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64 新たな仲間

 まさかの人物に助けられてしまった。

 彼の後をついて歩きながら、莉愛が警戒心たっぷりに問う。


「あんた、一体何を考えているの?」


 男――デイルは振り向きもせずに答えた。


「しつこいな。言っただろう、キミたちを助けたいのだと」


「もう、だからそれが怪しいって言ってるのよ! 何を企んでるわけ?」


 莉愛の声は自然と荒ぶる。デイルはやれやれと言った風に露骨に肩をすくめると、ようやく振り返った。


「なら、今からでも引き返すかね? 私は一向に構わないが」


 デイルに問われ、莉愛は言葉を詰まらせる。

 正直言って、自分たちだけではこの状況を切り抜けることなどできないだろう。だがこの男が味方だとは限らない。むしろ真紀たちにとっては敵である可能性の方が大きいのだ。


「答えてください。あなたはどうして、私たちを助けてくれるの?」


 今度は真紀がデイルに尋ねる。


「私はただ、組織のために動いているだけだ。それと、エリィが気掛かりだったものでね」


 予想外の回答だ。組織の指示というのはわかるが、デイルの口振りからするとエリィ個人のこともかなり気にしているみたいだ。


「詳しいことはエリィがいないところで話す気はないが」


「それなら、早くあの子と合流しないと。エリィは蓮也と一緒に、私たちを逃がすために囮になったの」


 真紀が言うと、デイルは少しばかり複雑そうな表情を浮かべた。


「あの二人が囮か……まあ、それが妥当だろう。彼らなら簡単にやられることもあるまい」


 そうは言いつつも、どこか心配そうな様子だ。デイルは再び前を向くと、早足に歩き始めた。真紀たちも慌てて彼の後に続く。


 しばらく歩いてから彼は立ち止まる。完全に人通りが途絶え、辺りはしんと静まり返っている。


「ここならいいだろう」


 デイルが杖をひと振りすると、彼の目の前に魔法陣が現れる。その中心から現れたのは黒く、小さな猫のような生き物だった。


「いけ」


 デイルが猫を送り出す。その背中を見送ると、彼はくるりと振り返った。


「まずはあの野蛮な少年を見つけてやる」


「それって香坂くんのこと?」


「名前なんて知らないな。ともかく、彼をここへ連れて来てやろう」


 それからしばらくして、本当に隆弘は現れた。デイルの召喚した猫と一緒にやってきた。


「お前ら無事だったのか」


 彼は真紀と莉愛の姿を見て安堵の笑顔を浮かべている。


「隆弘、あんたは大丈夫なの?」


「さっき町の連中に追われてたんだけど、その猫がさ」


 と、彼はさっきの黒い猫を指さす。猫は片手で顔を洗いながら、大きなあくびをした。


「そいつが、町の奴らを蹴散らしてくれたんだ。で、俺をここまで連れて来てくれたわけだけど」


 言いながら、隆弘が視線を向けたのはデイルだ。見覚えのないイケメンの存在に、隆弘は困惑している。


「誰こいつ?」


 隆弘の問いに莉愛が答えた。


「デイルって人。前にも会ったことがあるわよ。あの、黒いローブの」


「はあぁ!?」


 隆弘は頓狂な声を上げる。彼の声に驚いたのか、猫は毛を逆立ててその場から掻き消えてしまった。


「なんでそんな奴がここにいんだよ!?」


「やかましい少年だな。助けてやったというのにずいぶんな態度だ」


 デイルは不機嫌そうに眉をひそめる。隆弘も少しムッとしたようだが、それでも矛を納めると真紀たちの方に向き直った。


「で、何がどうなってんだよ?」


 隆弘の問いに、真紀と莉愛はそれぞれ顔を見合わせる。とりあえず成り行きを説明すると、彼は納得したようなそうでもないような微妙な表情を浮かべた。


「まあ、何はともあれお前らが無事でよかった」


 言いながら、隆弘はちらちらデイルの様子を窺っている。警戒しているのか、あるいは絶対に仮面の下は不細工だと思っていた相手が、予想以上の美男子だったことに戸惑っているのかもしれない。

 デイルはデイルで以前隆弘に後ろから殴られて、短時間とは言え気絶させられたことがある。あの時の出来事を根に持っているのか、彼もまた隆弘に対していい感情を持っていないようだ。

