寝台料金について
令和の今、ホテル代はうなぎ登りだという。
安いニッポンに大挙押し寄せる外国人観光客が一因なんだろうが、宿泊代がかくも高くなると、一方では宿代を浮かすために夜行で移動する需要も増えているようだ。当然であろう。
現在、唯一残る寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」の場合、一般的な「シングル」でも寝台料金は7,700円に過ぎない。昨今の高いホテルに比べれば、リーズナブルである。
昭和53年当時、夜行列車は全国至るところで普通に見られたから、宿代を浮かすにも好都合であった。
寝台料金はどうだったか。
B寝台は次のとおり。
客車二段式 4,500円
電車三段式 4,500円(下段)、4,000円(上段・中段)
客車三段式 3,500円
A寝台となると。
個室 10,000円
下段 8,000円
上段 7,000円
この金額がどの程度のものであったか。
当時のビジネスホテルのシングル料金が東京でも4,000〜6,000円程度で、その他地域では3,000円台が普通だったことを考えると、カーテン一枚で区切られる寝台のお代としては割高な印象がある。
ましてA寝台の料金ともなれば、格式高い、まともなホテル並みだから、移動ついでの宿代にしては手が出にくい価格だったろう。A寝台とは言え、カーテン一枚だけの二段ベッドである。それからすれば、「サンライズ瀬戸・出雲」の個室寝台料金は良心的な価格に思われる。
時刻表ピンクのページには、「指定席・寝台の席番ご案内」がある。
これを見れば、ひと車両あたり、寝台の数がいくつあったかがわかる。
寝台幅52cmの客車三段式が最多で、54席ある。満席の場合、寝台料金の総額は189,000円である。
次いで寝台幅70cmの新型客車三段式が48席で、満席なら、寝台料金総額は168,000円となる。
電車三段式は下段が15席、上段・中段が計30席で、満席では下段67,500円、上段・中段120,000円の総額187,500円となる。
客車二段式は34席、満席では153,000円である。
A寝台は下段14席、上段14席の計28席で、満席では210,000円。
個室は14席で、満席では140,000円である。
寝台料金だけで比較すれば、満席ならA寝台の総額が最も高い。ただ、寝台数が少ないので、運賃や特急券、急行券の収入が減る。国鉄としては、あまり旨味のあるサービスとは言えなかったはずだ。
最悪は個室で、ひと車両当たりでは、寝台料金だけでも最小の売上高にしかならず、特急券や運賃まで含めると、最も稼げない。逆に利用客からすれば、空間当たりの単価では数ある寝台の中で最もおトクであったと言える。とは言え、個室寝台料金の10,000円は高級ホテル並みの高値なだけに、トイレもシャワーもない独房の如き部屋の対価としては、納得感のあるものと言いがたかったであったろう。
ひと車両あたりの売上高は、満席なら寝台の数が最も多い寝台幅52cmの客車三段式が最も大きくなる。ただ、幅わずか52cmの寝台では寝返りも打てまい。三段式だけに、頭も上げられない。そんな設備にビジネスホテル並みのお宝を払うお客は減少の一途であったようだ。国鉄としては、多くの寝台が埋まらないのなら、居住性を改善する代わりに客単価を上げることで、採算に乗せる算段だったものと思われる。
硬い座席でひと晩過ごすくらいなら、狭くとも横になれる寝台がラクなのは確かであろう。
カーテン一枚しかない空間といっても、無様な寝顔を晒すこともない。
ただ、これとて、鉄道車両の中での比較優位の話であって、そもそも何時間もかけて列車に揺られることを移動の選択肢のひとつとするかを問われる時代へと移る中では、虚しい議論もしくは趣味的な話でしかなくなったと思われる。
令和の今、長距離バスは隆盛である。
バスタ新宿へゆくと、便数と行き先の多さに圧倒される思いがする。
昨今の夜行バスの座席の快適性は、昔を思えば格段に向上している。とは言え、座席で過ごすひと晩がベッドに横になるのと同じかと問われると、そうとは言えまい。
豪華なバスは少ない定員の客を乗せて、一台一台に運転手が就く。それなりの規模の都市間では、そうしたバスが連なって夜の高速道を駆ける。
とても不思議な気がする。
東京ー大阪間では、いったい何便の高速バスが走っているか。
なるほどバスなら東京駅と大阪駅だけでなく、新宿、渋谷、池袋、難波、天王寺、郊外など多様な行き先を設定できるだろう。
けれども、夜行バスの便数を考えれば、ひと列車どころではない輸送量がありそうだ。
列車であれば、バスのように一台一台に運転手を確保する必要もない。個室寝台のように、バスではハードルの高い設備も普通に提供できる。
夜行列車の勝算は十分にあるのではないか。
東京ー大阪に限らない。
東京ー東北、東京ー北陸、東京ー九州、大阪ー九州、大阪ー日本海など、かつて多くの夜行列車が設定されていた区間では、相応の潜在需要があるように思われる。
もうひとつ思うのは、サンライズエクスプレスのような個室車両を、昼間列車に使っても面白いのではないか。実際、「サフィール踊り子」など個室をもつ昼間列車はある。
昼間「はつかり」で青森に行って、夜行「ゆうづる」で上野に戻ってくるなどの運用をするのは難しいにせよ、夜行の両端で近距離昼間の特別列車に使うという手はありそうだ。
などと言われても、鉄道会社にはうるさいだけのことであろう。鉄道経営のけの字も知らぬ「てっちゃん」が、わかったような口ぶりで、ただの思いつきを綴ったところで、この稿を終える。




