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39 新たなトラブル

 馬車の旅を続けていた真紀達は、リスタの町に到着した。


「わ、綺麗」


 馬車の窓から外を覗いた恵子が、思わず声を上げる。

 そこには大きな湖があり、青々とした水が美しく輝いていた。周りには色とりどりの花が咲いていて、まるで絵画のような風景が広がっている。


「ここがリスタの町かぁ。確かに、綺麗な場所だねぇ」


 蓮也も感心するように呟き、窓から外を眺めていた。

 小さな町ではあったが道も整備されていて綺麗だし、人々の雰囲気も明るい。

 一行はまず宿を取り、それから町の中を散策することにした。隆弘は恵子と一緒に町を回りたかったようだが、莉愛に首根っこを掴まれてどこかへ連れて行かれてしまった。

 ルクスはこの町の遺跡の調査に向かうらしく、恵子もついていくことにしたようだ。遺跡と言っても丘の上にある小さな祠のような所らしいが、ルクスの話によるとそこには悪魔の力が宿っているらしい。


 蓮也はエリィと合流する為に、待ち合わせ場所へと向かい始めた。真紀もエリィと会う為に、彼と一緒に行動することになった。


「湖の方にお花畑が広がってるでしょ? デートの待ち合わせによく使われている場所らしくてさ、そこで待ってるように言われてるんだよね」


 蓮也はそう言って、エリィが待っているという場所を目指して歩き始めた。

 リスタの町はそれほど広くはなく、すぐに目的地へたどり着くことができた。蓮也は辺りを見回すと、エリィの姿を捜す。けれどそれらしい少女の姿は見えない。


「まだ来てないのかな?」


 蓮也は首を傾げつつも、近くの木陰に移動した。


「そもそも、待ち合わせの日時は合っているの?」


「日付も時間も指定されていないよ。それでもエリィは、僕がこの場所に来たらわかるようになってるって言ってた。ここで待ってればすぐに駆け付けるって言われてたんだけどね」


「何よそれ」


 よくわからなかったけれど、とにかく真紀も彼と一緒にエリィを待つことにした。風が吹くと心地よい涼しさが感じられ、自然の匂いを感じながらうっとりと景色を楽しんだ。


「良いところだね、ここ」


 蓮也が呟くと、真紀は嬉しそうに笑う。


「うん。たまにはこうして、のんびり過ごすのもいいかもね」


 それこそ、この旅はまだ始まったばかりなのだ。

 これから先も色々なことが起こるだろう、きっと苦しいことや辛いことも待ち受けているはずだ。けれど今はこうして、つかの間の休息を楽しむべきなのだ。


「……あ、そういえば」


 真紀はふと、思い出しことを口にした。


「この町にある遺跡には、悪魔の力が宿っているとかって話だけど……あの人達と、関係のある場所なのかな?」


「どうなんだろうね。噂レベルの話みたいだし、それにこの町の遺跡に悪魔……いや、守護者がいたとしても、もうとっくに彼らに回収されてると思う」


 蓮也は少し難しい顔をしながら、空を仰ぐ。


「守護者ってのは、ゲームで言うところの召喚獣みたいなものなんだ。僕も守護者が何者なのかは、よくわかんないんだけど……すんごい力を持った存在だというのは間違いない。深淵の民は、彼らを従えて戦力にしているんだ」


 そしてその力で、彼らは魔女に対抗しているらしい。未だに魔女を倒すことはできていないものの、少しずつだがその力を増してきているとのことだ。


「守護者がどういう存在なのか、何を守護しているのか、僕はまだよく知らない。その辺りのことを説明してもらう前に、僕はあいつらの元を離れたからね」


 蓮也は遠くを見つめながら呟く。エリィに聞けば何か分かるかもしれないが、当の彼女はまだ現れない。

 真紀は湖の方へと視線を向ける。その水面に太陽の光が反射し、きらきらと美しい輝きを放っている。どこか神聖さすら感じられる光景だったが、真紀は心の奥に不安も感じていた。


(遺跡に悪魔が宿っているか……恵子は大丈夫かな)