 それどころか、この男は真紀や莉愛のこともよく思っていないのだろう。


 一応、今の彼は敵として自分たちの前に現れたわけではない。それ自体はありがたいが、彼の真意はどこにあるのだろう。


「あとはあの二人だな」


 デイルはぽつりと呟く。

 蓮也とエリィのことだ。彼らは果たして無事なのだろうか。二人ともボロボロの状態だったから心配だ。


「でも、あなたを信用していいの?」


 真紀の問いをデイルは一蹴してみせる。


「まだ言うか。それはお嬢さんたちが決めることだよ」


「……味方と考えて、いいんだよね?」


「それを自分自身の頭で判断するように言っている。とにかく今は彼らを見つけ出すべきだ」


「その必要はないわ」


 凛とした声が響き、真紀たちは一斉に振り返った。そこに蓮也とエリィがいた。二人とも所々に傷は負っているようだが、命に別状はないようだ。


「蓮也!」


 真紀は蓮也に駆け寄ると、そのままぎゅっと抱きついた。


「よかった……無事だったんだね」


「うわーすんごい熱い抱擁。いくら姉弟とは言えさすがに僕も照れるなぁ」


 なんてことを言いつつ、蓮也は真紀の肩をぽんぽんと叩いている。そして彼はデイルに視線をやると、うんざりとしたように息をついた。


「やだなぁ、会いたくない人がいるよ」


「なんて態度だ。さすがに私も傷つくぞ」


「知らないよ。あんたが傷つこうがどうでもいいし」


 蓮也はばっさりと切り捨てた。エリィはデイルをじっと見つめると、剣呑な口調で問いかける。


「デイル、なぜあなたがここにいるの?」


「キミもそういう態度なのか」


 本当に、少し傷ついているみたいだ。けれどエリィは気にも留めない。


「答えて」


「……教祖様の命令だ」


 エリィは表情を硬くする。デイルは周囲を見渡しながら続けた。


「ともかく、場所を変えようか。ここではゆっくり話もできない」


 それから一行は、町の近くにある森にキャンプを設営する。デイルが周囲に結界を展開して、人間や魔物が近寄らないようにしてくれた。


「聖女は攫われたようだな」


 開口一番、デイルはそう言った。その口調には露骨な失望の色が滲んでいる。


「キミたちはまんまと英雄にしてやられたようだね」


「あんた嫌味言うためにわざわざ僕らに会いに来たわけー?」


 蓮也が刺々しく言い返すが、デイルは気にした様子もない。


「まさか。そもそも私個人としてもエリィが無事ならそれでいいのでね」


 彼の言葉にエリィはジト目になる。莉愛は隆弘の耳元でこそこそと囁いた。


「何あれ、もしかしてロリコン? 見た目はイケメンだけど中身はただの変態じゃない」


「やっぱりあいつってそういう奴なんだな」


 隆弘も莉愛に同意しつつデイルを睨んでいる。


「何者かが聖女を狙っていることには、我々も勘づいていたよ」


 デイルは二人の失礼な発言を無視することに決めたらしい。


「おそらくはそれが英雄であることも、な。だから我々も、先に彼女を保護できないかと画策していたのだが」


「……あ、あの時の蛇!」


 真紀は以前、神殿に現れた大蛇のことを思い出した。


「あの時は、てっきり恵子を襲うために現れたのかと思っていたけど」


「でもってーあれをやったのが僕の仕業なんじゃないかって疑われたけどー」


 不貞腐れているのか、蓮也は隆弘をジト目で見つめる。隆弘はバツが悪そうに顔を逸らした。


「あなたは、誰かに恵子が攫われるよりも先に、あの子を助けようとして」


「だとしてもあんな強引な手段に出るとか何考えてんだよ」


 隆弘は文句を言うが、デイルは無視した。


「まったくなんという体たらくだ。女神に選ばれた者でありながら、その使命も全うできないとは」


 心底呆れかえった調子で言われ、蓮也がムッとしたように口を開いた。


「やっぱり悪口いいに来たわけー?」


「協力をしに来たのだ。キミたちも、英雄から聖女を取り返したいのだろう?」


「……本当に、私たちに手を貸してくれるの?」


 真紀が問うと、デイルは当然と言った風に頷いた。


「英雄がどういうつもりでいるのかは知らないが、聖女は我々のものだ。それを取り戻さねばならない」


「はぁ? てめぇらに藤木をやるかよ!」


「だがキミたちだけで、あの英雄に対抗するのは無謀というものだ。だから私が手を貸してやると言っている」


 隆弘はまだ警戒しているようだが、デイルの言うことは一理ある。自分たちは指名手配されてしまったし、これからどうするべきかのプランもまだない。


「さぁ、選べ」


 威圧的な口調で、デイルは真紀たちを見つめる。


「このまま何もせずに屈するか、私と共に聖女を奪還するか」


 真紀たちは顔を見合わせる。今は藁にもすがりたい状況なのだ。隆弘もそれを理解しているのか、渋々と言った様子の顔をしている。


(他に選択肢はなさそうだし、今だけでも力を借りる他ない)


 真紀はデイルと向き合った。


「わかりました。どうか、お願いします」


 真紀が頭を下げるのを見て、デイルは満足そうに笑うのであった。

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