一曲目 姫川 早苗
気付けば私は知らない部屋に横たわっていた。
いや、部屋と言うのもおこがましいかもしれない。
天井も壁も床さえも何かで削って掘ったかのような洞窟みたいな部屋だからだ。
なんで様子が分かるかって?
光源があるからだよ。
私の額に、ね。
ライトを向けたような感じで頭を向けた方に光が放たれる。
だから見える。
試しに顔を手で隠して行くと額を隠すとライトの電源を切ったかのように見えなくなった。
指の間から光が漏れているのか完全な暗闇にはならないけど。
額を手探りで調べてみると三つのツルツルした触感を感じた。
何かが額に埋まっているような感触。
指で叩いてみると硬質な音が頭の中に響く。
驚いて思わず叫びそうになったが叫ぶ事は出来なかった。
理由は分かっている。
目や鼻、唇があるはずの場所にお馴染みの出っ張りを触らなかったからだ。
私は、額に何かが埋まったのっぺらぼうになってしまったようだ。
見えてはいるし、音も聞こえてはいる。
でも、顔にはそんな普通にあるはずの器官がないのが分かった。
私はどうなったんだろうか?
情報を整理しよう。
私の名前は姫川 早苗、18歳。
両親は二人とも国のお偉いさん。
だから、上流社会に片足を突っ込んだぐらいは裕福な家に産まれた。
お嬢様学園に通ってたかな。
中退したけど。
理由があるんだよ、中退せざるを得ない理由がね。
私の好きな事は歌う事。
ジャンルは幅広いかな。
なんでも、歌えれば好きだし。
あー、そうだ。
私ってさ、特殊な能力を持ってたんだよ。
歌を歌ったら周囲に影響を及ぼすんだ。
感動させるとかじゃなくてさ。
歌にもよるんだけど、魔法みたいな力を持ってた訳なんだよ。
例えば、そうだなー。
春の歌を歌えば周囲に植物が芽吹き。
賛美歌を歌えば後光が差したり。
デスメタルを歌えば観客が暴走しだしたり。
まぁ、歌った内容を実現させるっていう能力を持ってた訳だ。
嘘だと思うでしょ?
これが本当なんだから質が悪いんだよ。
そんなスーパーシンガーな私を世界が放って置く訳がない。
国に目を付けられて自由に歌えなくなって世界平和だの、環境再生だの、なんやかんやに引っ張りダコ。
そして、そして………そうだ。
私は変態集団に捕まったんだっけ。
確か、私の事を悪魔だのなんだのって批判してた集団だっけ。
まぁ、狂人集団かテロリストに誘拐されたってこと。
あとは、うん。
首を切られた所までは思い出せた。
………私は死んだと思う。
なら、ここはあの世ってことなのかな?
う〜ん、天上って言葉は似合いそうにないなぁ。
翼の生えた赤ん坊もいなさそうだし。
歌えないし、洞窟みたいだし、地獄にでも落ちちゃったのかな?
目が無いけど見える範囲で分かったことなんだけど。
この身体は人間じゃないみたいだ。
全身は肌色とは言えない灰色。
指は5本あるけど、爪はないしシワもない。
身体付きはスマートって表現しか出来ないね。
これでも女性らしい膨らみとかあったけど随分と中性的な身体付きだ。
産毛や突起物なんて物は無くて、子供が描いた絵のような人型の何かだね。
お尻やその前の部分もない。
う〜ん、鬼にでもなったのかな?
うん?
いや、違う。
何、これ?
私の知らない記憶がある?
いや、情報の羅列?
私は人の頃の私じゃない?
いや、それは分かってるよ。
ダンジョンマスター?
転生?
………は、はは。
嘘でしょ。
前世とはまた別の力を持って異世界に転生ってどんだけ神ってのは私が好きなんだよ。
あー、私は人の人生を終えた後。
また別の世界に生まれ変わったらしい。
ただ、それは人に生まれ変わるんじゃなくて、人を喰らう化け物に生まれ変わっちゃったみたい。
私が生まれ変わったのはダンジョンマスターっていう化け物。
ダンジョンマスターってのはこの世界で数多くあるダンジョンに一体は居てそのダンジョンを運営する存在。
ダンジョンってのは世界から魔力を奪う怪物の総称なんだって。
あ、魔力ってのは、この世界にある特殊なエネルギーの1つらしい。
詳しい事は分からない。
あえて言うなら魔力が私のご飯だって事だ。
世界から魔力を奪う方法はいくつかある。
周囲の自然にある魔力を微量づつ奪い続ける。
ダンジョンの中に敵が入っていればその敵から微弱な魔力を奪い続ける。
そして、ダンジョンの中で死んだ敵を全て魔力に変換して奪う。
他にも奪い方はあるみたいだけどこの三つが主なんだって。
奪った魔力でダンジョンとそのダンジョンを運営するダンジョンマスターは成長していくらしい。
その魔力を数値化した物がダンジョンポイント、縮めてDPなんだって。
でも、そのダンジョンマスターを倒すと奪い続けた莫大な魔力を倒した者が貰えるらしい。
莫大な魔力を手に入れた者は巨大な力を得るらしい。
だから、ダンジョンを狙う敵は大勢居るみたい。
まるで家畜か何かのようだね。
ダンジョンって存在は。
ダンジョンは生き残る為にダンジョンマスターに運営させ、自分は死に難く、効率的にDPを溜め込む為にダンジョンマスターを生み出すらしい。
その化け物の運営に何故か他の世界の私が選ばれたらしい。
はぁ、今はベートーベンの『運命』が頭に鳴り響く思いだよ。
でも、せっかく生まれ変わったんだ。
例え化け物に生まれたとしても私は歌を歌いたいな。
うん、異世界で歌姫を目指すのも良いかもしれない。
異世界なんだから口を生やす技術があると良いんだけど。
まずは、ダンジョンマスターは好きなスキルやアビリティを5つ選んでダンジョンを運営し始めるらしい。
その一覧も頭の中に入ってる。
さて、どんなスキルやアビリティを選ぼうかな?
それよりも、スキルやアビリティって何?




