」になった。

 8時ちょうどに出発する列車は他にもあって、新幹線「ひかり3号」とエル特急「わかしお3号」、特急「あまぎ1号」は東京を、エル特急「ひばり3号」と急行「もりおか1号」は上野を、エル特急「くろしお2号」は天王寺を、エル特急「しなの3号」は名古屋を、エル特急「いしかり1号」は札幌を、エル特急「いしかり2号」は旭川を出る。

 わたしの中では、特急「まつかぜ1号」の大阪発が印象に深い。

 13両編成がエンジン音を立てながら大阪駅に停まっている。半日以上かけて九州の博多を目指す。新幹線なら4時間弱で行けるところに。あまりに前時代的であるが、度が過ぎると、神々しさまで備わるものなのかもしれない。


 記憶にひっかかるというより、時刻表で覚えてしまったもののひとつに、旧国名がある。

 国鉄の駅名に都道府県名をつけずに、旧国名を広く採用した理由はよくわからないが、明治後に鉄道駅がたくさん作られるようになったとき、都道府県名より旧国名がまだ馴染みが深かったためだろうか。

 都内にも、武蔵境、武蔵小金井、武蔵五日市などある。武蔵のつく駅名は埼玉県の武蔵高萩、神奈川県の武蔵小杉など東京都にとどまらず広範にあることから、武蔵国が今の都県境界を越えて広範のエリアをひとまとめにしていたことがわかる。

 一方で、大阪府の駅には、摂津富田、河内磐船、和泉府中など複数の旧国名があり、昔は今の大阪府域がもっと細かく区分されていたことがわかる。


 路線名にも旧国名は幅を利かす。

 羽越本線、陸羽東線、磐越西線、上越線、信越本線、総武本線、紀勢本線、播但線、予讃本線、土讃本線、予土線、伯備線、芸備線、日豊本線、筑豊本線、豊肥本線、肥薩線。。。


 国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。


 川端康成の小説「雪国」のあまりに有名な書き出しであるが、子どもの頃、ある人から「雪国は日本を舞台にした小説ではない」と聞かされたことがある。なぜなら「国境の長いトンネルを抜ける」から。島国の日本に国境などない。

 わたしは素直に信じて、小学校で、ある友人にそう話したところ、友人は「その国境はね」と旧国について懇切丁寧に教えてくれた。旧国名を知った忘れられない経験であった。


 今から思えば、「雪国」が日本を舞台にした小説ではないと、子どもに伝えた人の意図がわからない。ただの冗談だったのか、本当にそう信じていたのか、いずれにせよ、「雪国」を一読すれば、それが事実でないことはすぐわかる。

 昨今のネットに溢れる情報も、ちょっと確認すれば、真偽くらいはわかる。

 といったことに通じる話なんだろうなと感じつつ、昔話を思い出したところで、この稿を終える。

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