 ルクスがそばにいるから、さほど心配する必要はない。それは分かっているが、それでもやはり気になるのは事実だった。

 それこそ恵子は深淵の民に狙われているかもしれないのだ。

 やはり自分も彼女の近くにいた方が良いのではないか、そんなことを考えていると、遠くから爆音が轟いた。


「きゃあ!」


 真紀は思わず耳を塞ぎ、音が聞こえた方を振り返る。町の方から黒煙と炎が上がっているのが見えた。


「な、なに?」


「うわーなんだか嫌な予感がするなぁ」


 蓮也も困ったように呟いている。


「行きましょう!」


「うん、なにかトラブルが起きているみたいだし」


 二人は急いで音のした方へと走っていく。と、町の方から悲鳴が聞こえてきた。


「逃げろ! 魔物だ!」


「誰か助けて!」


 そんな声が聞こえてくる。そしてその直後、何か巨大なものが建物の隙間から姿を現した。


「あれは……」


 蓮也が眉を寄せる。その姿は大きなトカゲのようで、鋭い牙が生え揃った口から炎を吐き出しながら町を破壊している。暴れ回る魔物に町の人々は悲鳴を上げていた。


「蓮也、行こう!」


 真紀は杖を構えると魔物に向かって走り出した。蓮也もその後に続き、相手に向けて魔法を発動させた。


「えいや」


 稲妻のような光が走り、魔物の体を貫く。魔物は悲鳴を上げて倒れ込み、真紀もすかさず追い打ちをかける。


「凍り付け!」


 魔物の体は氷漬けになり、完全に身動きが取れなくなったようだった。


「わー姉さん腕を上げたねぇ」


「感心してる場合じゃないでしょ。ほら、すぐに片付けるわよ!」


 真紀が杖を構え、魔法を放つ体勢に入る。蓮也もそれに続き、二人は同時に魔法を発動させようとした。

 だがその時、魔物の体を覆っていた氷が突然砕け散った。


「えっ!?」


 真紀が驚愕の声を上げる。魔物はダメージを受けているものの、致命傷には至らなかったようだ。それどころか怒りに満ちた目をこちらに向けてくると、再び炎を口から吐き出した。


「やば!」


 蓮也は間一髪でそれを避ける。真紀も慌てて後ろに下がったが、完全に避けきることはできなかったようだ。


「姉さん危ない!」


 蓮也が慌てて真紀に駆け寄り、魔法で炎を相殺する。だがその衝撃で、二人は大きく吹き飛ばされてしまった。


「きゃっ!」


「うぐっ」


 真紀と蓮也は地面に転がり、痛みに顔を顰めた。幸い二人とも大きな怪我はしていないようだが、まともに動くことができない。

 魔物は二人に狙いを定め、再び炎を吐き出した。このままではまずい――そう思った瞬間、何者かが間に割って入った。


「もう、世話が焼けるわね!」


 声の主は莉愛だった。

 彼女は杖を振るって魔法を使うと、炎を打ち消してしまう。そこへすかさず隆弘もやって来て魔物を剣で斬りつけた。


「グオォッ!」


 魔物は苦しそうな悲鳴を上げると、隆弘に反撃しようと尻尾を振り回した。しかし隆弘は攻撃を避けながらも冷静に剣を叩き込んでいく。


「莉愛!」


「おっけー、任せて!」


 莉愛が天高く杖を掲げると、空からいくつもの雷が落ちてきた。

 魔物は苦悶の叫び声を上げてその場に崩れ込む。どうやらかなりダメージを受けたようで、動きが鈍っていた。


「さすが先輩達だ! おかげでとどめを刺せるよ」


 蓮也は立ち上がると敵に杖を向けて魔法を放った。どうやら魔力を溜めていたらしく、先程よりも強力な一撃が撃ち込まれる。

 魔物は断末魔の悲鳴を上げると、そのまま動かなくなってしまった。そして黒い霧と化して消滅してしまう。


「ふぅ、終わったね」


 蓮也はそう言って安堵の息を吐くと真紀の元へ駆け寄った。真紀の方にはまだダメージが残っており、地面に座り込んだまま動けないでいた。


「姉さん、大丈夫?」


「……ん」


 真紀が頷くと、蓮也は安堵したように笑った。


「いやーそれにしてもほんと助かったよ。ありがとう、先輩達」


「ったく情けねー奴らだな。俺らがいなかったら今頃どうなってたと思ってんだ」


「その時はその時で何とかしてたとは思うけどね。どうやら僕は、魔法使いとしてとても秀でた才能を持っているようだ」


 蓮也は自信ありげに微笑む。隆弘は若干面倒臭そうな顔になりつつも、それ以上は何も言わなかった。


「にしてもなんなのよさっきの。町の中に魔物が侵入してくるなんて」


 莉愛がぶつぶつと呟く。隆弘も心配そうに辺りを見回していた。


「まさか……どっかに魔女の影でもいるんじゃないだろうな?」


「可能性はあるかもだけど、断言はできないよ。もしかしたら凶暴化した魔物が、たまたま入り込んだだけかもしれないし」


 蓮也は冷静にそう答えた。

 どちらにしろ、この状況は非常に危険だった。もしかしたら他にも魔物が潜んでいるかもしれないし、油断はできない状況だ。


「てゆーか、恵子ちゃんやルクスさんは大丈夫かな? 早く合流した方がいいかも」


 蓮也の言葉に、隆弘はハッとする。


「だよな! あいつらだけじゃ心配だし、さっさと行ってやんねーと」


「あんたが心配なのは藤木さんだけでしょ」


 莉愛がジト目になりながら呟く。隆弘は何か反論しようとしたようだが、莉愛はさっさと背を向けて歩き出してしまった。


「僕らも早く行こう」


「うん……でも、町の人達もパニックになっているみたいだし、それにまだその辺に魔物がいるかもしれないし……大丈夫、かな?」


「今のところ他に魔物の気配は感じないけど、絶対とは言えないもんね。でも町にだって戦い慣れした冒険者がいるはずだし、そこまで心配しなくてもいいと思う。だから早く恵子ちゃん達と合流しよう」


 真紀はまだ少し不安だったが、蓮也の言葉に頷いて立ち上がった。

 そして四人は恵子やルクスのいる町の遺跡へと急ぐのであった。

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